Social Media Scams: A Netnography Investigation in Malaysia and Indonesia (ソーシャルメディア詐欺:マレーシアとインドネシアにおけるネットノグラフィー調査)
Anak Agung Gde Satia Utama,Erna Andajani,Aaiman Siddiqui,Khaslinda Akasyah Binti Mujin,Siti Rochmah Ika,Siow Xiu Yun,Parwita Setya Wardhani
要約
インドネシア・アイルランガ大学のAnak Agung Gde Satia Utama先生とインドネシアおよびマレーシアの研究グループによる研究論文「Social Media Scams: A Netnography Investigation in Malaysia and Indonesia」は、マレーシアとインドネシアにおけるSNS詐欺の実態と被害者の対応を明らかにしたものです。研究者らはネットノグラフィーというオンライン観察手法を用い、Facebook等での詐欺の手口と被害者の生の声を分析しました。その結果、偽の安売りや高収入求人など4つの主要な詐欺手口と、SNSでの告発や被害者の会結成など被害者の主体的な対応策が判明しました。単一の詐欺手口だけでなく、複数のSNSをまたぐ詐欺の生態系と被害者同士の連帯を浮き彫りにした点で、非常に特異かつ意義深い研究です。
研究方法
本研究は、デジタル環境における詐欺の活動と、被害者がそれにどう対応しているかを調査することを目的としています。対象となったのは、Facebook、Instagram、YouTubeといった日常的に使われているSNSプラットフォームです。
研究チームは2024年11月に5日間の調査期間を設け、#scam(詐欺)、#scammeralert(詐欺師注意)といったハッシュタグが付けられた一般ユーザーの投稿や、詐欺被害者のコミュニティ(Sambhara Kawal Siberなど)で交わされている対話データを収集しました。
ここで、ネットノグラフィーと呼ばれる質的研究(人間の行動や言葉の背景にある意味を深く探る研究)の手法が用いられました。具体的には、研究者が掲示板などに書き込んで介入するのではなく、公開されているやり取りをありのままに静かに観察する非参加型観察というアプローチをとっています。これにより、作られた回答ではない、詐欺師のリアルな手口や被害者の生々しい証言を収集することができました。集まったテキストデータはテーマ分析と呼ばれる手法で整理され、詐欺の手口と被害者の対応がいくつかのパターンに分類されました。
この研究でわかったこと
本研究により、大きく分けて4つの詐欺手口と被害者の主体的な対応策、そして国ごとの文化的な違いが明らかになりました。
巧妙化する4つの詐欺手口
- 極端な低価格での商品販売:市場価格より著しく安い価格で人気商品を提示し、焦燥感やお得な機会を逃したくないという心理を突いて購入を促す手口です。代金だけを奪い、商品は送られてきません。
- なりすまし:友人や家族、あるいは権威あるビジネスパーソンなどのアカウントを乗っ取ったり複製したりして信用させ、緊急の金銭的援助や投資を求めてくる手口です。被害者の身近な人への善意が悪用されています。
- 高収入をうたう偽の求人:経済的な不安を抱える人をターゲットに、少ない労力で高収入が得られると騙す手口です。最悪の場合、海外に誘い出されてパスポートを取り上げられ、人身取引や強制労働の被害に遭うという深刻な事態につながっています。
- オンラインのアルバイト詐欺:SNSの投稿にいいねをするだけといった簡単なタスクを与えて最初は少額の報酬を支払い、相手を信用させます。その後、より高い報酬を得るためとして預金や手数料を要求し、最終的に大金を騙し取ります。
被害者の主体的な対応と立ち上がる姿
この論文の画期的な点は、被害者を単なる騙された弱い存在としてではなく、自ら行動を起こす主体として描いていることです。被害者は詐欺に気づいた際、以下のような行動をとっていました。
- SNS上での証拠公開と告発:自らの被害体験を録画・スクリーンショットし、SNSで公開することで、他の人々へ警告を発しています。
- 被害者の会の結成:SNS上で被害者同士が繋がり、励まし合いながら情報を共有し、当局への摘発を求める連帯の動きを見せています。
- 銀行口座の優先的な凍結と警察への通報:被害拡大を防ぐため、金融機関へ即座に連絡し、警察へ被害届を出すという公的・法的な手続きも行われています。
国ごとの対応の違い
興味深いことに、インドネシアの被害者はSNSを通じてコミュニティを形成し、世間への啓発と連帯を重視する傾向がありました。一方でマレーシアの被害者は、警察への通報や銀行口座の凍結といった公的・制度的なルートを通じた解決を優先する傾向があることがわかりました。
この論文の社会への貢献
被害者エンパワーメントの可視化
これまで、詐欺被害者は「不注意だった」「欲を出したからだ」と非難(被害者非難)されがちでした。しかし本研究は、被害者がSNSという武器を使って互いに助け合い、社会に対して勇敢に警鐘を鳴らしている姿を浮き彫りにしました。これは、被害者支援において非常に勇気を与える発見です。
