HE LIVED EXPERIENCES OF VICTIMS OF INVESTMENT SCAMS(日本語直訳:投資詐欺被害者の生きた経験)
Chris Lloyd C. Reyes, Daniel S. Jangulan, Paul Joseph Amamio, Pirfe B. Labastida, Edmar R. Daniel & Jose F. Cuevas, Jr.
要約
本論文は、フィリピン・ミサミス大学 犯罪学学部のChris Lloyd C. Reyes先生らの研究チームによって実施された質的研究であり、投資詐欺の被害者が直面する感情的・心理的・社会的な影響を明らかにしています。フィリピンのミサミス・オキシデンタル市の被害者を対象に、半構造化詳細インタビューやフォーカスグループディスカッションを用いた現象学的調査を行いました。その結果、被害者は単なる経済的損失にとどまらず、深い自責の念、人間関係における信頼の喪失、将来の目標の頓挫といった深刻な苦痛を経験していることが示されました。研究は、心のケアや社会的支援を含む包括的なアプローチが不可欠であると結論づけています。
研究方法
本研究は、投資詐欺の被害に遭った人々が、その出来事をどのように経験し、そこからどのように立ち直ろうとしているのかを深く理解することを目的としています 3。
調査は、現象学的な質的研究デザインを採用しています。対象となったのは、フィリピンのミサミス・オキシデンタル市に住み、実際に投資詐欺の被害に遭った人々です。研究に最も適した情報を提供できる対象者を選ぶため、目的別サンプリング(Purposive Sampling)という手法が用いられました。
データの収集には、対象者の生の声を引き出すための「半構造化詳細インタビュー」が実施され、被害者の背景、感情的・心理的・社会的影響、そして回復に向けたコーピング(対処)戦略について深く掘り下げられました。さらに、フォーカスグループディスカッションや、言語的・非言語的な表現を記録するための観察チェックリストも併用され、被害者の内面をより立体的に捉える工夫がなされています。
収集されたデータは、Moustakas(1994)の現象学的方法に基づいて分析されました。研究者自身の先入観を排除し、意味のある発言を抽出し、それらをテーマごとに分類して、被害者の経験をひとつの統合された物語として再構築するという精緻なプロセスを経て、彼らの深い心理的現実に迫っています。
この研究で明らかになったこと
被害者の生の語りから、彼らが経験した苦しみと回復のプロセスについて、以下の6つの重要なテーマが浮き彫りになりました。
- 感情的および心理的苦痛(Emotional and Psychological Distress)被害者は、お金を失ったことに対するショックだけでなく、激しい不安や「なぜ騙されてしまったのか」という強い自責の念に苛まれていました。食費や学費など、生活に不可欠なお金を失った絶望感は、彼らの自尊心を深く傷つけています。
- 経済的困窮と生活の混乱(Financial Hardship and Life Disruptions)詐欺による損失は、借金を抱える原因となり、日々の生活を脅かします。生活費を借りるためにさらに奔走するなど、経済的な不安定さが日常のルーティンや家族関係に深刻な悪影響を及ぼしていることがわかりました。
- 信頼の喪失と社会的課題(Loss of Trust and Social Challenges)詐欺被害は、他者への信頼を破壊します。被害者は裏切られた痛手から、他者(時には家族や友人さえも)を疑うようになり、周囲から「愚かだ」と批判されることを恐れて孤立を深める傾向がありました。
- 夢の先送りと目標の頓挫(Deferred Dreams and Interrupted Goals)失われた資金は、将来のためのものでした。学費を失い休学を余儀なくされたり、海外で働く夢が何年も延期されたりするなど、被害者の人生の軌道そのものが大きく歪められてしまう実態が確認されました。
- 信仰とスピリチュアルなコーピング(Faith and Spiritual Coping)深い絶望の中で、多くの被害者が「祈り」や「信仰」によって心の平穏を保とうとしていました。誰にも相談できない苦しみを、スピリチュアルな実践や自己反省を通して自己処理し、希望を取り戻していく様子が記録されています。(フィリピンならではのコーピング)
- 受容と自己反省(Acceptance and Self-Reflection)回復の過程において、被害者はただ打ちひしがれるだけでなく、この痛ましい経験を「人生の教訓」として受け入れようとします。安易な儲け話を警戒するようになり、家族への愛情や信仰といった目に見えない価値の重要性を再認識することで、レジリエンス(回復力)を獲得していくプロセスが明らかになりました。
