Online Romance Scams: Relational Dynamics and Psychological Characteristics of the Victims and Scammers. A Scoping Review (日本語直訳:オンラインロマンス詐欺:被害者と詐欺師の関係力学と心理的特徴。スコーピング・レビュー)
著者:Anna Coluccia, Andrea Pozza, Fabio Ferretti, Fulvio Carabellese, Alessandra Masti, Giacomo Gualtieri
要約
イタリアのシエナ大学のAnna Coluccia先生らのグループによるこの論文は、デジタル社会で急増するオンラインロマンス詐欺について、被害者と詐欺師の間でどのような関係が築かれ、双方にどのような心理的特徴があるのかを明らかにするために行われたスコーピング・レビューです。研究チームは電子データベースから抽出した162本の文献を厳格な基準でスクリーニングし、最終的に12本の研究を分析しました。その結果、詐欺師は同情を誘う悲劇的な物語と時間的制約を用いて被害者をコントロールすることや、被害に遭いやすい人には特定の性格特性(神経症的傾向や恋愛の理想化など)があることが示されました。
研究方法
本研究は、オンラインロマンス詐欺に関する質的および量的な証拠を幅広くマッピングし、未解明な点が多いこの犯罪の全体像を捉えることを目的とした「スコーピング・レビュー」と呼ばれる調査手法を採用しています。
具体的には、研究チームはPubMed、Scopus、Google Scholarといった主要な電子データベースを使用し、「Internet dating scams(インターネット上のデート詐欺)」「Online romance scams(オンラインロマンス詐欺)」「Online deception(オンライン上の欺瞞)」などの検索キーワードを用いて文献を収集しました。初期検索で該当した162報の文献に対して、2名の研究者が独立してタイトルやアブストラクト(抄録)を確認し、その後本文を精読するという厳格なプロセスを経て、最終的に条件を満たした12報の研究が分析対象として選定されました。
選ばれた12報の研究は、2012年から2019年にかけて発表されたもので、英国、米国、オーストラリア、そしてナイジェリアなど主に英語圏を舞台に実施されていました。研究デザインも非常に多様であり、少人数の被害者を対象とした深い心理状態に迫るインタビュー調査(ケーススタディ)から、51万人を超える詐欺師のウェブプロフィールを解析した大規模な観察研究、数千人規模のSNSユーザーを対象としたアンケート調査までが網羅されています。このような多様なデータを統合することで、詐欺の手口と当事者たちの心理的背景を多角的に浮き彫りにしています。
この研究で明らかになったこと
本研究を通して、詐欺師の巧妙な心理操作のプロセスと、被害者の心理的特性に関する興味深い事実が明らかになりました。
まず、詐欺の手口(関係力学)として、詐欺師は出会って間もない段階で「永遠の愛」や「結婚」をほのめかし、被害者を心理的に取り込みます。さらに、「配偶者を亡くした」「事故に遭った」といった悲劇的な身の上話を語ることで被害者の同情と信頼を引き出します。そして、関係が深まったところで突発的なトラブルをでっち上げ、「今すぐお金が必要だ。助けてくれなければ関係が終わってしまう」と期限を設けてプレッシャーをかけ、金銭を要求するという典型的なパターンが確認されました。
次に、被害に遭いやすい人の心理的特徴についても重要な発見がありました。女性や中年層、高学歴の人が被害に遭いやすい傾向があることに加え、心理面では「恋愛に対するロマンチックな理想化」が強いことや、「神経症的傾向(不安を感じやすい傾向)」、「感覚探求(新しい刺激を求める傾向)」、「衝動性」、「依存的な気質」を持つことが、詐欺のリスクを高める要因であることが示されています。
一方で、詐欺を行う側のプロフィール分析からは、詐欺師の約50%がナイジェリアやガーナといったアフリカ諸国からアクセスしており、プロフィール上では男性詐欺師は「男らしさや宗教的な価値観」を、女性詐欺師は「自信や経済的自立」をアピールし、架空の魅力的な人物像を作り上げていることも判明しました。
この論文の社会への貢献
本論文は、被害が拡大しているにもかかわらず学術的な知見が不足していた「オンラインロマンス詐欺」というテーマについて、世界で初めて包括的なスコーピング・レビューを行った画期的な研究です。
