国際ロマンス詐欺の被害者の方から、詐欺師にきわどい写真を送ってしまったり、或いはビデオチャットでそのような姿をスクリーンショットや動画で撮られてしまい、「詐欺師から脅しを受けた」とか、「脅しを受ける心配がある」とご相談をいただくことがあります。また、近年では若者を狙ったロマンス詐欺で、きわどい写真を晒すと言って脅してお金を騙し取る手口も世界的に増えています。
参考:米国FBI ・ オーストラリア警察 ・ 英国国家犯罪対策庁
このような「きわどい写真や動画」をネタにした脅しのことをセクストーションといいます。
セクストーションとは?
セクストーションは、SEX(性)とExtortion(ゆすり)を併せた造語です。つまり、「性的脅迫」という意味です。
セクストーションは以下のいずれかの形態をとることが多いと言われています。
(1) 犯人が被害者の露骨な画像や動画を共有すると言って脅す。
(2) 暴露や危害を加えると脅して被害者に自分の画像を犯人に送るよう強要する
そして犯人が画像や動画を入手する方法はいくつかあり、
(1) SNSやマッチングアプリなどで偽の身元を使って信頼関係を構築する
(2) 被害者のデバイスを直接ハッキングしたり、リモートデバイスを使用してウェブカメラをハッキングするといった手口が報告されています。但しハッキングによりきわどい動画を取得したという話はスパムも多く、入手したメールアドレスや電話番号に手あたり次第に送っているケースも少なくありません。
若者を狙ったセクストーション
若者がネットで知り合った相手にそそのかされて性的な画像を送ってしまい、脅しを受けるという話が報道されています。ニュース記事で報告されている筋書きは以下の通りです。
インターネットで知り合った異性との交流をすすめてゆくと、相手からきわどい写真や動画が送られてくる。「あなたも同じにして」と相手に言われる。躊躇すると「私が恥ずかしい姿を見せたのに」と泣かれる。そのようなやり取りで被害者が屈してしまうと、急に画面が変わり、今の静止画像や動画をインターネットで拡散されたくなければお金を払えと言われる。
国際ロマンス詐欺とセクストーションに関してはオーストラリアのCassandra Cross博士が研究をされています。この研究論文によると、このようなセクストーション被害者は若年層の男性で、被害金はロマンス詐欺のそれに比べるとはるかに小さい額で、犯行グループは金銭を目的としない画像取得が主な目的であることが多いということです。
セクストーションとは デジタル性暴力・性的脅迫被害の実態とは – 性暴力を考える – NHK みんなでプラス【NHK】いまセクストーション(性的脅迫)の被害に遭う若者が増加。SNSやネットを介して性的な画像や動画を取得され、「拡散www.nhk.or.jp
主に中高生を対象としたセクストーション被害に関する注意喚起 | 情報セキュリティ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構情報処理推進機構(IPA)の「主に中高生を対象としたセクストーション被害に関する注意喚起」に関する情報です。www.ipa.go.jp
〈実録〉「お前の恥ずかしい画像バラまくぞ!」恐怖のハニートラップ”セクストーション”の手口を被害者が赤裸々激白 | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕けマッチングアプリなどで出会った異性に「互いの恥ずかしい姿を見せ合おう」などと持ちかけ、そうした画像や動画を見せた途端、shueisha.online
中高年をターゲットにした国際ロマンス詐欺におけるセクストーション
被害は40代から50代が多いと言われる国際ロマンス詐欺では、画像収集目的とは異なり、金銭的脅しが目的となっています。そして多くの場合、すでに大金を詐欺グループに送ってしまった後でさらに詐取するために脅しに使われているようです。
セクストーションは国際ロマンス詐欺の定番テクニックではありません。Monica Whitty博士の論文によると、金銭的セクストーションは稀なケースで、ロマンス詐欺の基本的なフローの枠外に位置付けられています。たとえば、まだ詐欺だと気付く前に、会う前に性的な相性を確認したいなどと詐欺師に言われ、ビデオチャットで服を脱いだり自慰行為をするようにと詐欺師に求められる。詐欺師はその様子を録画しており、後に被害者がお金をこれ以上出せない状態になった時に、録画したビデオを被害者の職場や家族に送ると脅す。この段階に入った被害者は、自分の行為を非常に恥じていて、決してサイバーセックスが好きだとか、性的に冒険的なタイプではないということです。
セクストーションにどう対応すべきか
国際ロマンス詐欺で、詐欺師から写真や動画を拡散すると脅されたら、どのように対応すればよいのでしょうか。
私たちのアドバイスはシンプルです。「詐欺師を無視してブロックすること」「脅しに屈しないこと」。しかし、それを聞いても「写真が本当に拡散されてしまったらどうするの?」と不安を感じる方も多いでしょう。確かに、写真や動画が絶対に拡散されないという保証はありません。しかし、どの行動がリスクを最小限に抑え、被害を少なくするかを冷静に考えることが大切です。
