Fraudsters target the elderly: Behavioural evidence from randomised controlled scam-baiting experiments(詐欺師は高齢者を標的にする:無作為化対照スカム・ベイティング実験からの行動的証拠)
Jemima Robinson, Matthew Edwards
要約
英国ブリストル大学のRobinson先生とEdwards先生による本論文は、ネット詐欺師がどのような人物を騙しやすいターゲットとして好むのかを明らかにするため、画期的なアプローチを採用しました。研究チームは自動応答プログラムを用いて架空の被害者像を作成し、実際の詐欺師とメールでやり取りを行う実験を行いました。その結果、優しい高齢女性の人物像が、他の属性に比べて有意に長く詐欺師の関心を引きつけ、執拗に狙われることが判明しました。従来の被害者の自己申告に依存した研究とは異なり、詐欺師自身のリアルな行動データを直接収集した点に本研究の特異性があります。
研究方法
本研究は、詐欺師が実際にどのような特徴を持つ被害者に執着するのかを明らかにする目的で行われました 。研究チームは、スカム・ベイティング(詐欺師の注意をそらすために騙されたふりをしてやり取りを長引かせる手法)という手法を自動化したシステムを使用しました。まず、過去の犯罪学研究や一般へのアンケートを基に、以下の4つの架空のペルソナ(人物像)をプログラム上に設定しました。
- ドリス:優しく、技術に不慣れで人を信じやすい高齢女性
- アレックス:世間知らずで楽天的な若者
- サム:礼儀正しく教養のあるビジネスパーソン
- デイブ:無礼で懐疑的な中年男性
これらのペルソナを用いて、インターネット上で活動する実際の詐欺師に対して自動で返信を行い、どの人物像が最も長く詐欺師とのメールのやり取りを継続させられるか(詐欺師が騙せると判断して食いつき続けるか)を比較・検証しました。最終的に、自動化されたボット同士の会話等を除外した、296人の実際の詐欺師との会話データが分析対象となりました。
この研究でわかったこと
「優しい高齢女性」が最も狙われやすかった
実験の結果、ドリス(優しい高齢女性)のペルソナが、対照群(特別な性格を持たずランダムに応答するシステム)と比較して、統計的に有意に長く詐欺師との会話を継続させた唯一のペルソナでした。最長で30回ものメールのやり取りが続き、約21日間も詐欺師の時間を奪うことに成功しました。これは、詐欺師が高齢女性を騙しやすく、利益を得られる可能性が高いターゲットとして強く認識し、執着していることを示しています。
「無礼な中年男性」は早々に見切りをつけられた
ロマンス詐欺の典型的な被害者像を参考にして作られたデイブ(無礼な中年男性)は、会話の継続期間が最も短い結果となりました。不平や疑念をぶつけるような態度は、詐欺師にとって手間がかかる割に実入りが少ないと判断されやすいと考えられます。(ただし、本実験では遭遇したロマンス詐欺の割合が少なかった点には留意が必要です)。
「世間知らずで楽観的な若者」は最長期間の食いつきを引き出す
若年層が詐欺の標的になりやすいという先行研究を参考に作られたアレックス(世間知らずの若者)は、全ペルソナの中で最長となる31回(約14日間)のやり取りを継続させることに成功しました。小文字や顔文字を多用する楽観的で若者らしい文面や、親に内緒で進めようとする(自ら社会的サポートを絶つ)姿勢、そして怒られるとすぐに謝る従順さは、詐欺師にとって騙しやすく執着する価値があると判断されやすいと考えられます。高齢女性のドリスと共通する親しみやすさと騙されやすさが関心を惹きつけた要因と解釈されています。(ただし、対照群のボットと比較した場合、会話期間の延長において統計的に有意な差は認められなかった点には留意が必要です)。
「教養あるビジネスパーソン」は資金力の匂いで関心を維持させる
高い教育水準と経済力を持つ人物像として作られたサム(プロフェッショナルなビジネスパーソン)は、ドリスに次いで2番目に平均会話継続期間が長い結果となりました。きちんとした文法を用いて詳細や保証を尋ねる礼儀正しい態度や、有名企業のシニアマネージャーという役職付きのメール署名は、詐欺師に安定した仕事と自由に使える十分な資金がある(大きな利益が得られる)と確信させ、詐欺師の関心を惹きつけたと推測されます。(ただし、こちらも対照群と比較して統計的に有意な差には至らなかった点には留意が必要です)。
詐欺師特有の行動パターン:機嫌取りと孤立化の誘導
実際のやり取りの分析から、詐欺師の巧みな心理操作の痕跡も確認されました。彼らはターゲットが信じやすい人物かどうかを見極めるために過剰な褒め言葉を使ったり、これは詐欺ではない、秘密にしておいてほしいと繰り返し伝えることで、ターゲットを周囲のサポートから引き離そうとする行動を取ることがわかりました。また、自分を信心深い人間だとアピールして信用させようとする手口も確認されています。
この論文の社会への貢献
本研究は、被害者がなぜ騙されてしまったのかとご自身を責める必要がないことを強く示唆しています。詐欺師は、人の優しさや、孤独、テクノロジーへの不慣れさといった要素を意図的かつ巧妙に狙って近づいてきます。被害に遭うのは決して不注意だからではなく、加害者がプロフェッショナルとして弱点を突き、孤立させるよう仕向けているからです。
