国際ロマンス詐欺とは
国際ロマンス詐欺は、SNSやマッチングサイト/アプリ、言語交流サイト/アプリなどで知り合った相手を言葉巧みに騙して、恋人や結婚相手になったかのように振る舞い、金銭を送金させるSNS型特殊詐欺の一種です。
「国際ロマンス詐欺」という言葉は少なくとも2011年1月頃から確認されています。(オンラインニュース記事はすでに消えており、Twitterのコメントで「国際ロマンス詐欺」に言及するものが確認されています。)
国際ロマンス詐欺はいつから始まったか
2000年代後半から確認されている「国際ロマンス詐欺」は前払金詐欺(Advance Fee Fraud)の一種で、ナイジェリアの刑法にちなんで419詐欺とも呼ばれています。国際ロマンス詐欺に関する研究者のMonica Whitty博士(Whitty, 2014) によると、2007年のBBCのニュース記事で「国際ロマンス詐欺」について報道されており、2000年代後半にすでにこの種の詐欺が世界に存在していたということになります。
日本人の被害については、被害情報交換の掲示板「ナイジェリア詐欺・恋愛詐欺」が2010年12月に開始しており、その初期の書き込みに2009年に詐欺師と知り合ったという投稿があることから、少なくとも2009年には存在していたと考えられます。
一方、2017年ころから確認され、2020年のコロナ禍を機に急速に増加した投資に誘導する「SNS型投資詐欺」や2023年から目立ち始めたドロップシッピング詐欺の恋愛要素入りのものも「国際ロマンス詐欺」に含まれます。
この記事では両者を親カテゴリーである「前払金詐欺」と「SNS型投資詐欺」で区別して、2000年代後半(従来)からあるものを「国際ロマンス詐欺」(あるいは「前払金型国際ロマンス詐欺」)、コロナ禍以降に増加した投資や副業への誘導を絡めたものを「投資型国際ロマンス詐欺」とします。しかし普段の会話で投資型国際ロマンス詐欺を「国際ロマンス詐欺」と呼ぶのも間違いではありません。
「投資型国際ロマンス詐欺」に関しては、「SNS型投資詐欺」の記事もご覧ください。
参考:
Buchanan, T., & Whitty, M. T. (2014). The online dating romance scam: Causes and consequences of victimhood. Psychology, Crime & Law, 20(3), 261–283. https://doi.org/10.1080/1068316X.2013.772180
BBC NEWS. (2007, October 4). UK police in Nigerian scam haul. Retrieved 24th November 2011 from http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7027088.stm
見逃してはいけない、国際ロマンス詐欺の兆候
以下のような兆候が見られたら、それは国際ロマンス詐欺であると言えます。
- SNSで知り合ってから短い期間で被害者との関係を進展させようとする。
- honey, darling と度呼びながら過剰な愛情表現や高額なプレゼントの約束を繰り返す。また、メッセージの頻度が不自然に高いこともある。
- それとなく投資やECショップの経営などでお金が儲かったような話を匂わせる。(たとえば儲かった自分へのご褒美で一流ブランド品を買った話など)(参考:https://youtu.be/b8BQZJCScNo?si=JZAgvYTCcIe0MTtz )
- 同情を引くような背景(親や元配偶者の壮絶な死、孤独な人生、元配偶者の不貞、前の恋人との別れなど)を話してくる。
- 戦地や紛争地域、不便な発展途上国など、不便なところにいることを明かしてくる。
- SNSで高級車やスポーツジムの使用、大きく広い家、ペットなどお金持ちを思わせる様子を投稿している。
- 金銭要求に入る前に、金銭要求理由(緊急の医療費、税関で差し押さえられた荷物の手数料、休暇申請費など)に関係する背景事情などをそれとなく説明してくる。(普通なら第三者に話さないような仕事上の秘密に該当する情報など)
- 被害者と直接会うことを避け、理由をつけて会うことを引き延ばす、会えない理由となるハプニング(負傷や戦況の悪化など)が起きる。
- 同情を引く状況を強調し、送金の緊急性を煽る。
詐欺師が装う人物設定
かつては男性を装う詐欺師は「軍人や医師、エンジニア」、女性を装う詐欺師は「看護師や保育士」などの職業を騙っていましたが近年では男女はあまり関係ありません。2022年8月にガーナで逮捕された森川光容疑者は国連の女性医師を名乗っていました。女性軍人を名乗る前払金型国際ロマンス詐欺も少なくありません。
