“I knew it was a scam”: Understanding the triggers for recognizing romance fraud(日本語直訳:「詐欺だとわかった」:ロマンス詐欺を認識するためのきっかけを理解する)
Cassandra Cross
要約
オーストラリア・クイーンズランド工科大学司法学部のCassandra Cross(カサンドラ・クロス)先生は、ロマンス詐欺の被害者が「自分が騙されている」と気づくきっかけを明らかにする研究を行いました。本研究では、オーストラリアの詐欺報告ポータルサイトScamwatchに2018年7月から2019年7月までに寄せられた、金銭的被害を伴う1015件の報告データを対象に質的分析(自由記述の分析)を実施しました。その結果、被害者が詐欺に気づく主要な要因として、「追加の金銭要求」「不審なコミュニケーション」「被害者自身による確認作業」「第三者からの指摘」「犯人の不審な行動」の5つが存在することが判明しました。この結果は、今後の被害防止や啓発活動において、より広範なアプローチが必要であることを示唆しています。
研究方法
本研究は、被害者が自身の体験を通じてどのように詐欺を認識したのか(トリガー)を特定することを目的としています。データとして、オーストラリアのオンライン詐欺報告ポータルである「Scamwatch」に「ロマンス・デート詐欺」として報告された事例を用いています。
2018年7月1日から2019年7月31日までの期間に報告されたデータのうち、実際に「金銭的被害に遭った」と回答した1015人の報告書が抽出されました。分析手法としては質的アプローチが採用されており、被害者が自由に状況を記述したテキスト(自由記述欄)を研究者が詳細に読み込み、詐欺を認識した理由をコード化する帰納的な分析が行われました。
この研究で明らかになったこと
分析の結果、被害者が詐欺だと気づいたきっかけは大きく5つのカテゴリーに分類されました。
- 追加の金銭要求 (251件): 最も多く見られたのが、一度お金を送った後に「さらなる金銭を要求された」ことです。返金の約束が守られなかったり、iTunesカードなどの不審な支払い方法を要求されたりしたことで、被害者は詐欺を疑い始めました。
- 不審なコミュニケーション (134件): 犯人が被害者をコントロールするために脅迫を行ったり、送金後に急に音信不通(ゴースティング)になったり、アカウントをブロックしたりする行動が挙げられます。また、話の矛盾点(例えば「病院にいる」という嘘がばれた等)から気づくケースもありました。
- 被害者自身による確認作業 (84件): 被害者自らが犯人の送ってきたプロフィール画像をインターネットで逆画像検索し、他人の写真を盗用していることを見破ったケースです。また、相手が属していると称する組織(軍隊や企業)に直接電話をして在籍確認を行った例もありました。
- 第三者からの指摘・介入 (51件): 家族や友人だけでなく、銀行の窓口担当者が送金手続きの際に不審に思い、被害者に警告したことで詐欺に気づくケースが複数確認されました。第三者の客観的な視点が、犯人のマインドコントロールを解く強力なきっかけになることがわかります。
- 犯人の不審な行動 (38件): 「直接会う約束を何度もキャンセルされる」「被害者の名義を勝手に使って口座を開設しようとする(マネーロンダリングへの加担)」「明らかに偽物とわかる公的書類が送られてくる」といった犯人の行動から、事態の異常性に気づいたケースです。
ここで重要なのは、被害者がこれらのトリガーに気づくのは、すでに金銭を奪われた後であるという厳しい現実です。従来の知らない人にお金を送らないでという直接的な詐欺防止のメッセージは、被害者には届きにくい傾向があります。そのためCross先生は、ロマンス詐欺に特化した警告から脱却し、誰もが必要とする「サイバーセキュリティの基礎知識」「健全な金融リテラシー」といった、より広い枠組みでの啓発へと転換するべきだと主張しています。特に、日常的にお客様の財務に関わる銀行などの金融機関が、送金のリスクや金融ウェルビーイング(経済的な健康)に関する対話をリードし、被害を未然に防ぐ積極的な役割を担うことが期待されています。
この論文の社会への貢献
本論文は、ロマンス詐欺の被害者を騙された不注意な人として非難するのではなく、彼らが直面した心理的操作と、そこから抜け出すための現実的なプロセスを克明に描き出しました。この知見は、私たち支援者やカウンセラー、金融関係者がどのタイミングで、どのように介入すれば被害者を救えるのかを考える上で、極めて実用的な羅針盤となります。
詐欺被害は誰にでも起こり得るものですが、社会全体のサイバーリテラシーの向上と、身近な第三者の温かい介入によって、防ぐことのできる問題でもあります。被害に遭われた方の尊厳を回復し、誰もが安心できるデジタル社会を築くために、私たち専門家・支援団体は今後も連帯して取り組んでまいります。
用語解説
Scamwatch(スキャムウォッチ) オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)が運営する、詐欺の報告を受け付け、国民へ注意喚起を行う政府の公式ポータルサイトです。
ゴースティング(Ghosting) 人間関係において、ある日突然、何の説明や前触れもなく連絡を絶ち、相手の前から姿を消す行為を指します。ネット上の詐欺においては、目的(お金など)を果たした詐欺師が、被害者のアカウントをブロックして逃亡する際によく見られます。
セクストーション(Sextortion) 「セックス(性的)」と「エクスプローション(恐喝)」を組み合わせた造語です。ロマンス詐欺の中で、親密な関係を通じて得た性的画像や動画を「インターネット上にばらまく」などと脅し、継続的に金銭などを要求する極めて悪質な手口です。
マネーロンダリング(Money Laundering) 犯罪によって得た資金の出所を隠し、正当な手段で得たお金のように見せかける「資金洗浄」のことです。ロマンス詐欺の過程で、被害者が気づかないうちに詐欺師に口座を利用され、マネーロンダリングの「運び屋(ミュール)」として犯罪に巻き込まれるケースが存在します。
質的研究(Qualitative Research) 数字や統計(量のデータ)だけでは測りきれない、人々の行動や心理の背景にある「言葉」や「文章」を深く分析する研究手法です。この論文では、被害者が自由に書き綴った生々しい報告文のテキストが緻密に分析されています。
| タイトル | “I knew it was a scam”: Understanding the triggers for recognizing romance fraud(日本語直訳:「詐欺だとわかった」:ロマンス詐欺を認識するためのきっかけを理解する) |
| 類別 | Journal Article |
| 筆者 | Cassandra Cross(カサンドラ・クロス)<br>オーストラリア・クイーンズランド工科大学 司法学部 |
| 雑誌名 | Criminology & Public Policy |
| 発行者 | Wiley |
| 発行日 | Nov 2023 |
| 巻数・ページ | 22, 613–637. |
| 言語 | 英語 |
| URL | https://doi.org/10.1111/1745-9133.12645https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/1745-9133.12645 |
| Cite | Cross, C. (2023). “I knew it was a scam”: Understanding the triggers for recognizing romance fraud. Criminology & Public Policy, 22, 613–637. https://doi.org/10.1111/1745-9133.12645 |


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