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明らかに国際ロマンス詐欺被害を受けていると思われる方の記事を偶然発見しました。その方は、幸せそうに相手との国際恋愛、相手のセレブな生活、相手の素晴らしい言葉、将来その人物が日本にやってきて一緒に生活することへの期待などを日々綴っています。
しかも、すでに相手のために高額を何度か送金しているようです。そしてその相手というのが詐欺によく写真を使われている有名人なので、そのラブストリーそのものが詐欺師が作った偽りのものであることが明らかです。見ていると、居たたまらない気持ちにさせられます。こういうブログやSNSの投稿を見つけたらどうすればよいのでしょうか?
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質問者さんのとてもやさしい、見ていられないというお気持ちがわたしたちにも伝わってきました。また、同様の状況に遭遇するネットユーザーの方もおられるかと思います。ここでは、実際にご相談いただいたケースをもとに、質問者さん及びブロガーさんが特定されないように情報の一部をかえながら、CHARMSとしての見解をこちらでお話したいと思います。
結論から言うと、ここで発見者ができることは非常に限られています。今回のケースもそうでしたが、該当する被害者の方のブログもフェースブックも、幸せそうな記事に対するコメントがほとんど見当たりません。この方の投稿に異議を唱えるコメントは受け付けない、コメントされたら即削除という方針であることは容易に推測できます。また、ご注意差し上げたところで、この被害者の方はまだ詐欺師とのラブストーリーのただなかにおり、いわば「中毒状態」であると言えます。そのような方にご注意をうながしたところで、「私の幸せをねたんでいるのだ」と思われるだけです。静観するというのが現状可能な選択肢です。
ここで2つの異なる倫理の問題が存在しています。一つは、許可なしに他人の生活に介入するべきではないということです。忠告を受け付ける気持ちがないと思われる被害者の方の生活に通りすがりのネットユーザーや頼まれてもいない被害者支援組織が侵入する余地はありません。被害者の方の身内やお友達や同僚などリアルで知っている相手であれば、ある程度のアドバイスは可能でしょう。
なぜなら身内の方やお友達であれば、その方の生活の中に組み込まれた登場人物であるからです。ですからこの「他人の生活に許可なく侵入すべきではない」という倫理を念頭に、この場は静観するしかないという結論になります。そうするなら、確実にその方はさらなる悲劇に陥ることは目に見えています。しかし、そうなったときにはじめて、被害者の方が目を覚まし、どこかに助けを求めに出て来られるはずです。しかし質問者様も、私共も、それでは気持ちがよくないですね。
この「他人の生活に許可なく侵入すべきではない」という倫理と対立するのが、「目の前で起きている犯罪に目をつぶるべきではない」というものです。時折、銀行員が詐欺被害阻止で表彰されていますが、銀行員が被害者の方の意向を全面否定して全力で送金を阻止した行為は英雄的行為だとも言えるでしょう。犯罪被害に目をつぶらないというのも確かに犯罪防止に関して重要なことなのです。
ただここで注目すべきなのが、銀行員の行為は、第三者から見ていると英雄なのですが、被害者側からするとご自身の考える最良の選択を否定されたという結果になり、多かれ少なかれ被害者を傷つけてしまった結果になります。銀行員のように警察からも詐欺防止の行動をゆだねられている場合、被害者側も「権威ある側による行動」と認めざるを得ないでしょう。しかし、縁もゆかりもない個人が出てきて被害者の方の信じていることを全面否定したら、たとえ被害者が説得に応じて詐欺師との交流を断ったとしても心からその説得を歓迎するとは限らないでしょう。
ではどうすればよいのでしょうか? その被害者の方の生活に侵入せずにできることをするのが一つの方法です。たとえば、フェースブックなどのSNSには、自殺防止のためにSNS運営に通報する機能がありますので、それを活用することができます。そしてそういった通報を終えたら静観するようにしましょう。また、フェースブックのユーザーで実名表記されている方であるなら、ある程度お名前や居住地が解る可能性があります。この方が大変リスクの高い被害者であるということを、その地域の警察署に匿名で通報するというのも一つの方法です。
また、質問者様がNPO法人CHARMSにご相談くださったのは正しい選択でした。私たちにゆだねてくださることで、「何かできることをした」と肩の荷を軽くすることができたかと思います。私たちのほうでも、この被害者の方のフェースブックやブログはチェックしてゆきます。