投資型国際ロマンス詐欺やドロップシッピング詐欺の場合は会社員(どこかの企業に雇われている社員)という設定のケースもあり、「この職業が定番」というものもありません。
投資型国際ロマンス詐欺のマニュアルには、人物設定について育ちの良い28歳から35歳くらいの人物で、親はお堅い職業、お金持ちの多い地域の出身などの設定をするように指示されています。男性を装う場合は筋肉質のイケメン、女性を装う場合は美女の写真が多いですが、例外もあり得ます。解像度の高いものを使う、全身が写った写真や短い動画などもあり、リアリティが演出できる人物パッケージを用意するようになっています。
国際ロマンス詐欺は、「前払金型詐欺」や「SNS型投資詐欺」などの一種です。詐欺師は「恋愛に持ち込む」ことがうまくゆかないときや、被害者が恋愛には関心を示さない場合、或いは手違いで同性にコンタクトをとってしまった場合などに恋愛要素のない「フレンドシップ詐欺」や、疑似的な親子関係などとして信頼関係の構築(グルーミング、飼いならし)進行させます。したがって「恋愛に関心ない」ということは安全を保障するものではありません。
職業
型にはめてしまうとこれらに該当しない場合「シロ」だと判断してしまう危険もありますので十分ご注意ください。ここに挙げていない種類の職業でアプローチされても、お金の話が出たらすべて詐欺です。
- 戦地や紛争地域に駐留中の軍高官、米軍人、医療関係者(医師・看護師)、ジャーナリスト、国連職員、難民、被災者など
例:シリアに駐留するアメリカ軍高官
ウクライナの戦場ジャーナリスト
国境なき医師団の医師
WHOから派遣された看護師
シリアから逃れてエジプトに滞在する難民
トルコ地震の被災者 - エンジニア
例:土建エンジニア(詐欺師はContractorという語を使うことが知られている)
石油掘削エンジニアまたは国際貨物船の船舶エンジニア(詐欺師はMarine Engineerと言う語を使うことが知られている) - ビジネスパーソンなど
例:起業家、経営者、コンサルタント、自営業や起業準備中、会社員、パート社員、契約社員 - つつましい生活をイメージさせる職業
例:看護師/保育士(nurse)、学生、店員など - 有名人
例:俳優、歌手、アイドルグループの成員、画家、作家、政治家、軍高官
境遇
同情を買うような境遇や、お金を持っていることをほのめかすバックグラウンドなど(ここに挙げた限りではありません)
- 天涯孤独で他に頼れる相手がいない
例:子供のころ親が壮絶な事故で無くなり、施設や親せきの家で育った - 配偶者と死別、もしくは(壮絶な理由での)離婚
例:航空機事故で配偶者が死亡
DVモラハラ配偶者と離婚して子供を一人で育てている
配偶者が親友と浮気して離婚した - 外国で親が残した遺産を相続することになっている
例:アフリカの難民キャンプに身を寄せる元政府高官の子女
親の莫大な遺産を第三国で受け取ることになっている富裕層
自分を守るためにできる対策
行動する前に、必ず立ち止まって確認することが大切です。前払金型国際ロマンス詐欺では、相手やその子供が死ぬかもしれない状況や送ってくるという財産を無事に受け取れないと没収される可能性があるといった理由が説明され、緊急性が煽られます。特に人の命に係わることと判断すると、被害者は心理的にストレスがかかり、たとえ詐欺と気づいて送金しない決定をしたとしても後味の悪い思いをします。急かされていると感じたら、悪い決断をしないために立ち止まってじっくり考えてください。そして、自分で調べてみましょう。
かつては、SNSのプロフィールの特徴(友達やフォロワーが少ない、写真が少ないなど)やビデオチャットを避けたがるといったことを根拠に詐欺師かどうかを見極めることができました。しかし時の経過とともに詐欺師もスキルアップし、テクノロジー面でも偽装技術が進歩しました。フォロワーの多いSNSアカウントの売買もおこなわれており、友達数が多くフォロワー数の多いリアルに見える詐欺アカウントも登場しています。そうなると、写真の数やフォロワー数では詐欺アカウントであるかどうかを見分けることが出来ません。
かつては何らかの理由をつけてビデオチャットには出ないか、ビデオチャットに出ても短時間だけ(あらかじめYouTube等からダウンロードした短い動画を使うため)という詐欺師が一般的でしたが近年はディープフェイクが普及し、国際ロマンス詐欺でもよく使われています。したがって旧来の「見分け方」とされていたビデオ通話は国際ロマンス詐欺の確認方法としては通用しなくなりました。
ではどうすればよいのでしょうか? 写真やウェブサイトや文章を個人でも調べることが出来る方法をご紹介します。
写真検索
SNS型詐欺の特徴としてSNSやマッチングサイトで使うプロフィール写真がどこかから盗んだものであるということが挙げられます。相手が使っているプロフィール写真は、他のSNSやデートサイトでも使われていませんか?
