An Anatomy of ‘Pig Butchering Scams’: Chinese Victims’ and Police Officers’ Perspectives
Bing Han & Mark Button
要約
英国のポートマス大学のBing Han先生とMark Button先生の研究で、恋愛関係を装い「一緒に儲けよう」と投資・ギャンブル等へ誘導するハイブリッド恋愛投資詐欺(通称「殺猪盤」)を、中国人被害者6名と捜査経験のある警察官9名へのインタビューで分析。恋愛と金儲けの融合、越境・非対面の組織犯罪という特徴を示し、従来型ロマンス詐欺との違い(信頼の核が金銭動機、組織化の度合い等)を整理したものです。
研究方法~どう調べた?
この研究は、近年世界的に問題化している「殺猪盤」(日本でいうところのSNS型投資詐欺・SNS型投資ロマンス詐欺)を、当事者の語りから構造として捉え直すための質的研究(インタビュー研究)です。著者は侮蔑的に聞こえ得る「pig butchering」という呼称に配慮し、基本的には「hybrid romance-investment scam(ハイブリッド恋愛投資詐欺)」という呼び方を使っています(ただし一般に広く知られた呼称としてタイトル等では以前から使われている名称を使用)。
- 対象者(サンプル):中国人の被害者6名+中国の警察官9名
被害者は20代中心で、被害額が大きい例(数十万円〜数百万円相当)もあれば、金銭被害に至らなかった例も含まれます。警察官は詐欺対応の実務者です。 - 期間:2020年6月〜2022年末に実施
- 方法:COVID-19の制約下で、オンラインで中国語インタビュー(録音)→英語へ翻訳・文字起こし。ビデオ/音声のみ等、参加者の希望に合わせています。
- 分析:インタビュー内容を整理し、共通パターンを抽出するテーマ分析で、「この詐欺の特徴は何か?」に答える形で主要テーマを導出しています。
- 限界:中国での公式情報の入手難や安全面からサンプルが限定的で、加害者側へのインタビューは未実施(今後の課題)と明記しています。
何が分かった?
結論から言うと、殺猪盤の核は「恋愛で信頼させてお金を取る」だけではなく、恋愛×金儲けを同時進行させて、金銭動機で信頼を固める点にあります。研究が抽出した主要テーマは次の2つです。
- 恋愛と金儲けの融合、2. 非対面・遠隔・越境の組織犯罪
①「一緒に儲けよう」で関係を固定する
被害者の語りでは、関係構築中から詐欺師が「自分は稼げる」「稼ぐ手段がある」と示し、被害者を共同事業に招き入れる流れが繰り返し語られます。しかも儲け話は投資に限らず、ギャンブル、キャッシュバック、FXなど多様で、話法としては「合法っぽく」見せるストーリーで警戒心を下げていきます。
②少額で試す→成功体験→増額の導線
典型的なのが、最初は小さく試させ、リターンが出たように見せて安心させる手口です。断りにくい空気(好意・羞恥心)を使い、抵抗が強い場合は口座開設を手伝う、入金して見せる、ひどい場合は侮辱や感情的圧力まで使うと報告されています。
③従来型ロマンス詐欺との最大の違い=信頼の“燃料”
従来型は「愛情・会いたい気持ち」を軸に金銭要求へ進みがちですが、本研究は、殺猪盤では「金銭的に得をする」ことが信頼の中心になり、やり取りも利益獲得が主題になりやすいと整理します(被害者を“強欲だから”と責める意図ではない点も明確にしています)。
④詐欺師プロフィールも「金持ちロール」が基本
従来型でよくある「権威職の男性」「支援が必要な女性」という描き分けより、殺猪盤では男女どちらの偽プロフィールも経済的成功者・投資の達人として演出され、「助けて」ではなく「教える/一緒に稼ぐ」側に立つのが特徴です。
⑤越境・分業・資金洗浄まで含む「産業化」
警察官の視点では、被害者は国内にいる一方、詐欺側は東南アジア等から遠隔で動き、資金洗浄部隊、SIMやアカウント提供役、実行役などの分業があり、互いに面識がないケースすらあるため捜査が難しいと語られています。対策としては「資金洗浄チェーンを断つ(AML強化)」が重要という示唆が出ています。
社会への貢献
この研究の価値は、殺猪盤を「恋愛詐欺の亜種」ではなく、社会工学+投資・ギャンブル誘導+越境組織犯罪+資金洗浄が結合した“複合犯罪”として、現場の声で輪郭づけた点です。
- 啓発のメッセージを変えるヒント
「恋愛でだまされる」だけを注意喚起しても不十分で、実際には「一緒に儲ける」提案が信頼の土台になり得る。つまり、注意喚起は感情面+金銭面の同時対策(うまい儲け話、少額テスト、リターン演出)に寄せるべきだと読み取れます。 - プラットフォーム対策・金融対策をつなげる
口座・アプリ・サイトへ誘導し、段階的に被害を拡大する以上、SNS/マッチング上の接触だけでなく、送金経路・資金洗浄の遮断が実効的であることを、警察官の実務知として示しています。 - 国際協力と人権視点の重要性
論文は、これが大規模組織犯罪として運用され、強制労働が関与し得る点にも触れています。対策は一国単独では限界があり、越境犯罪としての捜査連携や政策整合が必要、という問題提起につながります。
| タイトル | An Anatomy of ‘Pig Butchering Scams’: Chinese Victims’ and Police Officers’ Perspective |
| 類別 | Journal Article |
| 筆者 | Bing Han Mark ButtonUniversity of Portsmouth, Portsmouth |
| 雑誌名 | Deviant Behavior |
| 発行者 | Informa UK Limited |
| 発行日 | Jan 16, 2025 |
| 巻数・ページ | 1–19 |
| 言語 | 英語 |
| URL | https://doi.org/10.1080/01639625.2025.2453821 |
| Cite | Han, B., & Button, M. (2025). An Anatomy of ‘Pig Butchering Scams’: Chinese Victims’ and Police Officers’ Perspectives. Deviant Behavior, 1–19. https://doi.org/10.1080/01639625.2025.2453821 |


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