詐欺に使われるサイトの目的、サイトの調査の仕方についてご説明してきました。実際に詐欺に使われたサイトを見てみましょう。
偽国連サイトの目的と機能
ここで紹介する偽国連サイトは実際に国際ロマンス詐欺に使われたものです。但しCHARMSに相談に来られた日本人の被害者の方から頂いた情報ではなく、詐欺サイトデータベースに掲載されていたもので、必ずしも被害者は日本人や日本在住者であるとは限りません。
サイトの目的
このサイトの目的は、国連職員や国連平和維持活動で派遣された軍人・医療関係者・ジャーナリストなどを名乗る人物の
(1) 恋人である被害者に相手役詐欺師の「休暇申請」をおこなわせるため
(2) 国際便で送った荷物を「追跡するため」させるため
(3) 戦地・紛争地域などの情報を掲載し、臨場感を持たせるため
(4) (1)の手続きを通して個人情報を詐取するため
サイトの機能
このサイトには、「妻が国連所属の夫の休暇申請をすることが出来る」と書かれており、「休暇申請」のためのフォームが設けられています。フォームの説明を見ると「妻が申請できる」とあるので、「女性を狙った国際ロマンス詐欺で相手役の詐欺師が男性」というケースに使われているというものです。このフォームにより、被害者の住所・氏名・電話番号、メールアドレスなどの個人情報が収集されます。また休暇申請をするために身分証明書・運転免許証・パスポートなどの提出も求められます。
サイトのもうひとつの機能が、荷物のトラッキングです。「休暇申請」と「荷物を送る」という筋書きが同時進行し、戦地や紛争地域にいる恋人役の「貴重品が入った荷物」がどこにあるかをトラッキングすることで「国際宅配」の「本物感」を被害者は実感してしまうでしょう。
偽物であると言える理由
URLを見る:国連のサイトはun.orgです。とはいえ、国連に関連した広報機関や日本における国連関連組織のURLはun.orgにはなっていません。たとえば日本の国連広報センターはhttps://www.unic.or.jp/ になっています。un.orgになっていないことを詐欺師に指摘すれば、それと同じようなことだと言うかもしれませんし、人事総務を外部委託しているなどと言ってくるかもしれません。偽物かどうかを確認するには、サイトを調べるツールを駆使してみましょう。また、国連の公式の関連サイトはWikipediaでもリストされています。
ツールの判定結果:この国連休暇申請センターと称するサイトの場合、Virustotal, Scamadviser, Norton Safe Webと3つのツールで調べましたが、3つとも疑わしいサイトであると判定してくれました。
国連の注意喚起:国連職員や国連軍の軍人、医師などを名乗る詐欺に関して国連も警告しています。
https://www.un.org/en/about-us/fraud-alert
国連は、 採用プロセスのどの段階(応募、面接、処理、研修)でも手数料やその他の料金を請求せず 、応募者の銀行口座に関する情報も要求しません。求人に応募するには、 careers.un.orgにアクセスし、「Vacancies(求人)」をクリックしてください。雇用関連の詐欺 についての詳細は、こちらをご覧ください 。
国連は、 調達プロセスのどの段階 (サプライヤー登録、入札提出) でも、その他の料金も請求しません。 国連との最新のビジネス チャンスについては、調達部門をご覧ください。
国連は銀行口座やその他の個人情報に関する情報を一切要求しません。
国連は、賞品、賞金、資金、証明書、ATM カード、インターネット詐欺に対する補償、奨学金を提供したり、宝くじを実施したりすることはありません。
国連は 軍人の休暇や年金を承認せず、 料金と引き換えにパッケージを支給することも認めない。
このサイトの使われ方を被害者目線で見る
詐欺ストーリー例(実際の被害者からの話をもとに)
AさんはSNSで、シリアに駐留する国連軍の軍医を名乗るXと知り合いました。Xは日系アメリカ人と自己紹介し、最初は「怪しい」と感じていたAさんも、毎日明るく挨拶してくれるXに次第に心を開くようになりました。フレンドリーなやり取りを重ねるうちに、Aさんは少しずつXに惹かれていきました。
そんなある日、XはAさんに「直接会いたい」と提案しますが、会うためには国連に休暇を申請してもらう必要があると言います。通常、休暇申請は本人が行うものの、Xは国連の公式ウェブサイトとされるページを見せ、「妻が代わりに申請できる」と説明します。その内容を信じたAさんは、Xのために必要事項を入力し、休暇申請を行いました。
しばらくすると、Aさんに「休暇申請には費用が必要で、支払わないと申請がキャンセルされる」と国連を名乗るメールが届きます。Xが教えてくれた日本の国連職員の口座に、Aさんはその費用を送金しました。さらに、Xの貴重品を受け取る手続きも進行し、荷物のトラッキング番号を教えてもらい、ウェブサイトで追跡すると荷物はシリアからトルコへ、そしてインドネシアに到達しました。本当にトラッキングができているとAさんは思いました。
しかし、インドネシアの税関で荷物は止まってしまいます。すると、税関職員を名乗る人物から「荷物に大量の現金と宝石が含まれており、500万円の税金を支払う必要がある」と連絡が入ります。Xが送ってきた現金は日本円にして1億円相当で、税金はそのお金でカバーできると言われたAさんは、さらに500万円を支払ってしまいました。
結果的に、AさんはXに騙され、多額の金銭を失ってしまったのです。もちろんXが日本にやってくることはありませんでした。Xが使っていた写真は中国系アメリカ人の写真で軍人でも軍医でもありません。詐欺師はほかの人の写真を盗んで使っていたのでした。
まとめ
国連を名乗る詐欺にはさまざまな手口がありますが、今回は国際ロマンス詐欺に使われる偽サイトについて紹介しました。このサイトは非常にシンプルで粗雑な作りですが、休暇申請フォームを装って個人情報を盗み、荷物追跡機能を通じて被害者に偽の荷物が確認できるかのように見せかける仕組みがあります。詐欺師を信じ込んでしまった被害者にとっては、本物だと誤信してしまう要素が揃っています。SNSで知り合った、まだ実際に会ったことのない相手から提示されたウェブサイトについては、必ず複数の情報源で確認し、ドメイン名が信頼できるかを検証することが重要です。