例えば、詐欺師が「200万円を払わなければ、あなたの写真や動画を家族や友人、職場に拡散する」と脅してきた場合を考えてみましょう。このような状況でどのように対処するかは、あなたの選択次第です。「要求に応じる」「応じない」「詐欺師との接触を続ける」「完全に関係を断つ」といった選択肢があり、それぞれのリスクを比較する必要があります。最も安全で被害を抑える道を選ぶために、冷静に判断することが重要です。
選択肢の評価
以下の4象限に基づいて、それぞれのリスクを評価してみましょう。
- 脅しに応じる・コンタクトを断たない
- 脅しに応じる・コンタクトを断つ
- 脅しに応じない・コンタクトを断たない
- 脅しに応じない・コンタクトを断つ
1. 脅しに応じる・コンタクトを断たない
リスク: 犯人に対して弱みを見せることになり、さらなる要求が続く可能性があります。結果的に、詐欺師のゲームの中で完全に敗れることとなります。これを勝ち負けで表すとこうなります。
A. お金 ⇒ 200万円を失いさらに要求がエスカレートしてゆく = 負け
B. 脅し ⇒ コンタクトが続くので脅しを受け続ける =負け
2. 脅しに応じる・コンタクトを断つ
リスク: 一時的に脅迫を止めることができるかもしれませんが、支払いをすることで脅しに屈する人物と認識されます。したがって一時的な脅しを遮断することができても、脅迫者が他の手段(別の人物を装ったアプローチなど)で再び接触を試みる可能性があります。
お金⇒失う
脅し⇒別のアプローチで再び脅しを受ける可能性がある
3. 脅しに応じない・コンタクトを断たない
リスク: 脅迫者がさらに強硬な手段に出る可能性があります。ただし、脅しに応じないことで、脅迫者が利益を得られないと判断し、諦める可能性もあります。
お金⇒失わない
脅し⇒利益を得られないと諦める可能性もあるが、コンタクトが続くため強硬な手段に出る可能性も否定できない。
4. 脅しに応じない・コンタクトを断つ
リスク: 脅迫に応じず、コンタクトを断つことで、被害者が脅迫に対して無反応であることを示し、脅迫者にとって無益なターゲットであることを伝える効果があります。もちろん、詐欺師は偽のアイデンティティを使っており、別のアカウントを作って別の人物としてコンタクトを試みることは可能です。しかし詐欺師の究極の目的はお金であり、利益の得られない獲物に執着はしません。脅迫者は利益を得られないと判断し、ターゲットを変える可能性が高いです。
お金⇒失わない
脅し⇒無益なターゲットと認識され脅しを受けない
結論:最善の選択は?
理性的に考えるなら、脅しに応じないでコンタクトを断つことが最もリスクが低い選択肢と言えるでしょう。お金を失うこともなく、脅しに屈しないために脅迫者に対して無益であることを示すことができ、さらなる脅迫を防ぐ可能性が高いからです。
まとめ
若者をターゲットにしたセクストーションは、最初から映像をとってお金を騙し取ることが目的となっています。一方、中高年をターゲットにした国際ロマンス詐欺では、ビデオチャットなどで詐欺師に恥ずかしい姿を見せてしまった被害者が後にお金を要求されるというパターンです。このような手口は国際ロマンス詐欺の中では珍しいものです。
もし恥ずかしい写真を送ってしまった、あるいは撮影されてしまった場合、もしくは普通の写真を加工されてしまった場合、どう対応すればよいのでしょうか? 答えは一つです。「脅しには応じず、相手との連絡を断つこと」です。この対応を取ることで、詐欺師に「脅しが通用しない」と示し、利益が得られないと判断させることができます。
ここで重要なのは、セクストーション(性的な画像や動画を使った脅迫)の本質が「金銭目的」であるという点です。詐欺師は、これ以上お金を取れないと判断すれば、あなたに時間を費やすことをやめます。
詐欺師と連絡を続けている限り、主導権は彼らの手にあります。
相手をブロックし、完全に無視することで、恥ずかしい写真が拡散されるリスクを最小限に抑えることができます。
アメリカの団体「SCARS Institute」によると、過去27年間の経験から、詐欺師が実際に写真や動画を拡散したケースは報告されていません。したがって、無視してブロックし、相手との接触を断つことで脅迫の脅威を回避することができます。
重要なのは決して脅しに屈しないことです。 一度でも脅しに屈すると、詐欺師は「この相手からさらに搾取できる」と判断し、要求がエスカレートする可能性があります。毅然とした態度で対応し、自分を守りましょう。
Cross, C., Holt, K., & Holt, T. J. (2023). To pay or not to pay: An exploratory analysis of sextortion in the context of romance fraud. Criminology & Criminal Justice, 0(0). https://doi.org/10.1177/17488958221149581
(文章:武部理花)