この研究の最大の貢献は、被害者を単に「騙された不注意な人」として自己責任論で片付けるのではなく、詐欺師の極めて巧妙な心理操作(マインドコントロール)のプロセスと、被害に遭いやすい心理的な脆弱性を科学的に明らかにした点にあります。ロマンス詐欺の被害者は、多額の金銭を失うだけでなく、信じていた愛する人を失うという「二重のトラウマ」を経験し、深い恥辱感や自己嫌悪、うつ症状に苦しむことが分かっています。本研究の知見は、私たちのような被害者支援団体やカウンセラー、医療関係者が、被害者の心理的背景を深く理解し、より共感的で適切なトラウマケアを提供するための重要な基盤となります。
また、社会全体への啓発という観点でも大きな意味を持ちます。どのような心理状態や性格特性を持つ人がリスクに晒されやすいのかが明確になったことで、精神保健機関におけるスクリーニングツールの開発や、一般市民に向けた効果的な予防教育・防犯キャンペーンの策定に直接的に役立つでしょう。
テクノロジーの進化と共に詐欺の手口も巧妙化する現代において、犯罪のメカニズムを心理学的に解明した本研究は、誰もが被害者になり得る社会で私たち自身の身を守るための、非常に価値のある羅針盤だと言えます。
用語解説
スコーピング・レビュー (Scoping Review) ある研究テーマに関して、これまでにどのような研究が行われてきたのかを幅広く体系的に収集し、その分野の現状や証拠の広がりをマッピング(地図化)するための研究手法です。まだ研究が十分に進んでいない新しい分野の全体像を把握するためによく用いられます。
二重のトラウマ (Double Whammy) オンラインロマンス詐欺の被害者が直面する特有の苦痛を指す言葉です。被害者は「多額の金銭をだまし取られた」という経済的・精神的ショックと、「深く愛していた相手が実は存在せず、関係を失った」という失恋や喪失のショックを同時に経験するため、回復が非常に困難になると言われています。
グルーミング (Grooming) もともとは動物の毛繕いを意味する言葉ですが、犯罪心理学やネット犯罪においては「詐欺師や加害者が、ターゲット(被害者)を心理的に手懐け、信頼関係を築いて支配下に置くための巧妙な準備工作」という意味で使われます。ロマンス詐欺では、日常的な連絡や親身な態度を通じて、数ヶ月かけて行われます。
| タイトル | Online Romance Scams: Relational Dynamics and Psychological Characteristics of the Victims and Scammers. A Scoping Review (日本語直訳:オンラインロマンス詐欺:被害者と詐欺師の関係力学と心理的特徴。スコーピング・レビュー) |
| 類別 | レビュー論文 |
| 筆者 | Anna Coluccia, Andrea Pozza, Fabio Ferretti, Fulvio Carabellese, Alessandra Masti, Giacomo Gualtieri Department of Medical Sciences, Surgery and Neurosciences, University of Siena, Siena, Italy (イタリア・シエナ大学 医学・外科学・神経科学部) |
| 雑誌名 | Clinical Practice & Epidemiology in Mental Health |
| 発行者 | Clinical Practice & Epidemiology in Mental Health |
| 発行日 | 20 Apr 2020 |
| 巻数・ページ | 16(1), 24-35 |
| 言語 | 英語 |
| URL | https://clinical-practice-and-epidemiology-in-mental-health.com/VOLUME/16/PAGE/24/ DOI: 10.2174/1745017902016010024 |
| Cite | Coluccia, A., Pozza, A., Ferretti, F., Carabellese, F., Masti, A., & Gualtieri, G. (2020). Online romance scams: Relational dynamics and psychological characteristics of the victims and scammers. A scoping review. Clinical Practice & Epidemiology in Mental Health, 16(1), 24-35. https://doi.org/10.2174/1745017902016010024 |


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