急増する暗号資産ロマンス詐欺「豚肉の解体」とは?従来型との比較で学ぶ最新の防犯・介入戦略

国際ロマンス詐欺、AFRSとInvRS 犯罪学
国際ロマンス詐欺、AFRSとInvRS
犯罪学論文解説

A scoping review of online romance scams: Conceptual construction and comparative analysis(オンライン恋愛詐欺に関する概観調査:概念構築と比較分析)
Fangzhou Wang

要約

アメリカ・テキサス大学アーリントン校のFangzhou Wang先生による論文”A scoping review of online romance scams: Conceptual construction and comparative analysis” は、世界中で深刻化するオンラインロマンス詐欺の最新の実態を解明し、犯罪の類型を構築することを目的に書かれました。本研究では、2024年から2025年に出版された62本の関連論文を網羅的に分析し、これまで一括りにされがちだったロマンス詐欺を前払い型(AFRS)投資型(InvRS)の2つに明確に区別しました。その結果、両者は加害者の組織構造や被害者の特性、被害の性質において大きく異なることが示されました。特に、これまでの英語圏中心の研究が見落としていた中国語圏の文献を取り入れ、東南アジアを拠点とする大規模な「投資型」詐欺の実態を比較分析に組み込んだ点に、本論文の特異性と高い価値があります。

研究方法

この研究は、ロマンス詐欺という犯罪の全貌を地図のように描き出し、実態や対策の課題を整理することを目的として、「スコーピングレビュー」という手法を用いて行われました。

具体的には、2024年1月から2025年10月というごく最近の期間に発表された、62本の学術論文や調査報告書(英語55本、中国語7本)を分析対象としています。手法としては、被害者や加害者の深い心理や背景をインタビューなどで掘り下げる「質的研究」と、アンケートや報告件数などのデータから全体的な傾向を数値で捉える「量的研究」の両方の結果を丁寧に読み解き、統合しています。

これまでの研究は英語圏のものに偏っていましたが、本研究では中国語の文献を意図的に含めることで、近年東南アジアで爆発的に増加している「豚の屠殺(Pig-butchering)」と呼ばれる投資型詐欺の実態を明らかにすることに成功しました。専門的な統計用語や犯罪学の理論に寄り掛かるだけでなく、様々な国の実例を比較することで、一般社会にも分かりやすい形で犯罪の構造を解き明かしています。

何が分かったか?

本研究は、ロマンス詐欺を2つの異なるタイプに分け、それぞれの実態を浮き彫りにしました。

ロマンス詐欺の2つの類型:「前払い型」と「投資型」

これまで同じ「ロマンス詐欺」と呼ばれてきた犯罪は、実は「前払い型(AFRS)」「投資型(InvRS)」の2つに分けられます。 前払い型は、昔ながらの詐欺の手法がインターネットを通じて広がったものです。加害者はターゲットとの間に恋愛感情や強い信頼関係を築き、「医療費が必要だ」「ビザのトラブルに巻き込まれた」といった危機をでっち上げ、繰り返し金銭の送金を求めます。 一方、投資型は、暗号資産(仮想通貨)や偽装された投資プラットフォームなどの高度なテクノロジーに依存した犯罪です。恋愛感情を利用して被害者を誘い込み、「確実な投資手法を教える」と持ちかけて、最終的に莫大な資金を奪い取ります。

加害者の背景:貧困による孤立した若者か、巨大な犯罪シンジケートか

前払い型の加害者は、西アフリカ等の国々で貧困や失業に苦しむ若者(主に男性)であることが多く、仲間内でノウハウを共有する「サイバー犯罪アカデミー」のようなコミュニティで活動しています。 対照的に、投資型の加害者は、東南アジアなどを拠点とする巨大で階層化された犯罪シンジケートに属しています。ここで特筆すべきは、投資型の末端の「加害者」の多くが、高収入の求人などに騙されて人身売買され、暴力や監視の下で詐欺を強要されている「被害者」でもあるという複雑な実態です。

被害者の特性と深い傷跡

前払い型では、孤独感や人間関係への渇望を抱える欧米の高齢女性がターゲットにされる傾向があります。被害は金銭面だけでなく、長期的な心理的支配や、場合によっては性的搾取といったドメスティックバイオレンス(DV)に似た深い心の傷を残します。 一方で投資型は、年齢や性別に関わらず「経済的に豊かになりたい」「借金を返したい」という願望を持つ多様な人々が狙われます。この手法では、数千万円から億単位の財産を一度に失うケースが多く、被害者を経済的な壊滅状態に追い込みます。 どちらの類型においても、被害者は強い「恥」の感情や自責の念に苛まれ、誰にも相談できずに孤立してしまうことが大きな問題として指摘されています。

