No laughing matter: Blaming the victim of online fraud
Cassandra Cross
要約
本論文は、オンライン詐欺の被害者が「欲深い・だまされやすい」と見なされ、被害者本人にも周囲にも“自己責任”が強く突き付けられる状況を明らかにします。豪州クイーンズランド州の高齢者85名へのインタビューから、被害者非難の言説が非常に支配的で、さらに「笑い/冗談」がそれを補強して被害者を孤立させ、家族や友人への相談を難しくすることを示しました。回復と再発防止には、この言説と笑いの“社会的許容”を見直す必要があります。
研究の進め方
この論文は、オーストラリア・クィーンズランド工科大学のCassandra Cross先生による研究で、オンライン詐欺(前払い詐欺、フィッシング、ロマンス詐欺など)の経験や受け止め方を、高齢者の「語り」から掘り下げた質的研究です。オンライン詐欺の定義として、メールやWeb等を介した勧誘に反応し、金銭や個人情報の提供によって損失(金融・非金融)を被る経験に焦点を当てています。
調査は2009年後半に実施され、クイーンズランド州在住の50歳以上の高齢者を対象に、半構造化インタビュー72回(参加者85名)を行っています。参加者は「詐欺メールを受け取ったが反応しなかった人(非反応者)」と「何らかの反応をした人(反応者)」に分けられ、前者44回・後者28回。年齢は50〜83歳で、男女・学歴・職歴・ITリテラシーも多様でした。
分析は、録音・部分文字起こし後にNVivoへ取り込み、まず質問項目に沿ってテーマ別にコーディングし、追加の関心領域も再コーディングする手順です。被害経験の大きい人(多額被害など)は警察経由でのリクルートが中心で、羞恥やスティグマのために表に出にくい層への配慮が読み取れます。
主要な発見
結論から言うと、オンライン詐欺の語られ方は「被害者への否定的まなざし」に強く偏っていました。周囲の高齢者だけでなく、被害を経験した当事者でさえ「欲(greed)」「だまされやすさ(gullibility)」を原因とみなし、被害者に罪悪感や責任を帰属させる“被害者非難の言説”が支配的だったと報告されています。
そして本論文の肝は、ここに「笑い」が絡む点です。詐欺メールを話題にする場面で、冗談やからかいが「深刻さを薄める」方向に働き、(1)自分の脆弱性を認めずに距離を取る、(2)「引っかかる人」と自分を差別化する、(3)結果として被害者像の否定性を共同で強化する——という軽くない効果を持つと整理しています。
さらに深刻なのは、笑いと被害者非難が、被害者の相談(開示)を妨げることです。家族や友人に打ち明ければ「馬鹿にされる」「見捨てられる」といった予期不安が生まれ、実際に被害額を伏せたり、誰にも言えず孤立したりする事例が示されています(特に、認知能力の低下と結び付けられる恐れがある点は高齢者ならではの痛点です)。
論文は、社会的支援(友人・家族の反応)が被害後の対処や回復、さらには届出行動にも影響しうるという先行研究にも触れつつ、オンライン詐欺ではその支援ネットワークが“使えなくなる”こと自体が二次被害になる、と位置付けています。
社会への示唆
この研究の貢献は、「オンライン詐欺=うっかり・欲の問題」という単純化に対し、社会的な語り(言説)が被害者を追い詰める構造を、当事者の声から具体的に示した点にあります。被害者非難が強いほど、被害者は恥や自己責任感を内面化し、相談できずに孤立しやすくなる。結果として、回復の遅れや精神的ダメージの長期化、再被害リスクの温存にもつながりえます。
実務的にも示唆は明確です。啓発で「詐欺に注意!」と呼びかけるだけでは、被害後の行動(相談・届出)を促せません。むしろ、周囲の“笑い”や“説教”が、被害者にとって最大のハードルになる可能性がある。だからこそ、家族・職場・地域での声かけは、「なぜ引っかかったの?」より先に「大丈夫、今から一緒に止血しよう」に寄せる必要があります。論文は、被害者非難の言説と、それを正当化しやすいユーモアの扱いを見直すことが、回復と将来のウェルビーイングの第一歩だと結んでいます。
| タイトル | No laughing matter: Blaming the victim of online fraud. |
| 類別 | Journal Article |
| 筆者 | Cassandra Cross School of Justice Queensland University of Technology、AU |
| 雑誌名 | International review of victimology |
| 発行者 | SAGE Publications |
| 発行日 | May 2015212187-204en |
| 巻数・ページ | 21 187-204 |
| 言語 | 英語 |
| URL | https://doi.org/10.1177/0269758015571471 |
| Cite | Cross, C. (2015). No laughing matter. International Review of Victimology, 21, 187 – 204. https://doi.org/10.1177/0269758015571471. |


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