SNS型詐欺では盗んだ誰かほかの人の写真であるため、写真を検索すると複数のSNSやデートサイトに写真があることが確認できたり、写真の本人のSNSが発見できることもあります。同じ写真で名前も違う複数のアカウントが複数のSNSやデートサイトにあれば、自分の相手が本物ではないことが確認できるでしょう。また、時として写真の本人が誰であるかを知ることもできます。
非常に有名な人の写真はGoogleの画像検索でヒットします。しかし、そうではない場合、たとえばインスタグラムで活動するアジア圏の芸能人や若手ビジネスパーソンなどの写真の場合、Googleではヒットしないことが多いのです。そこで、他の画像検索を活用することができるでしょう。
Yandex画像検索 (無料の画像検索サイトでGoogleではヒットしない写真がヒットする)
FaceCheck.ID (有料だが複数のサイトに写真があることまでは無料で調べられる)
但しここで注意が必要です。もし写真検索で該当する写真が見つからない場合、相手が詐欺ではないというわけではないということです。元の写真が検索にかからない場所(プライバシー設定されたSNSなど)にある、または過去の詐欺被害者がSNSなどに公開していない写真を詐欺師に送っていてそれが出回っている場合や、ごく最近詐欺師に使われ始めて検索エンジンが学習していない写真の場合、検索で見つからないこともあります。
写真検索方法について詳しくはCHARMSのNote記事もご覧ください。
公開! 写真検索テクニック!|NPO法人CHARMS (note.com)
Webサイトの調査
前払金型国際ロマンス詐欺の場合、偽の配送会社や軍のホームページ、或いは相手の巨額な資金が貯金されているというオンラインバンクなどのサイトがしばしば使われます。また、投資型国際ロマンス詐欺やドロップシッピング詐欺では偽の投資サイトやECサイトが定番となっています。もし詐欺師であると思われる相手からURLが知らされたら、アクセスする前に調べましょう。
前払金型国際ロマンス詐欺の場合、詐欺師が使う偽サイト等は信じさせる目的で最低限の機能で作られ、危険な機能は仕組まれていないかもしれません。従って「フィッシングやマルウェアの危険はない」という判断が出ても、油断しないでください。
作られて1年以内、アクセスする人が少ない(トラフィックが少ない)、スパムや詐欺によく使われるドメインサービスが使われている(publicdomainregistry, NameSiloなど)、利用者がWhois情報を隠しているなどの結果がScamAdviserで出てきたら赤信号です。但し稀にお金で買った古いドメインを使って年数を経たサイトを使っているケースもありますので、数年使っている実績のあるサイトであっても注意が必要です。
投資詐欺やドロップシッピング詐欺では、偽サイトやアプリが詐欺師から紹介され、アプリの場合はそれをダウンロードすることが促されます。ほとんどの場合、投資詐欺やドロップシッピング詐欺で使われるサイトはフィッシングやマルウェアが仕組まれている危険サイトの構造になっています。上記の条件(若いサイトで訪問者が少ない、詐欺でよく使われるドメインサービスなど)の他に、危険サイトを検出するツールも使ってみることをお勧めします。
セキュリティソフトウェアのメーカー、トレンドマイクロのサイトセキュリティセンターは信頼度の高いサイトです。ここで検索して「未評価」という結果が出てきたら、サイトがまだ新しく、トレンドマイクロのデータベースにまだ入っていないということになります。新しいサイトは「未評価」となっていることが多いので、トレンドマイクロに再調査を依頼します。そうすると、翌日くらいには新しい評価結果が表示されています。
複数のセキュリティツールをまとめて調べてくれるGoogleの関連会社が運営するVirustotalも便利なツールです。しかし、Virustotalで全てクリーンだと出た場合サイトが安全だという意味ではなくまだ検出していないということです。“Clean”という結果に惑わされず、Virustotalで一つでもセキュリティツールが「疑わしい(Suspicious)」「フィッシング(Phishing)」「危険サイト(Malicious)」と評価している場合、その際とは危険サイトと判断します。