重大犯罪(人身取引)との繋がりへの警鐘
SNS詐欺が単なる「お金を騙し取られる事件」にとどまらず、偽の求人を入口として人身取引という深刻な人権侵害に直結している事実をデータで突きつけた点は、国際社会にとって重要な警告です。
私たち全員で築く防犯の網の目
詐欺手口は国境を越え、複数のプラットフォームをまたいで複雑な「生態系」を築いています。これは、個人の警戒心(デジタルリテラシー)の向上だけでは限界があることを意味します。 行政や警察、法執行機関の方々は、迅速に口座を凍結できる金融機関との連携や、国境を越えた捜査網の構築を急ぐ必要があります。カウンセラーや支援団体の方々は、被害者が自責の念に苦しむことなく声を上げられるよう、SNS上のコミュニティのような「安全な居場所」をサポートすることが求められます。 そして一般市民の皆さまには、詐欺の手口がいかに人間の自然な心理(家族を助けたい思いや、生活を良くしたい願い)を利用した巧妙なものであるかを知っていただきたいと思います。被害に遭うのは決して恥ずかしいことではありません。この論文が示すように、被害を共有し、連帯し、互いを守る社会の仕組みづくりを、私たち一人ひとりが「自分事」として考えていく必要があります。
用語解説
- ネットノグラフィー (Netnography): インターネット(Net)と民族誌(Ethnography)を組み合わせた造語です。ネット上のコミュニティやSNSでの人々の自然なやり取りを観察・分析することで、その背後にある心理や文化を深く理解しようとする研究手法です。
- 非参加型観察 (Non-participatory observation): 研究者が対象者と直接会話や接触をせず、公開されている投稿やコメントを外側から観察する手法です。対象者の自然な振る舞いや、生の声をそのまま記録できるメリットがあります。(論文内では「Lurking(潜伏)」という表現も使われています)。
- テーマ分析 (Thematic analysis): インタビューやSNSの投稿といった大量の文章データの中から、共通する話題、感情、行動のパターン(テーマ)を見つけ出し、整理して解釈する分析手法です。
- 人身取引 (Human Trafficking / TIP): 暴力、脅迫、あるいは詐欺的な求人などの「騙し」を用いて人を支配下に置き、強制労働や売春などで搾取する重大な犯罪行為です。
| タイトル | Social Media Scams: A Netnography Investigation in Malaysia and Indonesia (ソーシャルメディア詐欺:マレーシアとインドネシアにおけるネットノグラフィー調査) |
| 論文の種類 | ジャーナル論文 |
| 論文の分野 | 犯罪学(サイバー犯罪)、被害者学 |
| 著者 | Anak Agung Gde Satia Utama(Universitas Airlangga, Indonesia )Erna Andajani(Surabaya University, Indonesia )Aaiman Siddiqui(Khwaja Moinuddin Chishti Language University, Lucknow )Khaslinda Akasyah Binti Mujin(University Malaysia Sabah, Malaysia)Siti Rochmah Ika(University Malaysia Sabah, Malaysia)Siow Xiu Yun(University Malaysia Sabah, Malaysia)Parwita Setya Wardhani(Sekolah Tinggi Ilmu Ekonomi Mahardhika, Indonesia) |
| 論文誌名・発行者 | ETNOSIA: Jurnal Etnografi Indonesia |
| 発行日・巻数・ページ | 2025年12月発行予定、第10巻 第2号、245–260ページ |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://garuda.kemdiktisaintek.go.id/documents/detail/5888644https://journal.unhas.ac.id/index.php/etnosia/article/view/44227 |
| Cite | Utama, A. A. G. S., Siddiqui, A., Mujin, K. A. B., Ika, S. R., Yun, S. X., Wardhani, P. S., & Andajani, E. (2025). Social Media Scams: A Netnography Investigation in Malaysia and Indonesia. ETNOSIA: Jurnal Etnografi Indonesia, 10(2), 245–260. https://doi.org/10.31947/etnosia.v10i2.44227 |


コメント