ロマンス詐欺の心理的要因を探る:日本語版「恋愛信念尺度(RBS)」の開発と献身的傾向の関連

社会心理学
社会心理学被害者学

Development and validation of the Japanese version of the Romantic Beliefs Scale (日本語版恋愛信念尺度の作成と妥当性の検討)
東 叶世、竹橋 洋毅

要約

近年、日本国内での被害が深刻化しているロマンス詐欺は、2024年の年間被害額が397億円に達するなど、極めて重大な社会問題となっています。本研究は、奈良女子大学の東 叶世先生と竹橋 洋毅先生が詐欺被害の背景にある心理的要因として「恋愛に関する信念(イデオロギー)」に着目し、欧米で広く用いられている「恋愛信念尺度(RBS)」の日本語版を作成したものです。大学生397名を対象とした調査の結果、日本語版においても「愛はすべてを乗り越える」「運命の人は一人だけ」といった4つの信念構造が確認されました。さらに、これらの恋愛信念が強いほど、パートナーに対して自己犠牲を厭わない「献身的傾向」が高まることが明らかになり、ロマンス詐欺被害の心理メカニズムを解明し、予防策を講じるための重要な科学的知見を提供しています。

研究方法

本研究では、18歳から25歳の大学生500名を対象にオンライン調査を実施し、不適切な回答を除いた397名(男性190名、女性207名)を分析対象としました。 まず、原著者の許諾を得た上で、専門家によるバックトランスレーション(逆翻訳)の手続きを経て、意味の同一性を確保した日本語版RBSを作成しました。次に、この尺度の構造を確認するために確証的因子分析を行い、既存の恋愛関連尺度(Love-Liking尺度、LETS-2)や、自己犠牲を測定する「献身的傾向」尺度との相関を分析することで、尺度の妥当性と他の心理特性との関連を検討しました。

この研究で明らかになったこと

分析の結果、日本語版RBSは原版と同様に以下の4つの因子で構成されることが確認されました。

「道を切り開く愛」:愛があればどんな障害も乗り越えられるという信念

「唯一無二」:真実の愛は一生に一度、特定の一人とだけ経験するという信念

「理想化」:愛する人は完璧であり、関係は完璧に近いという信念

「一目惚れ」:運命の相手には出会った瞬間に気づくという信念

特に重要な知見として、これら4つの恋愛信念すべてが「恋人への献身的傾向」と正の相関を示したことが挙げられます。つまり、「愛は運命であり、相手は完璧である」と強く信じる人ほど、相手のために尽くし、自分を犠牲にする傾向が強いことが示唆されました。これは、先行研究でロマンス詐欺被害者に見られた「理想化」の傾向が、日本人の心理においても強い献身(ひいては金銭的詐取への脆弱性)に繋がる可能性を裏付けるものです。

この論文の社会への貢献

本研究の意義は、主に以下の3点に集約されます。 第一に、日本国内でロマンス詐欺の心理的要因を科学的に分析するための信頼性の高い測定ツール(日本語版RBS)を確立したことです。これにより、今後の被害者心理の研究に強固な基礎が提供されました。 第二に、恋愛信念と「献身」の結びつきを可視化したことです。これは、カウンセラーや支援団体が被害者の認知傾向を理解し、適切なケアを行うための指針となります。 第三に、具体的な予防啓発への応用です。単に「詐欺に注意」と呼びかけるだけでなく、「特定の恋愛信念が強い場合には、過度な自己犠牲に走りやすい」というエビデンスを提示することで、リスクが高い層に対する実効性のある教育や介入が可能になります。


タイトル日本語版恋愛信念尺度の作成と妥当性の検討Development and validation of the Japanese version of the Romantic Beliefs Scale
類別Journal Article
筆者東 叶世(奈良女子大学 文学部)
竹橋 洋毅(奈良女子大学 文学部)
雑誌名人間環境学研究(Journal of Human Environmental Studies),
発行者人間環境学研究会
発行日2025
巻数・ページ23 巻 1 号 p. 99-104
言語日本語
URLhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/shes/23/1/23_99/_pdf/-char/ja
https://doi.org/10.4189/shes.23.99
CiteHigashi, K., & Takehashi, H. (2025). Development and validation of the Japanese version of the Romantic Beliefs Scale. Journal of Human Environmental Studies, 23(1), 99-108.

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