国際ロマンス詐欺は二重の喪失

被害者学
被害者学論文解説

The Online dating romance scam: The psychological impact on victims – both
financial and non-financial

Monica Whitty, Tom Buchanan

要約

イギリス・レスター大学のMonica T Whitty先生とウェストミンスター大学のTom Buchanan先生による論文”The Online dating romance scam: The psychological impact on victims – both financial and non-financial”は、オンラインデートを通じたロマンス詐欺の被害者が受ける心理的影響を明らかにするために行われました。本研究は、20名の被害者に対する詳細なインタビューを通じた質的研究(テーマ分析)の手法を用いています。結果として、被害者は金銭的な喪失だけでなく「関係性の喪失」という二重の打撃(ダブルヒット)を受けており、多くの場合、お金を失ったことよりも偽りの関係が終わったことの方に強い悲しみを感じていることがわかりました。また、周囲からの無理解や自責の念から孤立し、適切な対処ができずに心的外傷後ストレスを抱えるケースも確認されています。この論文は、金銭被害に焦点を当てがちな従来の詐欺研究とは異なり、ロマンス詐欺特有の深い心理的ダメージとそのメカニズムに光を当てた点で非常に特異で画期的なものです。

研究の方法

本研究は、オンラインデートを通じたロマンス詐欺が被害者に与える心理的影響を深く理解することを目的として行われました。これまで詐欺の被害については金銭面での調査が多く、心理的影響についての研究は非常に限られていました。

調査には「半構造化インタビュー」という手法が用いられました。これは、あらかじめ決まった質問項目を用意しつつも、相手の回答に合わせて柔軟に質問を深掘りしていく手法です。集められたデータは「テーマ分析」という質的研究の手法で分析されました。

調査対象(サンプル)となったのは、イギリス在住の男女(1名のみアメリカ在住)計20名です。年齢は38歳から71歳まで幅広く、被害額も300ポンド(約数万円)から24万ポンド(約数千万円)と多様でした。重要なのは、実際にお金を騙し取られた人だけでなく、「お金は取られなかったが騙されていたことに気づいた人」も含まれている点です。面接は3時間から5時間という長時間にわたって行われ、被害者の過去の恋愛関係から詐欺の詳細な経緯、そしてその後の人生への影響について深く語ってもらっています。

見えてきた実態

ダブルヒット(二重の打撃)という特異な被害構造

一般的な詐欺とは異なり、ロマンス詐欺の被害者は「金銭の喪失」と「大切なパートナーとの関係の喪失」という2つの喪失を同時に経験します。驚くべきことに、多くの被害者にとって金銭的な被害額の大きさに関わらず、「理想のパートナーだと思っていた人との関係が終わったこと」のほうが、より深刻な悲しみをもたらしていました。被害者は犯人との関係の中で、自分の内面を包み隠さず話せる癒やされる関係を築いていたと思い込んでいたため、その喪失感は身近な人の「死」を悼むプロセスにも似ていることが分かりました。

深刻な心理的ダメージと心のレイプ

すべての被害者が、恥、怒り、ショック、恐怖といった強い負の感情に苦しんでいました。ウェブカメラ越しに性的な行為を強要された被害者は、それを「性的虐待」や「心のレイプ」のように感じ、深刻な嫌悪感や心的外傷後ストレスの症状に苦しむケースもありました。自分は騙されたのだと気づいた後も、詐欺師が作り上げた「優しい恋人」のイメージと「冷酷な犯罪者」の現実を切り離すことができず、ひどく混乱する状態が続く人も少なくありませんでした。

二次被害のリスクと「否認」の危険性

騙されたという現実を受け入れられない「否認」の段階に留まってしまう被害者は、さらなる危険にさらされます。犯人は被害者が事実を知った後も、警察官や銀行員を装ったり、時には「本当に愛してしまった」と告白したりして再びお金を騙し取ろうとします(詐欺の第2波)。心の傷を埋めるために、偽りの関係であってもお金を払って続けたいと願ってしまう被害者も存在し、非常に痛ましい実態が明らかになりました。

周囲の無理解と孤立、そして自責の念

被害者をさらに追い詰めるのは、家族や友人からのサポートの欠如です。周囲から「どうしてそんなに愚かだったのか」と責められたり、遺産を失ったことで家族から絶縁されたりするケースがありました。その結果、被害者は周囲に真実を打ち明けることを恐れ、自分自身を深く責め続けることになります。この自責の念と孤立が、心の回復を大きく妨げているのです。

社会への示唆

この研究の貢献は、「恋愛詐欺=金銭詐取」だけでは捉えきれないことを、被害者の言葉で可視化した点です。支援の設計が変わります。具体的には、①警察・相談窓口は被害者を“だまされた人”ではなくトラウマと喪失を抱えた被害者として扱う、②発覚直後に心理支援へ即時接続する(否認期を放置しない)、③再被害を防ぐため「第二波」の典型パターンをセットで説明する、が重要になります。
また、法廷手続きでも配慮が必要だと提言しています。強い羞恥や性的侵害感、関係喪失の苦痛を抱えた状態での対面証言は再トラウマ化し得るため、保護措置(例:映像リンク等)の対象として検討すべき、という視点です。さらに職場や家族にとっても示唆があります。「なんで気づかないの?」は回復を壊しやすい。代わりに、責めずに事実を整理する手伝いと、専門家・公的窓口への同行が、再被害予防にもつながります。恋愛詐欺を“心のケアが要る犯罪”として位置づけ直したことが、本研究の大きな社会的価値です。

タイトルThe Online dating romance scam: The psychological impact on victims – both
financial and non-financial
類別Journal Article
筆者Whitty MT University of Leicester
Buchanan T University of Westminster
雑誌名Criminology & Criminal Justice: The International Journal of Policy and Practice
発行者SAGE Publications
発行日April 2016
巻数・ページVol 16, Issue 2, Pages 176-194
言語英語
URLhttp://wrap.warwick.ac.uk/81382 (Warwick Research Archive Portal)
CitationWhitty, M. T., & Buchanan, T. (2016). The online dating romance scam: The psychological impact on victims – both financial and non-financial. Criminology and Criminal Justice, 16(2), 176-194.

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