What do we know about online romance fraud studies? A systematic review of the empirical literature (2000 to 2021)
Suleman Lazarus, Jack M. Whittaker, Michael R. McGuire, Lucinda Platt
概要
イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のSuleman Lazarus先生らによる研究論文”What do we know about online romance fraud studies? A systematic review of the empirical literature (2000 to 2021)” は、2000年から2021年までの国際ロマンス詐欺に関する26の実証研究を網羅的に分析したものです。本研究の目的は、この分野における現在の知識の到達点と、研究の偏りを明らかにすることでした。調査の結果、既存研究の多くが西洋の被害者に偏っており、西アフリカ等の加害者側の視点や文化的背景への理解が不足していることが判明しました。加害者と被害者双方の視点から総合的にこの犯罪を捉え直す必要性を訴え、これまでの偏った学術的理解に警鐘を鳴らしている点で、今後の被害防止に直結する特異かつ重要な意義を持つ論文です。
研究方法
本研究は、過去20年間に発表されたオンライン・ロマンス詐欺に関する研究から有益な知見を抽出し、知識の全体像と盲点を把握することを目的としています。システマティック・レビューという客観的で透明性の高い文献分析手法のPRISMAと呼ばれる厳格な国際ガイドラインに従い、複数の学術データベースから文献を検索しました。そして英語で書かれている、実証データに基づいている、査読(専門家による審査)を受けているといった厳しい基準をクリアした26の研究を厳選しています。サンプルの内訳は、被害者や加害者へのインタビュー、詐欺師のメッセージの記述などを深く読み解く質的研究が13件、アンケートなどの数値データを統計的に分析する量的研究が11件、両者を組み合わせた混合研究が2件です。難解な統計結果だけでなく、被害者の生の声やオンライン上の実際のやり取りを拾い上げる研究が多く含まれているのが特徴です。
この研究でわかったこと
本論文では、ロマンス詐欺の全体像に関する加害者・被害者に関する重要な知見が示されています。
加害者の巧妙な手口と正当化の心理
詐欺師の手口は、私たちが想像する以上に洗練されています。彼らはターゲットの年齢、性別、人種に合わせて用意された台本(スクリプト)を使い分けます。さらに、白人の魅力的な写真を盗用したり、ディープフェイク技術を用いて性別さえも偽装するなどして、被害者の理想像に付け込みます。また、単に金銭を要求するのではなく、軍人や医師といった権威を装ったり、医療上の緊急事態をでっち上げて被害者の恐怖心や同情心を煽り、冷静な判断を奪う手法が確認されています。注目すべきは加害者側の心理です。加害者の中には、自身の犯罪を過去の植民地支配で搾取された西洋への正当な復讐と考えたり、凶悪な強盗事件よりはマシだと自身の行為を正当化する者がいます。また、被害者を人間ではなく獲物と呼んで非人間化し、良心の呵責を消し去っていることもわかりました。さらには、男性だけでなく女性の詐欺師も増加傾向にあり、犯罪の多様化が進んでいます。
被害の深刻さとダブルパンチ
被害に遭うことは、決して被害者が愚かだから、或いは欲深いからではありません。詐欺師の高度な心理操作の標的になれば、社会経験が豊富な人であっても騙されるリスクがあります。被害者は大切なお金を失うという経済的打撃に加えて、信じていた深い愛情や絆がすべて嘘だったという事実に直面し、非常に重い心理的トラウマを負います。研究では、この経済と精神のダブルパンチ(二重の打撃)がいかに被害者を深く傷つけるかが強調されています。
既存の犯罪理論の限界と見落とされた地域的背景
これまで国際ロマンス詐欺の研究では、被害者がどのように騙されていくかを説明する詐欺師の説得テクニックモデルが主流でした。しかし本論文は、このモデルが西アフリカで古くからあるナイジェリア419詐欺(前払い金詐欺)」の構造に酷似しているにもかかわらず、アフリカの研究者たちの過去の貢献を無視していると鋭く指摘しています。また、これまでの研究データのほとんどが西洋諸国に偏っており、加害者が犯罪を成功させるために呪術やおまじないに頼るサイバースピリチュアリズムといった、犯罪が生まれる地域の文化的背景が見過ごされていることが浮き彫りになりました。
この論文の社会への貢献
被害者非難の払拭