詳しい解説はCHARMSのnoteもご覧ください。
Trend Micro Site Safety Center
文章の調査
相手のメッセージやメールの内容はどうですか? ポエムのような愛のメッセージや、ことわざを使ったメッセージ、金銭要求のメッセージ、投資について語る言葉や投資を薦めるメッセージ、カスタマーサービスからのお知らせなどを調べてみましょう。英文の場合、詐欺メッセージデータベースをもとに診断してくれるScamrangerというサイトがあります。日本語の文章でもGoogleで英語にしてから検証してみましょう。日本語の文章であれば、ChatGPTやGeminiなどの生成AIに聞いてみる方法もあります。下記のCHARMSで作ったAIプロンプトはChatGPTのほか、GoogleのGeminiとマイクロソフトのCopilotで動作確認しています。詳しい方法はCHARMSのnote記事もご参考に。
ScamRanger
国際ロマンス詐欺の文章判定プロンプト(GPT-3.5 無料版で使える!) #ChatGPT – Qiita
ネットで知り合った相手の文章を調査して詐欺かどうかを判別する|NPO法人CHARMS (note.com)
国民生活センターや金融庁に相談する
自分で調べることは納得につながりますが、一方でどうしても「自分が望む方向」に結びつく情報ばかりを集めたくなります。これを確証バイアスといいます。
確証バイアスを避けるためには、この種の犯罪をよく理解していて、適切なアドバイスを公平な視点で見ることが出来る相手に相談するのも重要です。まだ金銭被害を受けていない段階では警察に相談することはできませんが、国民生活センターや、投資系の場合金融庁の相談窓口であれば実害を受ける前でも相談が可能です。
相談・紛争解決/情報受付_国民生活センター (kokusen.go.jp)
越境消費者センター(CCJ)|国民生活センター (kokusen.go.jp)
「詐欺的な投資に関する相談ダイヤル」の開設について:金融庁 (fsa.go.jp)
友達やご家族に相談するのも良い方法です。実際、リアルのお友達や成長したお子さんに相談した結果詐欺被害を免れたというケースは少なくありません。しかし、友達やご家族はあなたの望んでいる方向で解釈してくれることもあります。たとえば人を疑うのはよくないと教えられて育てられたお子さんは「相手を信じてあげたらどうか」と親にアドバイスし、結果として親は詐欺師を信じることにしてしまうかもしれません。
基本的な考え
しかし基本は、調べるまでもなく以下の状況であれば間違いなく詐欺です。
- 見ず知らずの人が短時間であなたに恋をしたと言って熱烈なラブコールを送ってきた
- 普通では考えられないほどの儲けが出る投資の話をしてきた
従って、手口を細かいところまで覚えてそれに当てはまるかどうかを判断するよりは、大まかなパターンを理解し、調査方法を知っていることが身を守る助けとなるでしょう。
前払金型国際ロマンス詐欺
前払金型国際ロマンス詐欺はFacebook、Instagram, XなどSNSやマッチングサイト/アプリなどを通じて知り合い、LINE等のメッセージングアプリを使って交流をはじめ、信頼関係を構築してからお金の話を持ちかけ、被害者に緊急感を煽って送金させる詐欺です。
恋愛感情を使ったものを国際ロマンス詐欺、友達関係や疑似的な親子関係などを装うものをフレンド詐欺・ベストフレンド詐欺などともいいます。たとえば被害者に恋愛の意図がない場合に、「お友達でいましょう」とか「お父さん(お母さん)と呼んでもいいですか」等と言ってくることもありますが、基本的な送金要求までの流れは変わりません。
前払金型国際ロマンス詐欺の手口の種類
何回かメッセージのやり取りをして親しくなってから、各トラブルを解決するために、現金を第三者の銀行口座宛てに送金するように要求してきます。稀にウエスタンユニオン等の国際送金サービスを利用して送金するように求めてくる場合もありますし、前払金型でも暗号資産での送金が求められることもあります。
