2023年くらいから報告されているドロップシップ(DS)詐欺。CHARMSに相談に来られた被害者の方々の中にもこの手口で騙されたという方々がおられました。
DS詐欺(ドロップシッピング詐欺)は、ネット通販ビジネスを装い、被害者から初期費用や運営費用、立て替え払いなどの名目でお金を騙し取る巧妙な詐欺の一種です。詐欺師はSNSやマッチングサイト/アプリ、交流サイトなどを通じて被害者に接触し、信頼関係を構築するとネットショップの話を持ち掛けてきます。
詐欺の手口に入る前に、ドロップシッピングとはどういうものなのかをご説明します。
ドロップシッピングとは
ドロップシッピングは、在庫を持たずに商品を販売するビジネスモデルの一つです。販売者(ドロップシッパー)は、顧客から注文を受けると、提携しているサプライヤー(通常はメーカーや卸売業者)にその注文を送ります。サプライヤーが直接顧客に商品を発送するため、販売者は在庫管理や発送を行う必要がありません。販売者は、サプライヤーから仕入れた商品の価格にマージンを加えて顧客に販売し、その差額が利益となります。
一般的なネットショップの場合、お店は顧客からの注文を受けて在庫があれば在庫の中から発送します。また売れ行きなどを見計らって在庫を確保するためにメーカーや卸問屋に注文をして商品を仕入れます。
しかしドロップシッピングの場合は店舗側は在庫を持たず、受発注プラットフォームのシステムを使って顧客からの注文を受けるとシステムがメーカーや卸問屋など商品供給元に発注をします。商品は商品供給元から直接顧客に発送されます。ドロップシッピングをするネットショップのことをドロップシッパーといいます。
ドロップシッピングの流れ:
- 顧客がオンラインショップで商品を注文
- 注文をメーカーや卸問屋などの商品供給元に転送
- メーカーや卸問屋などが顧客に商品を直接発送
- 販売者が利益を得る
実例
ファッション小物の販売: あるドロップシッパーは、サングラスを1,000円で仕入れ、3,000円で自社サイトに掲載して販売します。顧客がそのサングラスを購入した場合、ドロップシッパーは在庫を持たないので注文をサプライヤーに送り、サプライヤーが直接顧客に商品を発送します。ドロップシッパーは2,000円の利益を得ます。
このビジネスモデルは、初期投資が少なくリスクが低いため、多くの新規起業家に人気です。ただし、競争が激しいため、マーケティング力や顧客サービスが成功の鍵となります。
SNS型詐欺におけるドロップシップ詐欺の手口
ドロップシッピング(DS)詐欺はSNS型詐欺の一種です。被害者はSNSやマッチングサイト/アプリなどで知り合った相手との信頼関係が構築されてから、相手からドロップシッピング型のネットショップの運営を持ち掛けられ、ネットショップのための費用としてお金がだまし取られます。
信頼関係構築の段階では、恋愛要素を含むロマンス詐欺の場合もあれば、恋愛なしで「友達関係」や「ビジネスパートナー」として進行することもあります。
ドロップシッピング詐欺の基本的な流れ
- 信頼関係の構築
SNSやマッチングサイトで知り合った相手とオンラインで親密な関係が構築されます。これは必ずしも恋愛である必然性はなく、「友達関係」や「ビジネスパートナー」としての信頼関係の構築もあります。 - ネットショップの誘い
信頼関係が構築されると、相手役からネットショップの経営話を持ちかけられます。
たとえば
「2人の将来のために一緒にECショップを経営しよう」
「ネットショップを経営しているが出張などで出来ないため代わりに運用してほしい」
「一緒に経営しよう」
などと言って勧誘してきます。(ここに挙げた例だけとは限りません。) - 運営の説明
在庫のリスクがなく、スマホで手軽に注文ができる、簡単な経営、実際の運営は会社がやってくれるなどと説明される。また、ネットショップの仕組みとして商品代金の保証金をネットショップに入金するなどと言ったルールが説明されます。 - お金の支払い
