Online Romance Scams and Victimhood
Tom Sorell, Monica Whitty
要約
オンライン恋愛詐欺は金銭被害だけでなく深刻な心理的傷も残し、被害者は自責や周囲からの非難にさらされます。本論文は「被害者に責任はあるのか」を、心理学の質的研究(被害者インタビュー等)と分析哲学(責任・信念形成の規範)を組み合わせて検討。警告を無視して送金を続けるケースや再被害などでは責任が一部共有され得る一方、恋愛感情が判断基準(証拠の扱い)をゆるめ、損害は不注意の度合いに比して過大になり得ると示します。
方法をかみ砕く
この論文はワーウィック大学のトム・ソレル先生とメルボルン大学のモニカ・ホィッティ先生の研究で、「データで被害の実態を掴む心理学」と「責任とは何かを詰める哲学」を合体させた、珍しいタイプの研究です。中心となる材料は次の3つです。
- 質的インタビュー(20名):被害者20名(女性14・男性6、38〜71歳)に、対面または電話で3〜5時間の半構造化面接を実施。詐欺の経緯だけでなく、過去の恋愛歴、なぜ信じたか、なぜ送金したか、生活への影響まで深掘りしています。被害は数か月〜3年と幅があり、詐欺が継続中の人や再被害者も含まれます。
- ケース記述(実例の比較):送金を止められた人、銀行の強い警告を無視した人、誘い出され海外で拘束(誘拐)まで経験した人、さらに別の詐欺に再び巻き込まれた人など、複数の事例を「どこで判断が崩れたか」という観点で比較します。
- 理論枠組み(信念の倫理・責任論):哲学の「信念は証拠に比例させるべき」という考え(いわゆる“信念の倫理”)を使い、被害者がどの局面で“証拠の重みづけ”を誤ったのかを整理します。同時に、恋愛における「信じる・疑わない・助ける」といった規範が、通常の警戒心を弱める点も理屈として説明します。
ポイントは、数字で相関を出す研究というより、被害者の語りと行動のパターンを材料に「責任が生じる条件/弱まる条件」を言語化しているところです。
分かった核心
結論を一言でいうと、被害者の責任は“ゼロか100か”ではなく、度合いの問題だということです。論文が焦点を当てるのは、特に次の3場面です。
- 同じ詐欺の中で送金が何度も続く(会う約束が直前で潰れ、また送金…の反復)
- 再被害(別の相手・別の筋書きでも繰り返し引っかかる)
- 警察・銀行・送金機関などの“権威ある警告”を受けても送る
ここで著者らは、「責任が共有されうる」状況として、反証(怪しいサイン)や第三者の警告が十分に入ってきているのに、信念を更新しない点を挙げます。たとえば、送金会社に止められて疑いが決定打になり、そこで関係を断てた事例では、被害者は“証拠に合わせて判断を切り替えた”と評価されます。一方で、銀行の強い警告を受けても送金を続けたり、警察に詐欺だと告げられても別の「新しい相手」を追い続けたりする事例では、証拠よりも「恋愛の物語」を優先してしまうため、一定の批判可能性が出てきます。
ただし著者らは、ここで安易な自己責任論に行きません。恋愛には「信じる」「悪く疑わない」「助ける」といった道徳的に望ましい態度が含まれ、それがオンラインの濃密なやり取り(ハイパーパーソナル)で加速すると、普通の場面より“疑うこと”が心理的に難しくなる。結果として、被害額や心理ダメージは「不注意の大きさ」に比べて過大になりやすい、という見立てです。
社会への示唆
社会的な貢献は大きく3つあります。
- 「被害者非難」と「責任の議論」を切り分けた
被害者を責めること(スティグマ化)を止めつつも、「どの条件で判断が歪み、再被害が起きるのか」を分析できる枠組みを提示しました。これにより、支援現場でも「叱る/説教する」ではなく、「どんな情報なら届くか」「どの段階なら止められるか」という設計の議論がしやすくなります。 - 介入の考え方を“段階型”にした
一律に送金停止・アカウント遮断のような強制策を取ると、本人の自己決定(エージェンシー)を奪う危険があります。そこで著者らは、まずは丁寧な助言・警告を重ね、それでも止まらず生活が破綻しうる水準に達するなら、条件付きで**より強い介入(送金ブロック等)**を検討すべきだ、という方向性を示します。 - 今後の研究課題を具体化した
詐欺師の文体・会話パターン、送金と濃密コミュニケーションの同時発生など、検知に使えそうな特徴を挙げ、心理学×計算機科学×倫理学で「警告の最適化」「ブロックの正当化条件(どこからが保護的介入か)」を詰める必要があると提案しています。
実務目線で言えば、啓発は「送金するな」だけでは弱く、“恋愛ゆえに疑いにくくなる心理”を前提に、第三者警告をどう通すか(誰が・いつ・どんな形で)が鍵だ、という示唆が得られます。
| タイトル | Online romance scams and victimhood |
| 類別 | Journal Article |
| 筆者 | Tom Sorell University of Warwick Monica Whitty University of Melbourne |
| 雑誌名 | Security journal |
| 発行者 | Springer Science and Business Media LLC |
| 発行日 | 1 September 2019 Published |
| 巻数・ページ | 32 (2). pp.342-361 |
| 言語 | 英語 |
| URL | https://doi.org/10.1057/s41284-019-00166-w |
| Cite | Sorell, T., Whitty, M. Online romance scams and victimhood. Secur J 32, 342–361 (2019). https://doi.org/10.1057/s41284-019-00166-w |


コメント