人の心理的傾向を熟知しており、最初の比較的少額の送金要求に応じたら更に高額の送金要求にも応じなければならないと思わせるフット・イン・ザ・ドアテクニック(一貫性の法則を活用)、高額を提示し、誰かが一部支払ってくれたなどとして徐々に金額を低くして「今までよくしてくれているのでこれ以上送金を渋ったら申し訳ない」と思わせるドア・イン・ザ・フェイステクニック(返報性の法則を活用)等を使って送金要求をしてきます。
小包詐欺(Box Scam)
海外から日本に送った荷物に多額の現金を隠していたことが中継国の税関に見つかったとされ、配送を継続するために関税を支払う必要があると主張されます。国際宅配業者や通関業者を装った者から数万ドルを要求されます。
「小包詐欺」というと、携帯メールなどに届く偽のAmazonなどからのお知らせメッセージを想像する方もおられますがここでいう小包詐欺はその種のフィッシング詐欺とは別の物です。
バリエーション:
- テロ資金疑惑: 日本での開業資金として国際小包または代理人が外交官特権で持参する現金がテロ資金と疑われ没収されたとされ、テロ資金でないことを証明するために国連に申請する必要があると主張され、証明手数料や代理申請料として数万ドルが要求される。
- 海賊被害: 海峡を航行中に海賊に襲われ、島に緊急寄港したとされ、荷物を国際宅配便で送るための費用を要求される。相手役は難を逃れるために先に出航しており、海上に出ていてお金を送れないので代わりに送ってほしいと言われる。
- 起業・開業に必要な現金を国際宅配で送ったが、多額の現金や贈物の宝石などが入っていることが税関で見つかり、税金や手数料が要求される。
- 詐欺師が親の遺産を相続し、今いる場所に置いてあると意地悪な親戚に奪われるので安全なあなたのところで預かってほしいと言ってくる。
- このパターンは瀕死の未亡人や遺産相続詐欺など恋愛要素のない前払金詐欺でもあり得ます。小包で送ると言われているお金が未亡人や故人の遺産という設定になるだけです。
休暇申請詐欺(Leave Scam)
戦地などでの特殊任務であるため、自分で休暇の申請をすることができない。代わりに婚約者や配偶者として上官に休暇申請してほしいと相手役詐欺師から頼まれます。実際は休暇申請を本人ではなく第三者が行なうということはどこの組織でもあり得ません。参考:アメリカ軍の注意喚起記事
バリエーション:
- 退役や危険任務回避申請: 休暇の申請ではなく、退役の申請や危険任務から外してもらうための嘆願を上司や総務などに送るよう頼まれるというパターンもある。
- 軍人ではなく、国連機関職員やジャーナリストなどのパターンもあり、特にニュースで海外での戦争が報道されている時には軍人ではない相手役は「速くこの恐ろしいところを抜け出したい」等と言ってくる。
- 戦地や紛争地域ではなく、途上国の工事現場監督など緊急度の低い場所での休暇申請というパターンも稀ではあるがありうる。
- 休暇や退役申請をすると、申請料、相手役の渡航費、埋め合わせ要員の渡航費、埋め合わせ要員の給料など様々な理由で送金が要求される。
医療費詐欺
相手役や子供役が負傷もしくは重病にかかり、その医療費としてお金が要求されます。「人の命」を理由に使うため、被害者は緊急感を煽られ、考える暇もなく送金してしまう。子どもの病気や負傷の場合、相手役の詐欺師は戦場や途上国の出張先など不便な場所におり、ATMやオンラインバンキングが使えず、医療費が支払えないと泣いて頼んでくる。
バリエーション:
- 医療緊急事態: 詐欺師が海外で一時滞在中に交通事故や急病で意識不明になったとされ、搬送先の医師や看護師を装った者から手術費用を直ぐに送るように要求されます。
- 子供の治療費: 難病にかかった子供の治療費が足りないとされ、緊急の送金を求められます。親である相手役詐欺師は戦場や不便な地域にいるということになっており、送金ができず、途方に暮れています。
- この他、難病にかかった老親の医療費など様々な設定があり得ます。
ビジネス上のトラブル
