A systematic literature review on criminological research on the history of cybercrime focusing on type of crime and geographic origin of the perpetrators(サイバー犯罪の歴史に関する犯罪学的研究のシステマティック文献レビュー:犯罪の種類と加害者の地理的起源に焦点を当てて)
NNE UDO EVOH PETERNWAIKE(マルメ大学 健康・社会学部 犯罪学科)
要約
スウェーデン・マルメ大学のNne Udo Evoh Peternwaike氏による修士論文「A systematic literature review on criminological research on the history of cybercrime focusing on type of crime and geographic origin of the perpetrators」は、インターネット黎明期から現在に至るサイバー犯罪の変遷と、加害者の地理的起源を歴史的犯罪学の視点から分析したものです。本研究では、1995年から2021年までの21の先行研究をシステマティック・レビューという手法で分析し、時代とともに変化する犯罪の種類(スパム詐欺やロマンス詐欺など)と、ナイジェリアなど特定の地域に犯罪の発生源が集中している構造を明らかにしました。サイバー犯罪の進化を単なる技術的脅威としてではなく、特定の地域を拠点とする歴史的・地理的な持続性を持つ現象として浮き彫りにした点で、特異かつ重要な知見を提供しています。
研究方法
システマティック・レビューは、過去に行われた多数の研究結果を体系的かつ客観的に収集・分析する手法です。この研究では、時代とともにサイバー犯罪の種類がどう発展してきたか、またその加害者の地理的起源がどのように変遷したかを文献調査から解き明かしました。インターネットが普及し始めた1995年から2021年までの期間を対象とし、主要な学術データベースからサイバー犯罪・インターネット詐欺・地理的起源などのキーワードを用いて文献を検索し、初期の検索でヒットした2,000件以上の文献の中から、研究目的に合致しないものを厳格な基準で除外してゆきます。最終的にサイバー犯罪の種類と加害者の位置情報が明記された21件の質の高い査読付き論文(専門家による厳しい審査を経た論文)を分析対象(サンプル)として選び出しました。
分析にあたっては、時間(いつ起きたか)・犯罪の種類(どのような手口か)・場所(加害者はどこにいたか)という3つの側面に注目し、それらが歴史的にどう関連し合っているかを読み解くという、非常に論理的かつ丁寧なアプローチがとられています。
この研究でわかったこと
この研究からは、サイバー犯罪が一過性の現象ではなく、特定の時間的・地理的背景を持ちながら進化してきた構造的な問題であることがわかりました。
長期にわたって持続・変化する特定の犯罪手口
分析の結果、オンライン詐欺や前払い金詐欺、スパム詐欺などが、10年以上の長期にわたり持続して発生していることがわかりました。さらに2000年代以降は、オンラインの出会い系サイトなどを悪用したロマンス詐欺が高い頻度で報告されるようになっています。これらは、技術がどれほど進化しても、人間の心理的な隙や信頼関係を巧みに悪用するという犯罪の根本的な性質が変わっていないことを示しています。被害に遭われた方は、ご自身の不注意を責める必要は全くありません。加害者は、人としての優しさや心理的な弱点を突くプロフェッショナルとしてシステム化された手法を使っているからです。
特定の地域からの犯罪発生の集中
通信のIPアドレスや発信元情報の分析結果から、ナイジェリアやガーナといった西アフリカの特定の国々が、サイバー犯罪の主要な発生源となっているケースが多いことが明らかになりました。他にも、ロシア、フランス、イギリス、トーゴなどの国々からも犯罪の発生が確認されています。サイバー犯罪は世界中どこからでも実行可能であると思われがちですが、実際には特定の地域の社会情勢や犯罪ネットワークを基盤にして、組織的・集中的に行われている傾向があることが示唆されています。
この論文の社会への貢献
グローバルな視点での犯罪抑止戦略への貢献
これまでサイバー犯罪対策は、技術的なセキュリティ強化に目が向けられがちでした。しかし本論文は、犯罪の種類と加害者がどこにいるのかという地理的要因を歴史的視点から結びつけることで、犯罪の根本的な解決には、特定の拠点(ハブ)に対する国際的な法執行機関の連携やアプローチが不可欠であることを示しました。これは行政や警察の皆様にとって、より効果的な国際捜査戦略を立てるための重要な土台となります。
被害者支援や心理的ケアへの応用
特定の犯罪手口(ロマンス詐欺など)が長期間にわたり特定の地域から組織的に仕掛けられているという事実は、支援者やカウンセラー、医療関係者の皆様にとって極めて重要な知見です。被害が発生するのは被害者が騙されやすかったからではなく、見えない海の向こうの犯罪組織が長年のノウハウを蓄積し、巧妙な罠を仕掛けているからです。この視点は、被害者の方々が抱きがちな強い自責の念を和らげ、支援者がより科学的かつ温かい心理的ケアを提供する際の強力な裏付けとなります。
私たち一人ひとりが自分事として捉えるために
一般市民の皆様にも、スマートフォンの画面の向こう側にいる見えない加害者がどのような歴史や背景を持ってアクセスしてくるのかを知っていただくことで、冷静な防犯意識(自衛)に繋がります。そして何より、巨大で巧妙な犯罪構造の存在を知ることで、万が一周囲で被害に遭われた方が出た際にも、決して被害者を非難せず、そっと寄り添い支え合えるような、優しくレジリエンスの高い社会をつくるための一助となるはずです。
用語解説
- システマティック・レビュー(Systematic Review):特定の研究テーマについて、世界中の過去の論文を網羅的に集め、偏り(バイアス)を極力排除しながら客観的な基準で評価・総合する研究手法のことです。
- 前払い金詐欺(Advance fee fraud):巨額の遺産や資金を受け取る権利があるが、その手続きのために先に少額の手数料を振り込んでほしいなどと持ちかけ、最終的にお金を騙し取る詐欺の手口です。2000年代からある、荷物の受け取りや相手の休暇申請でお金が請求されるなどの手口で知られる、日本語でいうところの国際ロマンス詐欺も前払い金詐欺の一種です。
- 査読付き論文(Peer-reviewed publication):学術雑誌などに掲載される前に、同じ分野の専門家たちによってその研究内容の妥当性や信頼性が厳しくチェック(査読)された論文のことです。
| タイトル | A systematic literature review on criminological research on the history of cybercrime focusing on type of crime and geographic origin of the perpetrators(サイバー犯罪の歴史に関する犯罪学的研究のシステマティック文献レビュー:犯罪の種類と加害者の地理的起源に焦点を当てて) |
| 論文の種類 | 修士論文 |
| 論文の分野 | 犯罪学 |
| 著者 | NNE UDO EVOH PETERNWAIKE(マルメ大学 健康・社会学部 犯罪学科) |
| 論文誌名・発行者 | Malmö University: Faculty of Health and Society, Department of Criminology |
| 発行日・巻数・ページ | 2021年8月、全31ページ(本文26ページ) |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://www.diva-portal.org/smash/get/diva2:1597293/FULLTEXT03.pdf |
| Cite | Evoh Peternwaike, N. U. (2021). A systematic literature review on criminological research on the history of cybercrime focusing on type of crime and geographic origin of the perpetrators (Master’s thesis). Malmö University, Malmö, Sweden. |


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