この論文の社会への貢献
この研究が社会に与える最も大きな貢献は、投資詐欺の被害を単なる「金融リテラシーの欠如による経済的損失」として片付けるのではなく、個人のアイデンティティや人間関係、人生の目標までも破壊する「深刻なトラウマティック・イベント」として多角的に描き出した点にあります。
私たちが被害者支援やサイバー犯罪対策に関わる中で、つい「いかにお金を取り戻すか」「いかに手口を周知して防ぐか」という視点に偏りがちです。しかし本論文は、被害者が抱える強い自責の念や孤立感、失われた自己肯定感に対するアプローチがいかに不可欠であるかを強く訴えかけています。
論文の結論として、被害者を救済するためには、ソーシャルワーカーやメンタルヘルスの専門家によるトラウマケア、さらには孤立を防ぐためのコミュニティや宗教組織による精神的サポートを組み合わせた「包括的な支援システム」の構築が必要だと提言されています。
投資詐欺の手口がSNS等を通じて巧妙化し、誰もが被害に遭い得る現代において、社会全体が被害者に対して「自業自得」というレッテルを貼るのではなく、共感と理解をもって寄り添う環境を作ることが急務です。本研究の知見は、日本の学者、警察や行政当局、そして日々被害者の声に耳を傾けるカウンセラーやNPO関係者の皆様にとっても、支援の質を一段階引き上げるための重要なエビデンスとなるはずです。誰もが安心して夢を追える社会を取り戻すために、私たち一人ひとりがこの問題にどう向き合うべきかを教えてくれる、価値ある一編です。
用語解説
- 現象学的研究(Phenomenological research)質的研究の手法の一つです。客観的なデータや数値で物事を測るのではなく、当事者がその出来事を「どう経験し、どう感じ、どのような意味を見出しているのか」という内面の世界や主観的な体験そのものを深く探求する研究アプローチです。
- ポンジ・スキーム(Ponzi scheme) / ピラミッド・スキーム(Pyramid scheme)「高配当を約束する」と謳ってお金を集めながら、実際には運用を行わず、後から参加した人のお金を前の人の配当に回すだけの詐欺手法です。新しい参加者が途絶えた時点で必ず破綻し、多くの人が多額の資金を失う仕組みになっています。
- コーピング(Coping)ストレスや心理的な危機に直面した際に、それを乗り越えたり、負担を軽くしたりするために人が取る意識的な行動や思考のプロセスのことです。本論文では、祈りや自己反省、友人との交流などが、絶望から立ち直るためのコーピング戦略として機能していることが紹介されています。
| タイトル | HE LIVED EXPERIENCES OF VICTIMS OF INVESTMENT SCAMS(日本語直訳:投資詐欺被害者の生きた経験) |
| 論文の種類 | 査読論文、質的研究(現象学アプローチ) |
| 論文の分野 | 犯罪学、被害者学、犯罪心理学 |
| 著者 | Chris Lloyd C. Reyes, Daniel S. Jangulan, Paul Joseph Amamio, Pirfe B. Labastida, Edmar R. Daniel Jose F. Cuevas, Jrフィリピン・ミサミス大学 犯罪学学部 |
| 論文誌名・発行者 | American Research Journal of Humanities & Social Science (ARJHSS) |
| 発行日・巻数・ページ | 2025. 8(12), 169-180. |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://www.arjhss.com/wp-content/uploads/2025/12/L812169180.pdf |
| Cite | Reyes, C. L. C., Jangulan, D. S., Amamio, P. J., Labastida, P. B., Daniel, E. R., & Cuevas, J. F., Jr. (2025). THE LIVED EXPERIENCES OF VICTIMS OF INVESTMENT SCAMS. American Research Journal of Humanities & Social Science, 8(12), 169-180. |


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