デジタル時代の消費者教育の正解とは?高校生のトラブルを防ぐ「アウトカム基盤型教育」の実証分析

情報教育
情報教育

デジタル化による消費者トラブルを防ぐ教育とは −アウトカム基盤型教育モデル援用による計量分析−
What Education Is Required to Prevent Consumer Troubles Caused by Digitalization?: A Quantitative Analysis Utilizing an Outcome-Based Education Model
坂本 有芳

要約

本研究は、消費生活のデジタル化が加速する中、高校生を対象とした消費者教育が実際のトラブル防止にどの程度寄与しているかを実証的に分析したものです。徳島県内の高校生約3,300名のデータを「アウトカム基盤型教育モデル(OBE)」を用いて分析した結果、学校での授業を通じて「契約前の慎重さ」や「知識」は向上するものの、トラブル発生に最も強く影響しているのは、教育成果以上に「デジタル取引の利用頻度」そのものであることが明らかになりました。現在の教育は知識・態度の育成には一定の成果を上げているものの、デジタル特有のリスクへの対応という面では更なる改善が必要であることを示唆しています。

研究方法

本研究では、2021年度に徳島県内の全高校等を対象に実施された「生徒の消費者トラブルの実態と消費者教育の実施効果に関する調査」のデータ(有効回答3,327サンプル)を使用しています。 分析の枠組みとして、医学教育などで導入されている**「アウトカム基盤型教育モデル(OBE)」**を援用しています。これは、単に「何を教えたか(プロセス)」ではなく、「何ができるようになったか(成果)」に焦点を当てるモデルです。具体的には、授業による「学習経験」が、生徒の「知識」「技能」「態度」をどう変化させ、最終的なアウトカムである「消費者トラブルの少なさ」にどう結びついているかを、**共分散構造分析(SEM)**を用いて検証しました。

この研究で明らかになったこと

分析の結果、以下の重要な事実が浮かび上がりました。

教育の確かな成果: 消費生活の授業を受けることで、生徒の「クイズ正答数(知識)」や「情報確認・商品選択の慎重さ(態度)」は有意に向上していました。特に、悪質商法への警戒心や契約前によく考える態度の向上には強い関連が見られました。

トラブル防止への限界: 知識や態度の向上はトラブルを減らす方向に働いてはいるものの、その影響力は限定的でした。

最大のリスク要因: トラブル経験に最も強く関連していたのは「デジタル取引の頻度」でした。ネット通販やフリマアプリ、有料ダウンロードの利用頻度が高い生徒ほど、トラブルに遭いやすい傾向があります。

現在の教育の課題: 現在の消費者教育は、全体として「慎重に考える」といった態度の育成には成功していますが、デジタル利用そのものに伴うリスクを直接的にコントロールするまでには至っていない可能性が示されました。

この論文の社会への貢献

この研究は、これからのデジタル社会における消費者教育の「羅針盤」となる重要な示唆を与えています。 第一に、学校教育が単なる「知識の伝達」に留まらず、生徒の「慎重な態度」を育むという実質的な成果を上げていることを証明しました。 第二に、それだけでは防げない「デジタル利用頻度」というリスクの壁を浮き彫りにしました。これは、支援団体や行政当局に対し、単に「気をつけましょう」と啓発するだけでなく、デジタル特有の詐欺手口(SNS型投資・ロマンス詐欺など)に対するより実践的で専門的なスキル教育が必要であることを明確に示しています。被害者支援やカウンセリングの現場においても、若者のデジタル利用環境そのものに着目したアプローチの重要性を裏付ける貴重な資料と言えるでしょう。


タイトルデジタル化による消費者トラブルを防ぐ教育とは −アウトカム基盤型教育モデル援用による計量分析−What Education Is Required to Prevent Consumer Troubles Caused by Digitalization?:A Quantitative Analysis Utilizing an Outcome-Based Education Model
類別Journal Article
筆者坂本 有芳(鳴門教育大学
雑誌名消費者教育
発行者日本消費者教育学会
発行日2025年掲載
巻数・ページVol.45, pp 53-62.
言語日本語
URLhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jjace/45/0/45_45-06/_pdf/-char/ja https://doi.org/10.50844/jjace.45.0_53
Cite坂本有芳. (2025). デジタル化による消費者トラブルを防ぐ教育とは −アウトカム基盤型教育モデル援用による計量分析−. 消費者教育, 45, 53-62. https://doi.org/10.50844/jjace.45.0_53

コメント

タイトルとURLをコピーしました