国際ロマンス詐欺の解剖図

手口モデル
手口モデル犯罪学

Anatomy of the online dating romance scam
Monica Whitty

要約

本論文は、マッチング/出会い系で起きる「国際ロマンス詐欺」(いわゆる投資名目を除く前払金型のSNS型ロマンス詐欺)を、被害者の体験と捜査側の知見から“5つの段階”として整理した研究です。公開支援サイト投稿200件、被害者20名の長時間インタビュー、英SOCA捜査官への聞き取りを統合し、①魅力的プロフィール→②親密化(グルーミング)→③送金要求(4パターン)→④性的搾取(少数)→⑤発覚、という流れを提示。予防策と被害者支援に役立つ枠組みを示しました。

3つの調査

この研究はMonica Whitty先生(執筆当時University of Warwick教授)が行なった質的研究による国際ロマンス詐欺の全貌を分析した研究です。この研究の強みは、「被害者がどう感じ、どう動いたか」と「捜査官が現場で見てきた典型」を重ねて手口の全体像を描いた点です。方法は質的研究(インタビューや投稿内容の分析)で、数字の大規模調査というより「起きていることを細部まで言語化する」アプローチです。

  • 調査1:公開支援サイトの投稿分析
    公開ウェブサイトから投稿200件を収集。内訳は、金銭被害者(男女各50)と、金銭は失っていないが心理的被害を訴える非金銭被害者(男女各50)。「お金は取られてないのに傷が深い」層も含めたことで、“どこで踏みとどまれたか”も見える設計です。
  • 調査2:被害者への詳細インタビュー(20名)
    1人あたり3〜5時間の聞き取り。年齢は38〜71歳、損失額は被害額は300ポンド(約4万円)から24万ポンド(約3500万円)に及び、関係期間は数か月〜3年と幅広い。職業・経済状況も多様で、「裕福さ=免疫」ではないことが示唆されます。なお一部では、ガーナへ渡航し誘拐被害に遭ったケースも報告されています(手口がオンラインから現地の暴力に接続する怖さが出ています)。
  • 調査3:SOCA(重大組織犯罪庁)捜査官へのインタビュー(約2時間)
    この詐欺を4年間捜査し、犯人側の事情も含めて見てきた専門家。被害者の語りだけでは見えにくい「送金経路」「資金洗浄の仕組み」「二次被害の再接触」などを補強しています。
    ※著者は「参加者の10%未満しか触れていない論点」は結果から外す、という基準も明示しています。

5段階の手口

論文の中心は、恋愛詐欺を5つの段階として整理し、さらに「お金を取る場面(第3段階)」が4つの軌道に分かれると示した点です。図1(論文末尾のフロー図)は、プロフィール→グルーミング→(4軌道)→性的搾取→発覚の流れを一望できる設計になっています。

第1段階:プロフィール(入口設計)
まず“引き”の強い人物像を作ります。男性向けにはモデル級の若い女性、女性向けには「高ステータス(軍人・実業家など)」「誠実」「子持ちの死別」など、相手が魅力を感じやすい属性が使われやすい。ここは進化心理学的な「異性が求めやすい条件」に寄せた設計だ、と論文は説明します(要は“刺さる設定を量産する”)。また、実際の犯人像(ガーナ/ナイジェリア等)を隠し、米独など別国籍を名乗る例が多い点も重要です。

第2段階:グルーミング(親密化の加速)
数日〜数週間で「愛してる」「結婚しよう」と一気に距離を詰め、やり取りをサイト外(メール、IM、電話、SMS)へ移します。朝晩の連絡、詩の送付(盗用も示唆)、長時間チャット、片側だけのウェブカメラなどで、被害者に“恋人が生活に常駐する感覚”を作る。被害者は非常に深い自己開示をし、癒やしを感じることすらある一方、振り返ると「相手の自己開示は薄い」ことに後から気づく——という語りが繰り返し出てきます。終盤には香水や携帯など小さな贈り物要求で“反応テスト”をすることもあります。

