なぜ詐欺被害は繰り返されるのか?金銭詐欺における「単発被害」と「反復・複合被害」の違いを解明

犯罪学
犯罪学被害者学

It Happened Again: Differences Between Single and Repeat/Poly-Victimization Among Financial Fraud Victims 【日本語直訳】また起きた:金銭詐欺被害者における単発被害と反復・複合被害の違い
Jamie A. Snyder, Katelyn A. Golladay

要約 

米国ワイオミング大学のJamie A. Snyder先生とKatelyn A. Golladay先生による本研究は、金融詐欺における「単発被害」と「反復・複合被害」の違いを明らかにすることを目的としています。2017年の米国国家犯罪被害調査に基づく詐欺追加調査(SFS)のデータを用い、664人の金銭詐欺被害者を対象にロジスティック回帰分析(量的研究)を行いました。分析の結果、被害者の17.7%、6人にひとりが反復または複合被害に遭っていることが判明しました。また、被害を家族に報告することや高収入であることが再被害を防ぐ保護要因となる一方、被害額の大きさや「自分は被害者である」と自己認識することが、逆に被害を繰り返すリスク要因となることが明らかになりました。

 研究方法 

本研究の目的は、金銭詐欺において、なぜ一度きりの被害(単発被害)で済む人と、何度も被害に遭う、あるいは複数の手口に引っかかってしまう人(反復・複合被害)がいるのか、その違いを生むリスク要因を特定することです。 分析には、米国国勢調査局が実施した2017年の「国家犯罪被害調査(NCVS)」における「詐欺追加調査(SFS)」の大規模データが用いられました。対象となったのは18歳以上の約51,200人の回答者のうち、過去12ヶ月以内に商品・サービス詐欺、慈善団体詐欺、雇用詐欺などの金銭詐欺を経験した664人の被害者です。 研究手法としては、リスク異質性(年齢・性別・収入などの個人的属性)と状態依存性(被害額、誰に相談したか、被害者としての自己認識など)という2つの理論的枠組みに基づき、変数を設定しました。そして、単発被害か反復・複合被害かを分ける要因を統計的に検証するため、二項ロジスティック回帰分析という量的分析手法を用いています。

この研究で明らかになったこと

この研究から、いくつかの非常に重要な事実が明らかになりました。

まず、全金銭詐欺被害者のうち約17.7%(118人)が、同じ詐欺に複数回遭う、あるいは別の種類の詐欺にも遭うといった「反復・複合被害」を経験していました。最も多かった組み合わせは、「商品・サービス詐欺」と「慈善団体詐欺」などの被害でした。

次に、被害を繰り返してしまう要因(リスク要因)と、防ぐことができる要因(保護要因)について、以下の点が判明しています。

  • 家族への報告が最大の防御策:警察や弁護士への通報以上に、「家族に被害を打ち明けたか」どうかが、その後の再被害を大きく減らす保護要因として働いていました。家族の介入が、オンライン上の危険な行動や財務管理に歯止めをかけたと考えられます。
  • 収入と被害額の影響:収入が高いことは被害の連鎖を防ぐ保護要因となりました。一方で、「総被害額」が大きい人ほど、さらに被害を重ねるリスクが高まることがわかりました。これは、多額の損失を取り戻そうとして、焦って「被害金を取り戻せる」という別の詐欺(リカバリー詐欺など)に引っかかったり、リスクの高い行動を続けてしまったりする心理が影響している可能性があります。
  • 「被害者である」という自己認識のジレンマ:本研究で最も驚くべき発見は、「自分は詐欺の被害者である」と自覚している人の方が、皮肉なことに反復・複合被害に遭いやすかったという点です。単発被害で済んだ人は、そもそも被害額が少なかったりして自らを被害者とみなしていないケースが多いのに対し、複数回被害に遭うことで初めて「自分は被害者だ」と気づくといった時間的なズレが影響していると議論されています。

この論文の社会への貢献 

日本においても、SNS型投資詐欺や国際ロマンス詐欺など、被害者が能動的にお金を振り込んでしまうタイプの金銭詐欺が急増しています。本研究が示す「家族への開示が被害の連鎖を断ち切る」という知見は、日本の被害者支援においても非常に重要です。恥ずかしさや、家族からの非難を恐れて家族に隠し、一人で損失を取り戻そうとして二次被害に遭う悪循環を防ぐため、周囲がいかに「被害を告白しやすい環境」を作るかが、今後の詐欺防止策の鍵となるでしょう。

