不正のトライアングルと不正のダイヤモンド
犯罪学や不正検査の分野で、人がなぜ不正を働くのかを説明する代表的なモデルが「不正のトライアングル」と、それを発展させた「不正のダイヤモンド」です。
不正のトライアングル (Fraud Triangle)
米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが提唱した、不正行動を説明するための最も古典的かつ基礎的な理論です。「動機・機会・正当化」の3つの要素がすべて揃ったときに不正が発生すると考えられています。
構成要素
| 要素 | 内容 | 具体例 |
| 動機 (Pressure) | 不正を行う心理的な圧力や切迫した理由 | 多額の借金、ギャンブル依存、過大なノルマ、生活苦など。 |
| 機会 (Opportunity) | 不正を行おうと思えばできてしまう環境 | 内部統制の不備、チェック体制の欠如、特定個人への権限集中など。 |
| 正当化 (Rationalization) | 不正を「悪いことではない」と思い込む心理的プロセス | 「会社に損害は与えていない(後で返す)」「皆やっている」「待遇への不満」など。 |
ポイント: > 企業における不正防止策では、この中の「機会」を最小化すること(内部統制の強化)が最もコントロールしやすいとされています。
不正のダイヤモンド (Fraud Diamond)
2004年にデビッド・T・ウルフとダナ・R・ハーマンソンによって提唱されたモデルです。トライアングルの3要素に、新たに「能力(素質)」を加えた4つの要素で構成されます。
「動機があり、機会があり、正当化できたとしても、それを実行できるスキルや立場がなければ不正は完結しない」という視点に基づいています。
追加された第4の要素
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能力 (Capability)
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定義: 不正を実行し、かつ隠蔽するための個人的な資質やスキル、職権。
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具体例: * システムの穴を見つけるIT知識。
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周囲を言いくるめる高いコミュニケーション能力やカリスマ性。
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特定の立場に長く留まり、プロセスの全てを熟知していること。
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ストレス下でも平然と嘘をつき通せる精神力。
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両モデルの違いと使い分け
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トライアングル: 「なぜ人は魔が差すのか」という一般的な心理と環境に焦点を当てています。
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ダイヤモンド: 「誰が実際に大規模な不正を完結させられるのか」という、実行者の「適性」にまで踏み込んでいます。特に、知能指数の高いホワイトカラー犯罪や、巧妙な隠蔽工作が伴うケースを分析する際に有効です。