国際ロマンス詐欺、英国だけで23万人!? (2011年当時)

犯罪学
犯罪学被害者学

The Online Romance Scam: A Serious Cybercrime
Whitty MT, Buchanan T

要約

2008年頃から目立ち始めた「オンライン恋愛詐欺(ロマンス詐欺)」について、英国の一般成人を代表する大規模調査で実態を推計した短報です。結果、被害経験者は0.65%で、英国成人に換算すると約23万人にのぼる可能性が示されました。さらに、約半数(51.66%)は詐欺の存在を知っていた一方で、被害は過小報告されがちで、報告のしづらさ(羞恥や心理的ダメージ)を踏まえた通報窓口・支援の再設計が必要だと結論づけています。


研究方法~どう調べた?

この論文はレスター大学(英国)のMonica Whitty先生とTom Buchanan先生による研究で、「英国でどれくらい被害が出ているのか」「どれくらい知られているのか」を、世論調査に近い形で広く確かめています。

  • 対象者:英国の18歳以上の成人 2028人(男女比は男性902・女性1126など。年齢や就業状況も幅広く含む)
  • 調査会社・形式:YouGovのオンラインパネルを用いたオムニバス調査(複数テーマの質問の一部として実施)
  • 実施時期:2011年7月6〜8日
  • 回収率:約33.3%
  • 代表性の工夫:回答は国勢調査データに合わせて重み付け(ウェイト)し、「英国の一般成人像」に近づけています。

質問はシンプルで、主に次の3つです。

  1. ロマンス詐欺を事前に知っていたか(Yes/No)
  2. 知っていた人に、どこで知ったか(テレビ、新聞、ネット、友人…など複数選択)
  3. 自分または知人が被害に遭ったか(金銭被害の有無)

ここで重要なのが「被害者数の出し方」です。研究者は、調査で得た被害率(例:0.65%)を、英国成人の人口規模成人のオンライン利用者割合に掛け合わせて「国全体だとこれくらい起きていそう」と推計しています。難しい数式というより、“割合 × 母数”の見積もりだと捉えると直感的です。


この研究で何が分かった?

結論から言うと、ロマンス詐欺は「新しい犯罪」(2011年当時)なのに、すでに想像以上に広く被害が出ている可能性が示されました。

① 被害の規模:0.65%=約23万人の可能性
調査回答者のうち、0.65%が「自分が金銭被害に遭った」と答えました。これを国全体に換算すると、約23万人に相当すると推計しています。さらに、2.28%が「知人が被害に遭った」と回答し、こちらは換算で約110万人規模に近い推計になります。
つまり、「自分は遭っていないが、周囲で聞いたことはある」という形も含め、被害は社会の中にかなり入り込んでいる可能性があります。

② 認知は約半分:51.66%が“知っていた”
ロマンス詐欺の存在を、調査時点で約半数(51.66%)が認知していました(表1)。ただし、「知っている=防げる」とは限らない点も、著者は冷静に注意しています。

③ どこで知るのか:テレビと新聞が強い
「どの媒体で知ったか」(表2)では、テレビ(約48%)新聞(約42%)が上位で、次いでインターネット(約31%)、**雑誌(約19%)**などが続きます。男女差として、女性は雑誌経由が多い一方、男性はネット経由が多い傾向が示されています。

④ “二重の被害”と通報の壁
著者が繰り返し強調するのが、ロマンス詐欺は「お金」だけでなく、信じた関係が崩れることで心理的にも大きな打撃を受ける“ダブルヒット”だという点です。この羞恥・喪失感・傷つきが、警察などへの通報をためらわせ、結果として統計上も見えにくくしている――これが「過小報告(under-reported)」という問題意識につながっています。


社会への示唆

この論文の価値は、「怖い話の紹介」ではなく、政策・広報・支援設計に使える“基準値”を置いたことにあります。

① “通報数=被害者数”ではないと示した
行政機関が把握できるのは、基本的に「通報された件数」です。しかし本研究は、代表サンプルから推計して、通報ベースの見積もりよりずっと大きい可能性を提示しました。これにより、対策側は「氷山の一角」を前提に、予算配分や相談体制を考える必要があると分かります。

② 被害者が“言い出せない”問題を正面から扱った
ロマンス詐欺は、被害者が「自分がだまされた」と認めること自体がつらい犯罪です。著者は、心理的ダメージを踏まえると、従来型の窓口(警察での詳細な供述など)だけでは十分でなく、より報告しやすい導線が必要だと提案します。企業で言えば、情報セキュリティ教育を「注意喚起」だけで終わらせず、**相談しやすさ(責めない・恥をかかせない)**まで設計するのが重要、という示唆にもなります。

③ 啓発は“どの媒体が効くか”まで示した
表2の結果は、啓発の出し先を考える実務に直結します。テレビ・新聞は届いている一方で、ラジオはもっと活用余地がある、雑誌は女性向けに偏っている可能性がある、オンラインデーティングサイト経由は低い(そもそも利用者が少ない影響も)など、次の一手を具体化できます。

④ 今後の研究課題を明確化した
本研究は「被害規模」と「認知」を示した“入口”の研究です。著者は次の課題として、どんな人が狙われやすいか、そして**心理的影響(トラウマ、自己否定感など)**の理解が必要だと述べています。ここが進むほど、個人の予防(行動の赤信号)から、社会の支援(回復の仕組み)まで、対策の解像度が上がります。 

タイトルThe Online Romance Scam: A Serious Cybercrime
類別Journal Article
筆者Whitty MT
Buchanan T
Department of Media and Communication, University of Leicester, UK
雑誌名Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 
発行者Sage Journals
発行日First published online February 3, 2012
巻数・ページ15 (3). pp. 181-183. 
言語英語
URLhttps://doi.org/10.1089/cyber.2011.0352
CiteWhitty, M. T., & Buchanan, T. (2012). The Online Romance Scam: A Serious Cybercrime. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 15(3), 181-183. https://doi.org/10.1089/cyber.2011.0352 (Original work published 2012)

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