脱人間化(非人間化)の定義
脱人間化(非人間化)とは、他者から人間としての基本的な属性を否定し、人間としての本質的な能力を剥ぎ取るプロセスのことを指します。心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した「道徳的離脱(Moral Disengagement)」という理論的枠組みの一つであり、個人をより原始的で卑しい状態に貶める行為です。
道徳的離脱(Moral Disengagement)とは、心理学者のアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱した社会心理学の概念であり、人が自らの道徳基準に反する行為を行う際に、自己批判や罪悪感を感じないようにするための認知的なプロセスを指します。
なぜ脱人間化(非人間化)が行われるのか
人間は、相手を自分と同じ人間であると認識している場合、その人を傷つけることに苦痛や自己譴責を感じます。しかし、被害者を「人間以下」や「動物」のように見なす(脱人間化する)ことで、加害者は自らの罪悪感を軽減し、自身の行動に伴う道徳的な責任を回避できるようになります。
たとえばSNS型投資詐欺=「豚と殺/Pig Butchering/Sha Zhu Pan」詐欺の文脈では、加害者が被害者を「豚」と呼ぶことで、自分たちを「賢いハンター」、被害者を「知恵のない獲物」と定義し、残酷な搾取を正当化しています。
脱人間化(非人間化)の2つの側面
脱人間化(非人間化)には以下の2つの形態があると指摘されています。
- 作為による脱人間化(非人間化)(Dehumanisation by commission): 加害者が意図的に、被害者を「豚」などの蔑称で呼ぶといった能動的な行動です。
- 不作為による脱人間化(非人間化)(Dehumanisation by omission): 受動的な無関心に基づいたもので、他者の知的な経験や論理的な思考能力に対する考慮が著しく欠如している状態を指します。メディアや法執行機関が「豚殺し」という言葉を無批判に使い続けることは、この「不作為による脱人間化(非人間化)」を助長していると批判されています。
被害者への影響
脱人間化(非人間化)は、被害者に深刻な二次被害をもたらします。
- ステレオタイプの強化: 「豚」というメタファーは、被害者に対して「強欲」「愚か」「不潔」といった否定的なイメージを植え付け、「騙される方が悪い」という自己責任論(被害者バッシング)を強化します。
- 心理的苦痛: 被害者は人間ではなく「動物」として扱われることで、深い羞恥心や罪悪感を抱き、助けを求めることをためらうようになります。出典によれば、こうした精神的苦痛から自殺を考える被害者も存在します。
まとめ
被害者の脱人間化(非人間化)とは、単なる悪口ではなく、加害者が自らの罪悪感を消し去り、社会が被害者を冷遇することを正当化してしまう危険な心理的プロセスです。そのため、著者らは「豚殺し(pig-butchering)」のような言葉の使用をやめ、被害者の尊厳を回復させる「再人間化(Rehumanisation)」の必要性を訴えています。