求められる予防策の違い

前払い型の対策には、ターゲットにされやすい人々のデジタルリテラシー向上や、身近な人々による見守り、金融機関における送金時のアラートなど、「人」と「社会」を中心とした支援が不可欠です。 一方で投資型には、ブロックチェーンの追跡技術や、国境を越えた金融市場の規制、法執行機関の国際的な連携といった、システムやテクノロジーに基づくマクロな対策が求められます。

社会への貢献

「ロマンス詐欺」の解像度を上げ、適切な対策の道を開いた

本論文は、ロマンス詐欺を「前払い型」と「投資型」に明確に分類したことで、問題の構造を整理しました。これにより、単なる「騙されないように注意しましょう」という一律の呼びかけではなく、手口やターゲット層に合わせた具体的なシステム構築や法規制の設計が可能になります。

被害者へのスティグマ(社会的偏見)に警鐘を鳴らし、ケアのあり方を提示

被害者が直面する経済的・心理的な破壊の大きさを明らかにし、彼らが社会からの「自己責任」という非難によってさらに傷つき、孤立している現状を浮き彫りにしました。被害者は騙されやすかったから被害に遭ったのではなく、人間の心理の隙を突くプロフェッショナルな犯罪の標的にされたのです。支援においてはトラウマに配慮したアプローチが必要不可欠であることが示されています。

まとめ

この論文が示すように、オンラインロマンス詐欺はもはや「不注意な人が騙される」といった単純な問題ではなく、高度に産業化された国際犯罪です。行政や警察当局には、手口の実態に即した国際的な連携と、テクノロジーを用いた取り締まりの強化が求められます。支援団体や心理カウンセラー、医療関係者の皆様には、被害者の心に刻まれた「恥」とトラウマに深く寄り添い、決して非難することなく回復を支えるケアが期待されています。そして一般の私たち一人ひとりも、手口の巧妙さを正しく知り、もし身近に被害に遭った人がいたならば、自己責任を問うのではなく、温かく手を差し伸べられる社会を作っていくことが、この悪質な犯罪に対する最大の防御となるはずです。

用語解説

  • スコーピングレビュー(Scoping review) 特定の研究テーマに関して、どのような文献がどれくらい存在するのか、どのような知見があるのかを幅広く収集し、地図を作るように全体像を網羅的に整理する研究手法です。
  • 前払い型ロマンス詐欺(Advance fee romance scams: AFRS) ターゲットとオンラインで関係性を築いた後、緊急事態(医療費、事故、荷物の配送トラブルなど)や休暇の代理申請などを口実に、比較的小口の金銭の送金を繰り返し要求する従来型の手口です。
  • 投資型ロマンス詐欺(Investment-based romance scams: InvRS) 関係性を深めた後、暗号資産(仮想通貨)やFXなどの投資話を持ちかけます。精巧な偽のアプリやサイトを使って利益が出ているように見せかけ、最終的に高額の資金を一度に奪い取る手口です。「豚の屠殺(Pig-butchering)」詐欺と呼ばれることもあります。
  • サイバー・イネーブルド犯罪(Cyber-enabled crimes) / サイバー・ディペンデント犯罪(Cyber-dependent crimes) 「サイバー・イネーブルド犯罪」は、従来の詐欺などの犯罪がインターネットによって規模や速度が拡大したものを指します(前払い型が該当)。「サイバー・ディペンデント犯罪」は、暗号資産や高度なプラットフォームなど、その技術が存在しなければ成立しない犯罪を指します(投資型が該当)。
  • グルーミング(Grooming) もともとは動物が毛繕いをして清潔に保つ、あるいは信頼関係を深める行為を指していましたが、現代の社会問題(特に犯罪心理学やネット犯罪)においては、「ターゲットを心理的に手懐け、支配下に置くための準備工作」という意味で使われます。

タイトルA scoping review of online romance scams: Conceptual construction and comparative analysis(オンライン恋愛詐欺に関する概観調査:概念構築と比較分析)
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筆者Fangzhou Wang, University of Texas at Arlington, USA
雑誌名International Review of Victimology
発行者SAGE Publications
発行日Jan 23, 2026
巻数・ページ02697580251414141
言語英語
URLhttps://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/02697580251414141
CiteWang, F. (2026). A scoping review of online romance scams: Conceptual construction and comparative analysis. International Review of Victimology, 1–29. https://doi.org/10.1177/02697580251414141

2026.5.1 更新

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