詐欺は“被害者なき犯罪”か!?

被害者学
被害者学被害者非難

Not a Victimless Crime: The Impact of Fraud on Individual Victims and their Families
Mark Button, Chris Lewis and Jacki Tapley

要約

本論文は、イングランド・ウェールズで実施された当時最大規模の詐欺被害者調査を用い、詐欺が個人と家族に与える影響を検証した。対面30件(被害者31名+親族等)と電話約800件(完了745件)の結果から、影響は金銭損失にとどまらず、強い怒りやストレス、関係悪化、心身の健康問題、評判毀損など多面的であることが示された。一部は「影響が小さい」と感じる一方、深刻に生活を崩すケースも多く、“詐欺は被害者のいない犯罪”という見方を否定する。


研究方法

この研究の強みは、「大規模な量的データ(電話)」と「深掘りの質的データ(対面)」を組み合わせて、被害の“幅”と“深さ”を同時に描いた点です。

  • 調査対象と規模
    • 対面インタビュー:30回の半構造化面接で、被害者31名親族3名を中心に聴取。多くは録音・文字起こしし、内容をコード化して分析しています。
    • 電話調査:被害者データベース等から抽出した1991名の名簿をもとに、745名(37%)が電話インタビューを完了。回答者の92%が個人被害者6%が親族・パートナー、小規模事業者は2%(16名)でした。
  • どんな詐欺が多かったか(電話調査の内訳)
    被害類型は幅広いものの、名簿の出所の影響で偏りがあります。電話調査では、名義盗用(Identity Fraud)42.6%ボイラールーム詐欺24.6%投資詐欺20.7%が大半を占めます。
  • 影響の測り方(電話調査)
    被害の影響を「怒り」「ストレス」「金銭損失」「関係悪化」「健康問題」など複数項目に分け、1=影響なし〜7=深刻で評価。さらに自由記述も記録して、数字だけでは拾いにくい“被害の実感”を補っています。
  • 注意点(限界)
    ①そもそも“被害を把握できている組織の名簿”が母集団なので、未報告被害は入りにくい。②地域はロンドン・南東部が多め。③類型も名義盗用・投資・ボイラールームが厚い。したがって「詐欺被害全体の完全な代表」とは言えません。
    ただし、だからこそ本研究は「支援に接続しやすい“顕在化した被害者”が、どんな二次被害まで抱えるか」を現実的に示した、とも言えます。

この研究で明らかになったこと~被害のリアル

結論から言うと、詐欺被害は“お金だけ”の話ではありません。しかも、同じ詐欺でも人によって影響の出方が大きく違います。

  • 影響は「怒り」と「ストレス」が突出
    電話調査で「深刻(5以上)」と評価された割合は、怒りが68.4%で最も高く、次いで金銭損失45.0%ストレス44.3%。心理・感情面(不安、喪失感、信頼低下など)も36.7%が深刻と答えています(表4)。
    つまり、経済被害が戻った/小さいケースでも、感情面の傷は残りやすい構造が見えます。
  • 金銭損失は少額〜甚大まで幅広い
    損失は100ポンド未満が15.7%いる一方で、10,000ポンド以上が約22%100,000ポンド以上〜100万ポンド未満が3.0%、100万ポンド超が0.1%と、被害額の幅が非常に広い。
    注目点は「額の大小=苦しさの大小」ではないこと。対面では、かなりの損失でも“影響は小さい”と語る人がいる一方、比較的小さな額でも生活・心身に響く例が語られています。
  • 家族関係の悪化や“隠す苦しさ”
    電話では、パートナー/家族との関係悪化が「深刻」17.2%、友人関係は9.1%(表4)。対面では、被害を恥じて配偶者に言えない、止めようとする家族と対立する、慢性的に詐欺に巻き込まれる家族が疲弊する、といった“家庭内二次被害”が具体的に描かれます。
  • 健康問題や希少だが重いアウトカム
    深刻な身体的健康問題10.8%、精神的健康問題7.4%、自殺念慮2.3%、自殺企図1.7%(表4)。割合は高くないものの、「詐欺が人生の安全基地(心身・家庭)を揺らす」ことを示すには十分重い数字です。
  • 二次被害:評判・濡れ衣・有名人化
    特に名義盗用では、本人がしていない行為の疑いをかけられるなど、評判毀損が深刻になり得ることが、事例として提示されています。さらに、報道等で周囲の目にさらされる“有名人化”が、同情と嘲笑の両方を招き、被害者を消耗させることも示されます。
  • 行動変容:用心深さは“防衛”だが副作用も
    被害後に、ネット購入やカード利用を避ける、他者を信じにくくなる、匿名性を強めるなどの変化が起きます。再被害予防としては合理的でも、行き過ぎると生活の自由度を下げ、社会参加を狭める副作用にもつながります。

社会への貢献

この論文の社会的な価値は、「詐欺=自己責任・軽い犯罪」という空気に、実証データでブレーキをかけた点にあります。貢献は大きく3つあります。

  1. “被害者がいる”を定量・定性で可視化
    怒り・ストレスが高率に報告され、関係悪化や健康問題も一定数ある。さらに評判毀損など二次被害も語られる——。これにより、詐欺を軽視したり、被害者を責めたりする見方の危うさを示しました。
  2. 支援設計を「金銭補填だけ」にしない根拠を提供
    たとえ金銭が補填されても、心理的ダメージや手続き負担、疑いをかけられる恐怖は残ります。支援側(警察・相談窓口・企業・自治体)が、
  • 感情面のケア(怒り・不安・羞恥)
  • 家族調整(隠蔽・対立・介入の難しさ)
  • 二次被害(評判、誤認、個人情報の悪用)
    まで視野に入れる必要がある、と示唆します。
  1. “影響の個人差”を前提にしたトリアージの発想
    「影響が小さい人もいる」一方で「壊滅的に苦しむ人もいる」。このばらつきを前提に、被害額だけで支援優先度を決めず、心理・生活・家族状況を含めた評価で支援を厚くする——そんな実務的な方向性を後押しします。
    SNS型詐欺の現場でも、返金可否より先に「眠れない」「家族に言えない」「周囲の目が怖い」などが深刻化することは珍しくありません。本研究は、その“見えにくい苦しさ”を支援に組み込む根拠になります。

タイトルNot a victimless crime: The impact of fraud on individual victims and their families
類別Journal Article
筆者Button M,  Lewis C, Tapley, J
University of Portsmouth(英国)
雑誌名Security journal
発行者Springer Science and Business Media LLC
発行日February 2014
巻数・ページ27(1)  36-54
言語英語
URLhttps://doi.org/10.1057/sj.2012.11
CiteButton, M., Lewis, C. & Tapley, J. Not a victimless crime: The impact of fraud on individual victims and their families. Secur J 27, 36–54 (2014). https://doi.org/10.1057/sj.2012.11

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