1.概要
近年になって増加している暗号資産系の詐欺。その多くが中国系と言われる。もちろんすべての中国人が詐欺師ではありませんし、暗号資産詐欺の手口は中国人詐欺師だけが使うものではありません。しかし中国系の詐欺犯罪の犯行グループが使う詐欺手口の一つが暗号資産詐欺であるといえます。
国際ロマンス詐欺の手口は「必ず」とは言えないまでも摘発された拠点で扱っていた手口などから、詐欺団の拠点や人種などによる特徴が見られると言われています。
- 西アフリカ 白色人種の男性(軍人や医師など)を装って女性を狙う詐欺が多いと言われるが、男性を狙った手口も報告されている。
- ロシア 美女を装って男性を狙う詐欺が多いと言われる。
- 東アジア イケメンや美女の写真を使い、暗号資産詐欺の手口が多く報告されている
暗号資産詐欺の手口に中国系の犯罪組織が絡んでいるということの根拠の一つが、「ご飯をたべましたか?」という中国式の挨拶をしてくるということにあります。中国語の「吃饭了吗?(ご飯食べた?)というのは中国語の軽い挨拶で、本当に食事をしたのかを案じて聞いているものではありません。
私の経験から言うと、友人の多くが外国人慣れしている中国人で、彼らは外国人が学校で習う教科書通りの「ニーハオ(こんにちは)」「ザオアン(おはよう)」を使っており、中国語の先生には「ご飯食べた」は祖父母世代のお金のない時代に使った挨拶で今どき使わないと説明されました。また、逮捕につながっている暗号資産詐欺の犯行グループに中国系が多く報告されているということもあります。
とはいえ、暗号資産詐欺をはたらく犯行グループすべてが中国人や中国系の東南アジア人だけではなく、様々な人種や国籍の犯罪者たちが同じような手口を使う可能性はあることは確かです。
参考: 多田文明(2021.10.05)「ロマンス詐欺関与の5万人超の中国人が逮捕。金融犯罪の拠点もみえてきた!みえてくる返金の道筋に課題も」.Yahoo News
殆(*1) 現代の北京や上海で「ご飯食べましたか」という挨拶が交わされることは
今回はこの暗号資産詐欺の手口についてご紹介します。
2.暗号資産詐欺の手口
暗号資産を使った投資詐欺の手口は、短くまとめると「SNSや出会い系サイトなどで知り合った相手に恋愛感情を抱かせて架空の投資話に勧誘し、多額のお金をだまし取るという手口です。
暗号資産を使った国際ロマンス詐欺の筋書きはだいたい次のようなものです。但し、そのストーリーが進行する間に別の話が盛り込まれ、様々なバリエーションはあると言ってよいでしょう。
- SNSや出会い系サイト/アプリで見知らぬ人物が被害者と知り合う。相手は多くの場合アジア系の人物の写真(日本人や韓国人、中国系)を使用し、美男美女の写真が多い。
- SNSや出会い系サイト/アプリなどからLINEなどのメッセージアプリに早いうちに移行する。
- 詐欺師が装う人物は甘い言葉や的確なアドバイスなどをしながら、信頼関係を構築する
- ある程度信頼関係が構築されると、暗号資産の投資について言及するようになる。そして詐欺師が使っているアカウントとパスワードを教えられ、偽の投資アプリで試してみると投資がうまくゆき資産が増えます。詐欺師は無理強いはせずに親切に暗号資産で投資をする偽投資アプリの使い方を教えてくれます。
- やがて被害者は自分の口座をつくり、暗号資産を使って投資を始めます。最初の投資は少額(10万円程度)を投じるとほんの僅か(10万円が11万円になるなど)の儲けが生じます。この成功体験から、被害者はさらに投資をしたいと考えるようになります。
- 詐欺師が何らかの理由でコンタクトができなくなると、被害者は自分からさらに投資を続け、少額の投資からはじまり、大きな金額を投じるようになります。そして偽の投資サイトに短期間の間で数百万から数千万円に及び金額を投じ、偽サイト上ではその投じたお金をはるかに上回る金額が表示されています。
- 暗号資産を使った投資で大儲けをしたので、その金額をおろそうとしても、おろすことができません。サイトに問い合わせると、お金を自分の口座に入れるためには多額の手数料を支払う必要があると説明されます。被害者はすでに大金を投じてしまっており、多額の手数料を支払うことができません。おかしいと気づいたときにはすでに相手役の詐欺師とコンタクトが取れなくなっています。
この手口で注目すべきなのは、多くの場合詐欺師は無理強いせず親切に投資方法を教えてくれて、被害者が自主的にどんどんお金を投じてゆくようにさせてゆくということです。国際ロマンス詐欺に関する研究の第一人者ともいえるMonica Whitty博士による詐欺被害者の特徴に関する研究論文によると、国際ロマンス詐欺被害者はギャンブラーと似た「はまりやすい」特徴が見られたと言います。この論文での分析結果をもとに考察すると、暗号資産の投資で被害者はまずお試しで詐欺師のアカウントから投資をして、そのアプリでの投資が効果的であると知る。そして自分のアカウントを作って少額を投じて少し儲かる。2つの成功体験があることで、さらに投資額を上げてゆく。このようにして、ギャンブルで勝ち続けるギャンブラーのように次々とお金を投じてしまう結果になります。
この手口を事前に防ぐには、会ったことのない人物からの投資話には乗らないことが大切です。それに乗らないことで、例えば時代遅れだとか言われるかもしれませんし、「私を信じないの?」と言って相手から責められたり泣かれたりするかもしれません。しかしアプリ上で繰り広げられる多額の投資による儲けにハマってしまってからでは手遅れなのです。また、暗号資産取引所・交換所について自分でよく調べることも必要です。詐欺師が使う取引所や交換所は一見してよく知られている公式のサイト(ビットフライヤーなど)を装っているかもしれません。しかしお金を振り込む先が個人名義の銀行口座になっていて、それがビットフライヤーの口座であると詐欺師から伝えられたという報告もあります。
暗号資産をめぐるトラブルに関しては警察庁・金融庁・消費者庁が注意喚起をしています。詳しい内容はこちらをご参照ください。
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/keizai/pdf/kasoutuukakoushinn.pdf
投稿者:武部理花