解説者の考察:家族という「防波堤」を持たない被害者をどう守るか

本論文では、「家族に被害を打ち明けること」が再び詐欺に遭うリスクを大幅に減らす強力な保護要因になることが統計的に示されました。家族がオンラインでの活動や財務管理に関与し、サポートしてくれることが被害の連鎖を断ち切るカギになるという指摘は、非常に説得力があります。

しかし、(※ここからの内容は論文の研究結果ではなく、私が日々直面している支援現場の現実に基づく独自の考察です)実際に我々支援者のもとに相談に来られる被害者の中には、この研究で推奨されているような「家族や親密な友人との良好な関係」を全く持たないという方も決して少なくありません。(そして、そのような方の中には、実際に繰り返し被害に遭われている方々がおられます。)

その背景は様々です。もともと社会的に孤立している場合もあれば、詐欺被害が発覚した後に大金を貸してくれた家族や友人との関係が修復不可能になってしまったケースもあります。また、詐欺にのめり込んでいる最中に周囲がしてくれた忠告を突っぱねてしまった結果、気まずくて家族や友人と難しい関係に陥っていることも珍しくありません。

我々は被害者のご家族からの相談もお受けします。被害者と一緒に生活を立て直そうと懸命に頑張っておられるご家族がいる一方で、詐欺被害者による度重なる嘘や多額の経済的損失から、真面目に離別を考えているご家族もいらっしゃいます。

つまり、研究結果が示す通り「被害者と家族がともに被害に向き合えるかどうか」が反復被害を防ぐ最大のカギであるにもかかわらず、現実の社会には「そもそも頼るべき家族や近しい友人すらいない」という厳しい状況に置かれた被害者が多数存在しているのです。

家族という防波堤を持たない孤立した被害者に対して、我々はどのように寄り添い、具体的な防衛策をどのように勧めていくべきか。研究から得られた「家族の重要性」という知見を逆説的に捉え、それに代わる社会的サポートをどう構築していくかが、今後の被害者支援における一つの大きな課題であると感じています。

用語解説

  • 反復被害(Repeat Victimization):同じ種類の犯罪(例:同じ商品詐欺や架空請求詐欺など)に、期間を置いて複数回ターゲットにされ、被害に遭ってしまうことを指します。
  • 複合被害(Poly-victimization):もともとは子どもに対する虐待研究などで使われ始めた言葉ですが、現在では「商品詐欺」と「慈善団体詐欺」のように、複数の異なる種類の犯罪被害を経験することを意味します。
  • リスク異質性(Risk Heterogeneity):犯罪学の理論の一つで、年齢、性別、収入、教育水準など、その人がもともと持っている「個人的な属性や性質」が、犯罪者に狙われやすさを決めるという考え方です。
  • 状態依存性(State Dependence):こちらも犯罪学の理論で、一度被害に遭ったという「状態」そのものや、被害による結果(多額の損失や、その後の行動の変化)が、次の犯罪被害のリスクを上げたり下げたりするという考え方です。
  • ロジスティック回帰分析(Logistic Regression):ある出来事が「起きるか・起きないか(この研究では、反復・複合被害に遭うか・遭わないか)」という確率を、様々な要因(収入、年齢、家族への報告の有無など)から予測し、どの要因が強く影響しているかを明らかにするための統計手法です。
タイトルIt Happened Again: Differences Between Single and Repeat/Poly-Victimization Among Financial Fraud Victims 【日本語直訳】また起きた:金銭詐欺被害者における単発被害と反復・複合被害の違い
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筆者Jamie A. Snyder(ワイオミング大学)Katelyn A. Golladay(ワイオミング大学)
雑誌名Journal of White Collar and Corporate Crime
発行者SAGE
発行日August 16, 2023
巻数・ページ5(1), 46–57
言語英語
URLhttps://doi.org/10.1177/2631309X231195801https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2631309X231195801
CiteSnyder, J. A., & Golladay, K. A. (2024). It Happened Again: Differences Between Single and Repeat/Poly-Victimization Among Financial Fraud Victims. Journal of White Collar and Corporate Crime, 5(1), 46–57. https://doi.org/10.1177/2631309X231195801

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