第3段階:送金要求(4つの軌道)
ここが勝負所で、送金は追跡されにくい手段(例:送金サービス)になりがちだと述べます。軌道は次の4つ。

  1. 少額→危機へエスカレート:最初は小さな送金(手数料、封印、旅費など)から始め、徐々に増額し、最後は医療・事故・税関・ストライキ等の“危機”で一気に取る。論文はこれを、最初に小さな要求を飲ませて一貫性で縛る「フット・イン・ザ・ドア」に近いと説明します。
  2. いきなり危機:最初から事故や病気、子どもの緊急事態などで大金を迫る。
  3. 危機→減額で落とす:最初の高額を拒否されると「じゃあ一部だけでも」と下げて合意を取りに行く。これは営業でいう「ドア・イン・ザ・フェイス」に近い動き。
  4. 少額を長期で反復:危機は作らず、学費・生活費・旅費など少額を何度も取り続ける(長期化しやすい)。

さらに深刻なのが、被害者を資金洗浄(マネロン)の中継に巻き込むケースです。捜査官によると、被害者が別の被害者口座へ送金し、転々とさせて追跡を困難にする。被害者自身が「犯罪に関与したかもしれない」と感じると通報しづらくなり、関係が切れにくくなる——この心理的足かせが語られます。

第4段階:性的搾取(少数だが重い)
十分に金銭を取った後、ウェブカメラ越しに性的行為を要求し、屈辱を与える例が少数報告されます。捜査官は、娯楽目的か、後の脅迫材料の可能性を示唆しています。

第5段階:発覚(そして二次波)
被害者は自力で気づく場合もありますが、当局や友人から知らされることも多い。喪失感は「お金」だけでなく「恋人の死に近い痛み」として語られ、羞恥で通報をためらう。加えて、発覚後も終わらないことがあり、第二波として「本当は愛していた」「警察官を装い返金には手数料が必要」などで再度接触する動きが描かれています。

社会への効き方

この論文の貢献は、「恋愛詐欺=だまされやすい人の問題」と片づけず、再現性のある「手口の設計図」として提示した点にあります。

  • 予防(個人・サービス事業者)に効く
    「愛の言葉が早い」「外部連絡へ急に移す」「会えない理由が続く」「小さな金銭・ギフト要求が出る」など、段階ごとの“赤信号”が具体的です。著者は対策として、遅くとも1か月以内に対面を提案し、それが延び続けるなら見切るのが合理的だと述べます(恋愛感情が完成する前に、現実検証を挟む発想です)。
  • 捜査・啓発(行政・企業連携)に効く
    送金経路の特徴、第三者(医師・弁護士・外交官役)を使った信憑性の補強、被害者をマネロンに巻き込む構造など、捜査側の観点が入っているため、注意喚起を“刺さる形”に設計しやすい。マッチングサービスの警告UIや通報導線にも落とし込みやすい枠組みです。
  • 被害者支援(心理ケア)に効く
    被害者が失うのは貯金だけでなく、“将来の人生設計そのもの”です。発覚後に断ち切れない心理(二次波に引っかかる)も含めて理解することで、支援者側が「まだ信じてしまうのは弱さ」ではなく、段階的に作られた結びつきの結果だと捉え直せます。これは治療・相談現場で大きい視点です。

タイトルAnatomy of the online dating romance scam
類別Journal Article
筆者Whitty MT(University of Leicester 執筆時)
雑誌名Security journal
発行者Springer Science and Businessた Media LLC
発行日October 2015
巻数・ページVol28, pp443-455
言語英語
URLhttps://doi.org/10.1057/sj.2012.57
http://link.springer.com/10.1057/sj.2012.57
https://consensus.app/papers/anatomy-of-the-online-dating-romance-scam-whitty/d2a7fa837d2051c9a197be99aa39a078/
https://www.semanticscholar.org/paper/d96d866fca85d8d03e0324e4f4ff2070832ad56e10.1057/sj.2012.570955-1662
citeWhitty, M. Anatomy of the online dating romance scam. Secur J 28, 443–455 (2015). https://doi.org/10.1057/sj.2012.57

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