会社経営者やエンジニアを名乗る詐欺の場合、仕事上のトラブルでお金が必要となる筋書きが存在します。前払金型国際ロマンス詐欺の手口としてよく知られているのが小包詐欺や休暇申請詐欺、医療費詐欺などであるため、それ以外のパターンが出てくると国際ロマンス詐欺についての知識がある程度ある人でも信じてしまうことがあり得ます。冷静に考えると、会社の何らかの損失でお金が必要になった場合、個人に助けを求めるということはあり得ないことです。
バリエーション:
- 工事現場や原油の掘削所で事故が発生し、高額な機器の修理費を支払わなければならない。
- 工事現場や原油の掘削所で事故が発生し、従業員が負傷、死傷者が出て賠償金や医療費を支払わなければならないが、途上国にいてATMが使えないので代わりに支払ってほしい。
- 治安の悪い出張先で強盗に遭い、仕事や滞在に必要なお金が払えなくなった。滞在先のホテル代を支払ってほしいと主張し、被害者がこちらから直接ホテルにコンタクトをとって支払うようにすると述べると代理人の銀行口座などに送金してほしいと言ってくる。(実際にはそのホテルに泊まっていないためホテルへの直接送金ができない)
偽銀行のトラブル
相手役の詐欺師がある国に巨額の預金を持っているといい、何らかの理由でそのお金をあなたの口座に移してほしいと言われる。精巧に出来たオンラインバンキングのIDとパスワードを教えられ、そこにアクセスすると相手に言われたとおりの巨額の預金があり、それを自分の口座に移動しようとするとできません。オンラインバンキングのカスタマーサービスに問い合わせると、マネーロンダリング防止のための手数料や税金などとして預金金額よりは少ないが大きな額のお金を請求されます。この手口は投資詐欺の手口ともよく似ています。
バリエーション:
- 未払い金や遺産の受け取り: 詐欺師は、生前父親が大きなプロジェクトに関わっており、その未払い金数億ドルを受け取ることになったと主張します。また、父親が外国の貸金庫に預けていた巨額の遺産を受け取る予定であると伝え、あなたの銀行口座にその資金を移したいと申し出ます。
- 結婚による遺産受け取り: 父親の遺書により、結婚した場合に外国にある遺産を受け取れることになっているとし、あなたと結婚する必要があると説明します。
- 紛争前に預けた資金: 国で紛争が起きる前に父親が外国の銀行に預けた巨額の資金があり、難民の身ではそれを受け取る手続きを取れないと主張します。
- このパターンは瀕死の未亡人や遺産相続詐欺など恋愛要素のない前払金詐欺でもあり得ます。小包で送ると言われているお金が未亡人や故人の遺産という設定になるだけです。
有名人を装った国際ロマンス詐欺
ハリウッド俳優や海外の人気歌手、政治家や王族や有名な富豪を装った国際ロマンス詐欺の手口は内容的には上記の他の手口とよく似たものほか、「有名人ならでは」のパターンもあります。詐欺師は、ハリウッド俳優や海外の人気歌手などの有名人本人の写真や名前を使い、SNSやマッチングアプリで被害者に接触します。例えば、ブラッド・ピットや韓流スターの2PMのイ・ジュノになりすましたケースが報告されています。
有名人を装う詐欺の被害に遭った漫画家の井出千賀恵先生がその経験をメディアでも語っており、「毒の恋」という本も出されています。
バリエーション:
- ディープフェイク技術の利用: 最近では、ディープフェイク技術を使って著名人の顔や声を模倣し、信憑性を高める手口も確認されています。これにより、被害者は本物の著名人とやり取りしていると錯覚しやすくなります。
- 親近感と恋愛感情の醸成: 詐欺師は、甘い言葉や魅力的なメッセージを通じて、被害者に親近感や恋愛感情を抱かせます。これにより、被害者は詐欺師の要求に応じやすくなります。
- 金銭要求の手口: 詐欺師は、様々な理由をつけて金銭を要求します。例えば、「休暇を一緒に過ごすための費用」や「生命保険の費用」などと称して、被害者からお金を騙し取ります。
- 非対面でのやり取り: 詐欺師は、SNSやメッセージアプリを通じて非対面で連絡を取り続けます。これにより、被害者は詐欺師の正体を見破る機会が少なくなります。
- 有名人を名乗る場合既婚の有名人を名乗ることもしばしばあります。漫画家の井出智香恵さんを騙した詐欺師も、妻と離婚することをほのめかしていました。
- 有名人を装う場合、芸能活動などにまつわる費用やチャリティの寄付金などとして送金を求める場合もあります。
