国際ロマンス詐欺の基本~説得の7段階モデル

手口モデル
手口モデル犯罪学言語的・言説的戦略

The Scammers Persuasive Techniques Model: Development of a stage model to explain the online dating romance scam
Monica T. Whitty(2013)

要約

本論文は、英国Warwick大学(当時)のMonica Whitty先生の研究で、オンライン恋愛(ロマンス)詐欺で犯人が用いる「説得の型」を、被害者インタビューから整理した研究です。金銭被害者・非金銭被害者を含む20名への詳細な聞き取りを分析し、権威づけ、緊急事態の演出、段階的要求などが組み合わさって被害が深まる過程を示しました。さらに、やめたくてもやめられない要因として「ニアウィン現象」や「認知的不協和」が重要だと提案し、詐欺が進行する「説得技法モデル」(Scammers Persuasive Techniques Model)を提示します。


方法をざっくり

本研究はインタビュー調査です。対象は20名で、実際に金銭被害に遭った人だけでなく「お金は払っていないが強い被害感を持つ人」も含めています(年齢は38〜71歳、被害額は£300〜£240,000まで幅広い)。募集は、英国の捜査機関(SOCA)からの紹介や、著者が行った別調査(被害者類型の調査)協力者の中から面接参加を募る形でした。面接は多くが対面で、1回3〜5時間とかなり踏み込んだ聞き取りです。
分析は、語りの中から共通パターンを抽出するテーマ分析(thematic analysis)。既存の詐欺研究で語られてきた「意思決定の誤り」や、説得理論(例:フット・イン・ザ・ドア、権威、返報性など)が当てはまるかを検討しつつ、恋愛詐欺特有の流れとして“段階”を組み立てています。さらにオンライン特有の要因として、メールやIMが親密さを過度に高めるというハイパーパーソナル理論にも触れて説明しています(図は論文中盤のFigure 1で段階構造として整理)。


分かったこと

結論は一言でいうと、恋愛詐欺は「甘い言葉」だけではなく、**複数の説得テクニックを段階的に重ねていく“プロセス犯罪”だ、という点です。

  • よく使われる説得テク
    ①権威づけ(軍人・医師・成功したビジネスパーソン等になりすます)
    ②規範の刺激(「助けるべき」状況=病気の子、医療費、学費など)
    ③緊急性/危機の演出(期限・大問題化で考える時間を奪う)
    ④返報性(花や贈り物で“お返し”を誘う)
    ⑤一貫性・サンクコスト(ここまで投資したから…で引けなくなる)
    ⑥好意・類似性(理想の相手像を合わせ、恋愛感情を強化)
    ⑦“幸福な未来”の想像(最初の陶酔→不安→再び陶酔を取り戻したい)
  • やめにくさの新しい説明:ニアウィン現象
    「もう少しで会えそうだったのに事故」「あと一歩でお金が戻るはず」など、“惜しい失敗”が繰り返されることで、ギャンブルのように継続してしまうという見立てを提示します。これが継続・再被害の説明に効く、としています。
  • 理論面のポイント:認知的不協和が効く
    被害者は何も考えていないわけではなく、搭乗券や公的書類らしきものを確認するなど“それなりに検証”もします。なのに、明らかに不自然な点は都合よく合理化して無視してしまう。この“矛盾の処理”に、精緻化見込みモデル(ELM)よりも認知的不協和が合うと論じています。
  • 7段階モデル(Scammers Persuasive Techniques Model)
    1. 理想の相手を求めている
    2. 理想的プロフィール提示
    3. グルーミング(信頼と習慣化:毎朝メール、夜IM等)
    4. 刺す(初回送金:少額要求=フット・イン・ザ・ドア、または危機一発)
    5. 継続(危機の連鎖/ドア・イン・ザ・フェイス等で要求調整)
    6. 性的搾取(ウェブカムで羞恥を利用→脅迫へ)※一部ケース
    7. 再被害(別人物・別名目で再接触。“被害者名簿”の存在にも言及)
      という流れで、「いつ・どこで・どう引っ掛けるか」が見える化されています。

社会への示唆

この研究の貢献は、恋愛詐欺を「被害者のだまされやすさ」だけで片づけず、**詐欺師側の設計(説得の工程表)**として描いた点にあります。実務的には、次のような示唆が読み取れます。

  • 早期介入ポイントが分かる:お金の要求前の「グルーミング(習慣化・親密化)」段階で止めるのが重要。
  • 対策が“本人の注意喚起だけ”では足りない:被害者は検証もしているため、単純な「怪しい文言チェック」では突破される。
  • プラットフォーム設計に示唆:早期に外部連絡へ誘導(サイト外のメール・IMへ移動)する動きが典型なので、移動の“摩擦”や警告、監視指標の設計が有効になり得る。
  • 金融・家族・職場への支援設計:危機演出で短時間に送金させるため、送金窓口・家族相談・職場のメンタル支援など、周辺の受け皿が被害抑止に効く。
  • 再被害を前提にする:一度終わっても「取り戻せる」「実は愛していた」など別シナリオで再接触が起こるため、被害後支援も“単発”で終わらせない必要があります。

タイトルThe Scammers Persuasive Technique Model: Development of a stage model to explain the online dating romance scam
類別Journal Article
筆者Whitty MT
雑誌名The British journal of criminology
発行者Oxford University Press 
発行日Jul 01, 2013
巻数・ページ53(4) 665-684
言語英語
URLhttps://doi.org/10.1093/bjc/azt009
CiteWhitty, M. T. (2013). The Scammers Persuasive Technique Model: Development of a stage model to explain the online dating romance scam. British Journal of Criminology, 53(4), 665–684. https://doi.org/10.1093/bjc/azt009

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