行政や警察、支援者の方々にとっては、特に高齢女性が執拗なターゲットにされているという客観的証拠に基づき、より効果的で実態に即した予防策や、テクノロジー教育のサポートを構築する根拠となります。
また、日々インターネットを活用している皆様にも、詐欺師の手口を知ることでご自身やご家族を守る盾としてこの知識を活用していただきたいと願っています。被害に遭われた方に温かく寄り添い、社会全体で防犯意識とサポートの輪を広げていくことが何より重要です。
解説者のコメント:詐欺師が本当に狙っているもの
最後に一つ重要な注意喚起をしておきたいと思います。それは、この論文の結果をもって騙されやすいのは優しい高齢女性であると単純に結論づけてはいけないということです。
その最大の理由は、実験で使用された自動応答プログラム(ボット)のペルソナ(人物像)に偏りがあるためです。今回の実験で用意されたのは、優しい高齢女性、世間知らずの若者、無礼な中年男性、プロフェッショナルなビジネスパーソンという特定の4種類のみでした。例えば、無礼で攻撃的な中年女性や経済的に困窮している30代など、社会に存在する多様な年齢・性別・立場の組み合わせが網羅されているわけではありません。論文の著者ら自身も、年齢や性格といった複数の要素を混ぜ合わせてペルソナを設計したことで、結果の解釈が複雑になり、特定の属性だけに原因を帰属させることの難しさを限界点として認めています。
したがって、私たちがこの研究から真に汲み取るべき知見は、どの年齢層や性別が狙われやすいかという表面的なデモグラフィック(人口統計学的属性)の話ではありません。むしろ、詐欺師は人間のどのような弱点につけ込み、罠にはめようとするのかという加害者の狡猾な心理操作の実態にあります。
実際に収集された詐欺師たちのメールの記録からは、彼らがターゲットの自尊心を満たすために過剰な称賛(おだて)を用いたり、私たちの関係は秘密にしてほしいと執拗に要求したりする様子がはっきりと確認されました。これはまさに、ターゲットを周囲の人間関係から引き離し、社会的に孤立させようとする意図的な行動です。先行研究においても、孤独や社会的サポートの欠如が詐欺被害の要因となることが示唆されていますが、詐欺師が本当に嗅ぎつけ、利用しようとしているのは、年齢や性別そのものではなく、人が誰しも抱え得る孤独や孤立、そして心や経済の隙間なのです。
被害に遭うのは高齢者だから、自分は若くて知識があるから大丈夫といったデモグラフィックに基づく安心感は、時に危険です。誰であっても、人生の困難な局面で孤立してしまったときには、弱点を突くプロフェッショナルである詐欺師の標的になり得ます。
被害に遭われた方の属性や性格を非難(Victim Blaming)するのではなく、加害者がどのように人の弱みにつけ込み、孤立へと追い込むのかという手口を社会全体で理解すること。そして、誰もが孤立せずに相談できる環境を整えることこそが、最も有効な詐欺対策になると言えるでしょう。
用語解説
- スカム・ベイティング(Scam-baiting):詐欺被害を減らすため、あるいは詐欺師の手口を明らかにするために、あえて騙されたふりをして詐欺師と接触し、彼らの時間やリソースを無駄にさせる行為です。
- ペルソナ(Persona):ここでは、実験のために作り上げられた架空の人物像やキャラクター設定を指します。
- 対照群(Control Measure):実験において、新しく試す条件(ここでは特定のペルソナ)の効果を正確に測るため、比較の基準として設けられるグループのことです。本研究では、特定の性格を持たずランダムに返信する自動応答システムがこれに当たります。
| タイトル | Fraudsters target the elderly: Behavioural evidence from randomised controlled scam-baiting experiments(詐欺師は高齢者を標的にする:無作為化対照スカム・ベイティング実験からの行動的証拠) |
| 論文の種類 | ジャーナル論文 |
| 論文の分野 | 犯罪学、被害者学、サイバーセキュリティ |
| 著者 | Jemima Robinson, Matthew Edwards (University of Bristol) |
| 論文誌名・発行者 | Springer Nature (Security Journal) |
| 発行日・巻数・ページ | 2024年1月18日公開, Vol. 37, pp. 1173–1196 |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | URL: https://doi.org/10.1057/s41284-023-00410-4 |
| Cite | Robinson, J., & Edwards, M. (2024). Fraudsters target the elderly: Behavioural evidence from randomised controlled scam-baiting experiments. Security Journal, 37, 1173–1196. https://doi.org/10.1057/s41284-023-00410-4 |


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