井出智香恵さんインタビュー(文春オンライン)
前払金型国際ロマンス詐欺の手口:まとめ
もちろん、ここで挙げていない手口もあります。しかし、細かい手口を覚えるよりは、大まかなパターンを理解するほうが詐欺を予防するのに役立ちます。たとえば、軍人を装う相手が要求してきたのが休暇申請でも退役申請でもなく、「日本に来るための渡航費」だったとしたら詐欺ではないと判断するのではなく、「これは休暇申請詐欺の一パターンではないか」と疑ってみることです。
前払金型詐欺(恋愛要素無し)
国際ロマンス詐欺は信頼関係を構築するために時間を使いますが、恋愛や友人関係などのグルーミング(飼いならし)を必要としない前払金詐欺は直ちにお金を送る筋書きになっています。
この手の詐欺の原型は19世紀の「スペインの囚人)」と言われています。スペインの囚人というのは、「自分は大富豪の代理人で、その富豪は無実の罪で囚われの身となっている。無実であることを証明するために身分証明と保釈金が必要だ」と言って助けを求めてくるというものです。しかしいったんお金を送ると、更に問題が生じて金額がひきあげられてゆきます。(Wikipedia参照)
そして1980年代半ばから、手紙やファックスがナイジェリアから送られるようになり、アフリカの貧しく腐敗した国や地域に住む銀行家や元政府の要人、失脚した政治家や難民支援団体などを装って莫大な資金を移動させるために銀行口座を貸してほしい、その一部(数パーセント)を謝礼として支払うと言われます。その手数料は少ない額ではないですが、謝礼で十分カバーできる金額です。しかし実際にそのお金が送られてくることはありません。そして、2001年頃からは「ナイジェリアからの手紙」が電子メールで送信されるようになり、世界中に広がりました。
前払金詐欺のバリエーション
黒塗り紙幣洗浄型
詐欺師は、多額の米ドルを特殊塗料で黒く塗りつぶして運搬する必要があると偽り、黒塗りを元に戻すための洗浄液の代金を要求します。米軍や政府機関の極秘発明品だと偽る場合もあります。この手口の場合、実際に現地にいる共犯者が被害者の家をたずね、そして何枚かの紙幣を洗浄する実演までやってくれます。しかし実際には実演に使われた紙幣のみが本物です。(漫画家の井出智香恵先生もこの手口を受けました)
インターネット宝くじ型
欧米の宝くじに当選したと偽り、税金や手数料として少額の金銭を先に送るよう要求します。先に支払えば大きな利益が得られると騙しますが実際に宝くじの当選額がおくられてくることはありません。
遺産相続型
海外に住む日本人や外国人が莫大な財産を残し、遺言により被害者に相続されると偽ります。その遺産を現金化するための手数料や税金を要求します。
瀕死の未亡人
海外に住む富豪の未亡人(近年では日本人狙いの詐欺の場合海外に住む国際結婚した日本人妻の設定が多い)が余命幾ばくもなく身寄りもないためその遺産をチャリティに寄付するのを手伝ってほしいと言ってきます。寄付先はお寺や教会等の宗教団体や孤児院、災害の被災地などさまざまです。
「ヤフオク!」詐欺
オークションサイトで高額商品を出品した者に対し、英文で連絡を取り、法外に高い購入金額を提示して海外への発送を求める手口です。
その他の手口
ここに挙げたのはインターネットを使った国際詐欺のほんの一部です。日本貿易振興会Jetroの注意喚起記事は2013年頃から掲載されており、時代の変化や新し手口の登場とともに内容が更新されています。JETROのサイトも是非ご覧ください。
投資型国際ロマンス詐欺
詐欺師はSNSやマッチングサイト/アプリ、或いは言語交流サイト/アプリに偽のプロフィールを作り、狙った相手にダイレクトメッセージを送ってくる、友達リクエストやフォローなどをしてきます。無難な会話で信頼関係を構築するグルーミングの段階を経て、少しずつお金が儲かる話をし始めます。投資の成功を被害者に体験させてから大金を投資させ、投資のために借金までさせます。そしてお金が増えたように見えたときに、投資アカウントからお金が引き出せない状態になり、手数料などが請求されますがそれを払ってもお金は引き出せず、相手とのコンタクトができなくなります。