様々なパターンがありますが、被害者は出店のための費用、仕入れ、商品代金の保証金、手数料などとして何度も指定された銀行口座などに送金することになります。最初の内は少ない注文で少額の利益がでますが、次第に高額の注文が入るようになり、資金が足りなくなります。そして入金ができなくなると、高額の違約金が請求されます。 - 被害の発覚
顧客も仕入先もすべて実在するものではなく、異常なお金の動きで金融機関が気づいたり、家族が「これはおかしい」と気づいたり、或いは被害者本人が大きな損失を出した後で気づくなどして事件が発覚しています。
実際には顧客も仕入先も存在せず、詐欺グループがオンライン上で操作した顧客の注文や仕入れが発生しているだけで、利益はオンライン上の見せかけのものです。
ドロップシッピング詐欺に使われたネットショップの例
サイバー犯罪で使用するサイト等はキットとして売られています。フィッシングサイトの構築にはキットが使用されていることはよく知られているかもしれません。ドロップシッピングも同様です。たとえばこちらのスクリーンショットはDS詐欺で使われた1つのサイトをもとに、同じ作りのサイトを探した結果見つけることが出来た2つのサイト、合計3つを並べたものです。サイトの名前が異なるだけで、全く同じ外観をしています。商品の値段も同じです。
immmall
ravby02
publixapp
このようなショップの名前やロゴが違うだけで全くそっくりなサイトが存在することを知るなら、SNSで知り合った相手が一緒に運営しようと持ち掛けてくるネットショップがキットの仕様にしたがっただけの見せかけのECショップであるかが理解できるでしょう。
報道から見る、ドロップシッピング詐欺の実例
DS詐欺(ドロップシッピング詐欺)に関する報道や専門家のニュース解説記事などから、3つのケースを取り上げます。
真面目で疑い深い、だから騙される 「死んでしまおう」と思った男性 DS詐欺で3500万円超の被害
詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明先生の記事から
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5f0a0b13f62c9a806475ca3b1eb0dce05149bca0
Yahooニュース 2023年7月24(月) 10:34
特徴と流れ
- 接触と信用獲得: 詐欺師はSNSで被害者に接触し、仕事やビジネスの話を持ちかけます。ただ先生が取材した被害男性の場合、フェイスブックで女性と知り合い、最初は慎重に対応しましたが、時間をかけて信用を得る形で関係を深められました。
- ビジネスの提案: 詐欺師はネット通販、特に在庫を持たないドロップシッピングビジネスを提案します。このビジネスモデルは合法であるため、被害者も最初は安心して話を聞いてしまいます。
- 立て替え払いの要求: このケースでは、「開店資金は不要だが、商品の立て替え払いが必要」と説明されました。この点が詐欺の核心であり、立て替えた金額が詐欺師の手に渡ります。
- 偽の利益反映と注文の増加: 詐欺サイトでは、売り上げや注文がリアルタイムで表示され、被害者に「儲かっている」と錯覚させます。実際には架空の注文や利益表示であり、被害者がさらなる立て替えを行うように仕向けられます。
- さらなる金銭要求: 最後に、税金などの名目でさらに金銭を要求され、引き出しを試みても実際にはお金が戻ってこないという状況に陥ります。
怪しいと思うべき点
- 立て替え払いを要求されるビジネス: 通常のドロップシッピングでは、在庫を持たず、注文後に商品を発送するため、立て替え払いは不要です。この時点で疑うべきです。
- 振込先が個人口座: 詐欺の振込先は、個人名義の口座であることが多く、これは非常に怪しいポイントです。
- 過剰な利益表示: 短期間で大量の注文や高額の利益が表示される場合、詐欺の可能性があります。
被害に遭わないためには
- 立て替え払いの要求を警戒: どのようなビジネスでも、先に多額の立て替えを要求された場合、特に注意が必要です。