この論文の最大の貢献の1つは、騙される側にも落ち度があるという誤った自己責任論を科学的に否定する根拠を示したことです。詐欺師は高度で組織的な心理操作の手法を用いてターゲットを支配するため、騙されるのは個人の弱さではなく、洗練された犯罪プロセスの結果です。社会全体がこの事実を正しく理解することは、被害者が恥ずかしさから被害申告できずに孤立してしまう二次被害を防ぎ、適切なカウンセリングや精神的ケアに繋がる大きな一歩となります。
グローバルな犯罪に対する多角的なアプローチの提示
本論文は、被害者側の心理的要因にばかり目を向けるのではなく、加害者がなぜ犯罪に手を染め、それをどう正当化しているのかという根本的な社会構造(貧困、富の美化、歴史的背景など)に光を当てました。これにより、単なる末端の摘発にとどまらず、加害者側の地域的特性を考慮した国際的な犯罪防止ネットワークを構築するための重要な指針を提供しています。
私たちが共に取り組むべき課題として
オンライン・ロマンス詐欺は、遠い世界の出来事ではなく、スマートフォンを持つすべての人に隣り合わせの脅威です。警察や行政当局には手口の高度化に対応する国際的な連携と捜査を、支援団体や医療・心理の専門家には「心の傷と経済的損失の二重の苦しみ」に深く寄り添うケアをお願いしたいと思います。そして一般の読者の皆様には、詐欺の巧妙な構造を知ることで、ご自身や大切な人を守るための防波堤となっていただきたいと強く願っています。
用語解説
- システマティック・レビュー (Systematic Review):特定のテーマに関する過去の膨大な研究論文を、あらかじめ決めた厳格なルールに従って漏れなく収集し、偏り(バイアス)を排除しながら統合・評価する客観的な研究手法のことです。
- PRISMA(プリズマ):システマティック・レビューを透明かつ正確に行うために定められた、国際的な報告のガイドライン(チェックリスト)です。
- 詐欺師の説得テクニックモデル (Scammers Persuasive Techniques Model):詐欺師がターゲットを見つけ、信頼関係を築き、最終的にお金を騙し取るまでの一連の心理操作のプロセスを段階的に説明した心理学的なモデルです。
- ナイジェリア419詐欺 / 前払い金詐欺 (Advance Fee Fraud):巨額の利益(遺産やビジネスの投資など)を得られると持ちかけ、そのための「前払い金(手数料)」を先に支払わせる詐欺の手法。ナイジェリアの刑法419条に違反することから、このように呼ばれています。いわゆる「国際ロマンス詐欺」は金銭的利益を得る手口の面では前払い金詐欺と酷似しています。
- サイバースピリチュアリズム (Cyber Spiritualism):インターネット上の詐欺行為を成功させたり、警察から逃れたりするために、加害者が超自然的な力や呪術、おまじないなどの霊的なアプローチに頼る現象のことです。
| タイトル | ”What do we know about online romance fraud studies? A systematic review of the empirical literature (2000 to 2021)” (私たちはオンライン・ロマンス詐欺研究について何を知っているのか?実証的文献のシステマティック・レビュー(2000年~2021年)) |
| 論文の種類 | ジャーナル論文 |
| 論文の分野 | 犯罪学 |
| 著者 | Suleman Lazarus (Mannheim Centre for Criminology, London School of Economics and Political Science), Jack M. Whittaker (University of Surrey), Michael R. McGuire (University of Surrey), Lucinda Platt (London School of Economics and Political Science) |
| 論文誌名・発行者 | Elsevier (Journal of Economic Criminology) |
| 発行日・巻数・ページ | 2023年7月5日(受理・発行年)・第2巻・100013 |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2949791423000131 |
| Cite | S. Lazarus, J. Whittaker, M. McGuire, L. PlattWhat do we know about online romance fraud studies? A systematic review of the empirical literature (2000 to 2021)J. Econ. Criminol., 2 (2023), Article 100013, 10.1016/j.jeconc.2023.100013 |


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