この手口は恋愛要素のない「フレンドシップ詐欺」や、疑似的な親子関係などとして進行することもあります。
SNS型の投資系ロマンス詐欺の種類
ここでは主にCHARMSでご相談を受けているものを例としてまとめています。
投資型国際ロマンス詐欺
SNSやマッチングアプリなどで出会った後は、よりプライベートな会話をするためなどとしてLINEに移動することを勧めてきます。(稀に他のツール、WhatsAppやWeChat等を使うこともありますが、日本人・日本在住者を狙った詐欺では9割はLINEです。)
投資機会について話し始める前に無難な個人的な話などをして信頼を得ようとします。ことわざなどを引用して、何か良いアドバイスをしてくれるかもしれませんし、過去の悲しい出来事などに共感を示してくれるかもしれません。
そして信頼関係が構築され始めると、投資でたくさんのお金を稼いだという話をし始め、被害者にも投資をするように勧めてきます(暗号資産やFX、株式やゴールドなどの投資)。少額の投資を試すように言ってきたり、詐欺師の投資アカウントを貸してくれたりして投資の成功体験をさせてくれます。少額の投資で得た利益は引き出すことができ、投資の成功体験とお金が引き出せるという事から安心感と自信をもち、被害者は投資を始めます。
投資をするお金がもうないと言うと、借金をすることも勧めてくるでしょう。そして投資したお金が大きな金額になったとき、お金を引き出そうとするとカスタマーサービスから手数料を求められます。手数料を支払ってもお金を引き出すことが出来ず、相手とのコンタクトができなくなります。
投資の種類で分けるとFXや暗号資産、ゴールドなど様々な種類があるように見えますが実際には同じようなストーリーで進行してゆきます。
SNS型ドロップシッピング詐欺ロマンス版
「ドロップシッピング」は、自社で在庫を抱えずに顧客の注文を受けたらメーカー等から直接顧客に送付してもらうというビジネスモデルで、普通のネットショップでも行われている方法です。
ドロップシッピング(DS)詐欺は、ネット通販のビジネスモデルを悪用した巧妙な詐欺手口です。この詐欺では、被害者が在庫を持たずにネットショップを開設し、商品の注文があれば業者が発送を行うという正当なビジネスのように見せかけます。最初は立て替え払いの必要があると言われ、被害者は注文ごとに商品の代金を立て替えます。しかし、実際にはこれらの注文は架空であり、売り上げも存在しません。被害者が立て替えた資金は詐欺グループの口座に振り込まれ、その後、サイト上のウォレットに利益が反映されているように見せかけられます。さらに、売り上げの引き出しを試みると、税金の支払いを要求され、その分も騙し取られるという流れです。
この手口はSNS型国際ロマンス詐欺の手口としても使われます。ロマンス詐欺の場合、詐欺師はSNSやマッチングサイト/アプリ、或いは言語交流サイト/アプリに偽のプロフィールを作り、狙った相手にダイレクトメッセージを送ってくる、或いは友達リクエストやフォローをしてきます。無難な会話で信頼関係を構築するグルーミングの段階を経て少しずつお金が儲かる話をし始めます。そして一緒にやりましょうと言ってネットショップの運営をもちかけてきます。
真面目で疑い深い、だから騙される 「死んでしまおう」と思った男性 DS詐欺で3500万円超の被害(多田文明) – エキスパート – Yahoo!ニュース
投資型国際ロマンス詐欺 まとめ
SNS型投資詐欺の良く知られた手口の中から、恋愛要素を使ったものとしてよく相談されているものを挙げました。これ以外の「投資系」のロマンス詐欺も今後発生する可能性はあります。これらに当てはまらない手口に遭遇しても、SNSで知り合って実際に会っていない相手から投資の話、ビジネス/副業の話、お金の話が出たら疑ってみることは大切です。
まとめ
SNS型国際ロマンス詐欺や前払金詐欺などは被害者の心理や信頼を巧妙に利用した悪質な手口です。NPO CHARMSでは、これらの詐欺に対する注意喚起と無料相談を提供し、被害者のサポートに努めています。インターネットで知り合った相手が怪しいなと思ったら、少しでも不安を感じた場合は、ぜひ私たちにご相談ください。皆さまの安全を守るために、私たちが全力でサポートします。