- 個人口座への振込を避ける: 振込先が個人名の場合、すぐに詐欺を疑いましょう。
- ビジネスモデルを十分に理解する: ドロップシッピングの仕組みをよく理解し、詐欺との違いを見分けられるようにしましょう。
- 第三者に相談する: 怪しい話があれば、すぐに信頼できる家族や友人、専門家に相談することが大切です。
「SNS型ロマンス詐欺」880万円の被害 岩手・盛岡市の20代男性
2024年9月12日(木) 12:35配信 FNN プライムオンライン https://www.fnn.jp/articles/-/728259
概要: 岩手県盛岡市に住む20代の男性が、マッチングアプリで知り合った女性からネットショップ経営を勧められ、約880万円をだまし取られた事例。詐欺の手口は商品の仕入れ代金を振り込ませ、最初に少額の利益を得させた後、引き出しを不可能にするというものでした。
詐欺の手口:
- 接触と関係構築: マッチングアプリで知り合った女性が、ネットショップ経営を勧め、信頼を得るために儲け話を持ちかけます。
- ネットショップのビジネス勧誘: 男性は女性の指示に従い、ネットショップの商品仕入れを名目に個人名義の口座に12回にわたり880万円を振り込みました。
- 少額の利益と引き出し不能: 一部の商品が売れたという報告を受け、少額の利益を引き出しましたが、その後、口座からお金が引き出せなくなり、被害に気付きました。
怪しいと思うべき点:
- 個人名義の口座に振込: 知らない人物から個人名義の口座に多額の振り込みを要求された場合、詐欺を疑うべきです。
- 少額の利益を返す手口: 詐欺師は少額の利益を返して信頼を得てから、さらに大きな金額を狙うケースがあります。
教訓:
- SNSでのもうけ話を疑う: 知らない相手からの儲け話は、特にSNSやマッチングアプリで出会った人からであれば、詐欺の可能性を強く疑いましょう。
- 個人名義の口座への振込を避ける: 見知らぬ個人名義の口座にお金を振り込む前に、必ず家族や警察に相談することが重要です。
SNS型投資詐欺で2.8億円被害 「ネットショップ経営」誘われ
毎日新聞2024年9月9日 20:44
https://mainichi.jp/articles/20240909/k00/00m/040/256000c
概要: 埼玉県浦和区に住む81歳の男性が、SNSを通じて知り合った日本人女性を名乗るアカウントから「ネットショップ経営」を持ちかけられ、商品の仕入れ代金などの名目で、4月から7月までに約2億8811万円を騙し取られました。埼玉県内でのSNS型投資詐欺の被害額として過去最高額です。
詐欺の手口:
- 接触と誘い: SNS上で日本人女性を名乗るアカウントが男性に接触し、「インターネットショップの経営をやらないか」と誘い、信頼を得ます。
- 繰り返しの送金要求: 男性は商品の仕入れ代金などを理由に、4月から7月までの間に55回にわたり、指定された複数の口座に合計2億8811万円を送金しました。
- 被害の発覚: 8月に男性が警察に相談し、被害が発覚。男性は、オレオレ詐欺や還付金詐欺には警戒していたものの、SNS型の投資詐欺には不慣れで、被害に遭うとは思っていなかったと話しています。
怪しいと思うべき点:
- 大量かつ継続的な送金要求: 繰り返し多額の送金を求められる場合、詐欺の可能性が高いです。
- SNS上のみのやり取り: 実際に会ったことのない相手とSNSだけで連絡を取り合い、投資話やビジネス話を進めるのは危険です。
教訓:
- SNSでのビジネス話を疑う: 特に高額の送金を伴う投資やビジネスの提案は慎重に対応し、詐欺を疑うべきです。
- 疑わしい取引があれば警察に相談: 知らない相手からの投資話や送金要求があった場合、早めに家族や警察に相談することが大切です。
- 知識をつけ、自信過剰の罠に気を付ける: インターネットを使った詐欺の手口は日に日に変化しており、正しい知識と警戒心を持ち、自信過剰にならないことも大切です。
(記事:武部理花)