“What action should l take?”: Help-seeking behaviours of those targeted by romance fraud 「私はどんな行動をとるべきか?」:ロマンス詐欺の標的となった人々の援助希求行動)
Wesley Meikle, Cassandra Cross
要約
オーストラリア・クイーンズランド工科大学のWesley Meikle先生とCassandra Cross先生による本論文は、ロマンス詐欺被害者の援助希求行動(助けを求める行動)を調査したものです。豪州の詐欺通報窓口「Scamwatch」に2018年7月~2019年7月に寄せられた3,259件の通報データを対象に、被害者の自由記述テキストを主題分析しました。その結果、被害者は自身を責める傾向にあるものの、全体の約28%にあたる908件で「助けを求める行動」が確認されました。被害者は「返金」や「犯人逮捕」といった個人的な正義の追求だけでなく、「他者の被害を防ぎたい」という利他的な動機からも通報を行っており、被害者は恥ずかしさから助けを求めないという社会的偏見を覆す結果となりました。
研究方法
本研究の目的は、ロマンス詐欺の標的となった人々が通報時にどのような動機を持っているのかを探り、「ロマンス詐欺の被害者は助けを求めることに消極的である」という一般的な認識が正しいかどうかを検証することです。
調査サンプルとして、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)が運営するオンライン詐欺通報ポータルScamwatchに、2018年7月1日から2019年7月31日までの間に報告されたロマンス詐欺のデータ3,259件が使用されました。
調査手法には、「主題分析(Thematic analysis)」という質的研究のアプローチが用いられています。研究者は、被害者が自らの言葉で書き込んだ「自由記述欄(フリーテキスト)」を一つひとつ評価し、そこに「助けを求める行動」が含まれているかを分析しました。さらに、その表現が直接的(明示的)か間接的(暗黙的)か、そして動機が「個人的・正義のため」か「利他的(他人のため)か」というカテゴリに分類してコーディングを行いました。
この研究で明らかになったこと・わかったこと
この研究から、主に以下の重要な事実が明らかになりました。
①「被害者は助けを求めない」という通説への挑戦
詐欺被害は自己責任と見なされやすく、被害者自身も強い恥や自責の念(自己非難)を抱えるため、通報率は3分の1以下にとどまると言われています。今回のデータでも実際に多くの「自己非難」の記述が見られました。しかし、そうした自責の念があるにもかかわらず、全体の約28%(908件)で行政や第三者に対して助けを求める行動がはっきりと確認されました。これは、被害者が単に沈黙しているわけではなく、能動的に解決策を探ろうとしていることを示しています。
② 助けを求める「2つの主な動機」
被害者が助けを求める動機は、大きく分けて以下の2つであることがわかりました。
- 個人的・正義の追求(Personal Justice): 失ったお金を取り戻したい、犯人を逮捕してほしい、あるいは「これは詐欺かどうか確認してほしい」「どう行動すべきか教えてほしい」といった個人的な救済を求めるケースです。
- 利他的な動機(Altruistic): 「お金は戻らないと分かっているが、他の人が同じ目に遭わないよう警告したい」「写真を使われた本人の名誉を守りたい」など、自分以外の誰かを守るために通報するケースも多数見受けられました。
③ 被害者の期待と支援機関の「ズレ」
この論文が浮き彫りにしたもう一つの深刻な問題は、被害者の期待と現実の支援体制とのギャップです。通報先のScamwatchのサイトには「個別のお金の回収や犯人の特定には協力できない(教育・啓発目的でのみ情報を使用する)」と明記されています。それにもかかわらず、多くの被害者が直接的な支援や捜査を期待して詳細な口座情報や切実なSOSを書き込んでいました。この「助けを求めても実質的な支援が得られない」という状況が、被害者のフラストレーションや二次的な絶望を生み出している可能性が指摘されています。
この論文の社会への貢献
この論文の最大の貢献は、ロマンス詐欺の被害者は恥ずかしさから助けを求めないという偏見をデータに基づいて打ち破った点にあります。被害者は、深い精神的ダメージや自責の念を抱えながらも、実際には声を上げ、誰かからの応答を待っているのです。
被害を減らすための予防喚起も重要ですが、すでに被害に遭ってしまった人々をこれ以上追い詰めないための受け皿づくりが急務です。日本においても、被害者が警察や消費者センター等に相談した際に、冷たくあしらわれること(二次被害)なく、適切な心理的ケアにつながる支援ネットワークの構築が求められます。私たち支援者や実務家も、彼らが発する小さなSOSを正しく受け止め、寄り添う姿勢を持ち続けたいものです。
用語解説
- 援助希求行動(Help-seeking behaviour): 個人が自分だけでは解決・改善できない問題に直面した際、意図的に第三者(専門機関、警察、カウンセラーなど)に働きかけ、問題解決のためのサポートを求める行動のプロセスを指します。
- 主題分析(Thematic analysis): 質的研究の手法の一つで、インタビューの文字起こしや自由記述のアンケートテキストなどのデータの中から、繰り返し現れる重要な意味のパターン(テーマ)を見つけ出し、整理して記述する分析方法です。
- 被害者非難(Victim-blaming): 犯罪やトラブルに巻き込まれた被害者に対して、「騙される方にも隙があった」「自業自得だ」と外部の人間が非難すること。また、被害者自身が「自分が愚かだったからだ」と自分自身を過剰に責めてしまう「自己非難(Self-blame)」も含まれます。
- Scamwatch(スキャムウォッチ): オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)が運営する、詐欺や悪徳商法に関するオンライン通報窓口および啓発ポータルサイトです。被害データの収集を行っていますが、個別の捜査や返金手続きを直接代行する機関ではありません。
| タイトル | “What action should l take?”: Help-seeking behaviours of those targeted by romance fraud(「私はどんな行動をとるべきか?」:ロマンス詐欺の標的となった人々の援助希求行動) |
| 類別 | Journal Article |
| 筆者 | Wesley Meikle, Cassandra Crossクイーンズランド工科大学 司法学部 / School of Justice, Queensland University of Technology, Australia |
| 雑誌名 | Journal of Economic Criminology, 3巻 (2024年) |
| 発行者 | ELSEVIER Science Direct |
| 発行日 | March 2024 |
| 巻数・ページ | 3, 100054 |
| 言語 | 英語 |
| URL | https://doi.org/10.1016/j.jeconc.2024.100054https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S294979142400006X?via%3Dihub |
| Cite | Meikle, W., & Cross, C. (2024). “What action should l take?”: Help-seeking behaviours of those targeted by romance fraud. Journal of Economic Criminology, 3, 100054. |


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