Unveiling the Patterns of Romance Scams in South Korea: Insights and Implications(韓国におけるロマンス詐欺のパターンを解き明かす:洞察と示唆)
Seoung Won Choi, Julak Lee, Yeon-Jun Choi
要約
韓国・ソウルの中央大学(チュンアン大学)のSeoung Won Choi先生らによる本論文は、近年韓国で急増しているロマンス詐欺の高度な手口と特有のパターンを解明することを目的としています。研究チームは、オンライン上のデータを用いた犯罪プロセスの段階的分析と、捜査の最前線に立つ捜査官への専門家インタビューを組み合わせる手法を用いました。その結果、犯行グループが高度に組織化されていることや、韓国では特に20代〜30代の若年層が標的になりやすいこと、さらにディープフェイク技術の悪用といった特異性が明らかになりました。本研究は、既存の法的枠組みの限界を指摘し、実情に即した被害者支援と効果的な予防策を講じるための重要な示唆を提供しています。
研究方法
本研究は、韓国におけるロマンス詐欺は具体的にどのような手口で行われているのか、他国で見られる事例とどう異なるのかという疑問を解き明かすために行われました。調査手法としては、まず韓国の主要な検索エンジン(Naver)やYouTubeから、ロマンス詐欺に関するニュース記事、ブログ、動画などの公開データを収集しました。そして集めたデータをもとに、犯人がターゲットを見つけてから金銭を奪うまでの犯罪の進行プロセスを、まるで映画の台本を読み解くように段階ごとに分解して分析するクライムスクリプト分析という手法を用いました。しかし、インターネット上のデータだけでは見えない実態もあります。そこで研究チームは、実際にロマンス詐欺の捜査にあたっている5名の現場捜査官にインタビューを実施し、分析結果をさらに精査しました。この際、ある専門家から別の適任者を紹介してもらうスノーボールサンプリングという手法で、更に様々な知見を持つ実務家を集めています。このように、データの分析と現場の声を組み合わせるトライアンギュレーション(三角測量)という多角的なアプローチをとることで、研究の偏りをなくし、より正確で信頼性の高い結果を導き出しています。
この研究でわかったこと
巧妙に組織化された犯罪グループと「フォーマット」の売買
ロマンス詐欺は単独犯ではなく、海外に拠点を置く巨大な組織によって実行されています。連絡役、資金の引き出し役、管理役など役割が明確に分担されています6。さらに驚くべきことに、犯行の前段階において、偽のプロフィール画像や身分証、被害者を騙すためのセリフの台本などがセットになった「フォーマット」と呼ばれる詐欺キットが取引されていることが判明しました14, 15。これにより、詐欺の実行が容易になり、被害が拡大しやすい状況が生まれています15。
若年層とLGBTQコミュニティへのターゲットの移行
欧米の調査ではロマンス詐欺の主な被害者は中高年女性とされてきましたが、韓国ではパンデミック以降、20代から30代の若年層が被害者の87.5%(2022年上半期)を占めていることが分かりました。また、LGBTQコミュニティを狙った詐欺も増加しています。これは、デジタルネイティブである若者がオンラインでの交流に慣れている一方で、コロナ禍による孤独感や、特定の出会い系アプリへの依存が高まった心の隙を突かれた結果だと考えられます。
コミュニケーションツールの悪用と文化的背景の罠
詐欺師は、最初はSNSなどで幅広くターゲットに接触し、関係が深まると韓国市場の95%のシェアを持つメッセージアプリKakaoTalk(カカオトーク)へと会話を誘導し、被害者を孤立させます。また、韓国には英語学習に対する強い熱意があり、言語交換アプリを通じて外国人と交流することに抵抗がないという文化的な背景があります。詐欺師はこうした語学を学びたい、外国人と親しくなりたいという純粋な思いを逆手にとり、心理的な距離を縮めていきます。
ディープフェイク技術と巧妙な心理操作(ガスライティング)の掛け合わせ
被害者が送金に慎重になると、詐欺師はAIを用いたディープフェイク技術を駆使してビデオ通話を行い、偽の魅力的な顔を動かして相手を完全に信用させます。さらに、最初は断りにくい小さな頼み事をして心理的なハードルを下げ、徐々に要求をエスカレートさせる手法をとります。同時に、ガスライティングと呼ばれる心理操作を継続的に行い、被害者の記憶や判断力を揺さぶり、詐欺師の言葉しか信じられない依存状態へと追い込みます。
この論文の社会への貢献
ロマンス詐欺の被害に遭われた方は、なぜあんな嘘に騙されてしまったのかと強い自責の念や恥の意識を抱き、深い心理的トラウマに苦しむことが少なくありません。しかし、本論文が明らかにした通り、犯行の手口は高度に組織化され、AIなどの最新技術や巧妙な心理操作が幾重にも張り巡らされています。被害者が騙されてしまうのは決してその人が愚かだからではなく、誰の心にもある親密な関係を築きたいという人間らしい願いが悪用されているからです。論文では、現在の韓国の法律(通信ベースの金融詐欺に関する法律)がロマンス詐欺を対象外としているため、口座の凍結や被害の回復が困難であるという制度的な抜け穴を強く指摘し、法改正の必要性を訴えています。これは日本社会にとっても対岸の火事ではありません。行政や警察、法曹関係者は、被害者の自己責任として片付けるのではなく、被害に寄り添い、実態に即した法整備や迅速な口座凍結などの制度拡充を急ぐ必要があります。また、一般市民や支援者の皆様には、詐欺の最新の手口を知ること自体が強力な自己防衛になること、そしてもし周囲に被害に遭った方がいれば、決して非難せずに心理的なサポートを提供することの重要性を、この研究は教えてくれています。
用語解説
- クライムスクリプト分析(Crime Script Analysis):犯罪者が犯行を思い立ってから準備し、実行し、逃走するまでの一連のプロセスを、演劇の台本(スクリプト)のように順序立てて分析する手法。犯罪のどの段階で介入すれば予防できるかを考えるために使われます。
- スノーボールサンプリング(Snowball Sampling):調査対象者から、さらにその条件に合う別の対象者を紹介してもらい、雪だるま式に調査対象を広げていく手法。特殊な専門知識を持つ人や、見つけにくい人々を調査する際によく用いられます。
- トライアンギュレーション(Triangulation):もともとは測量用語(三角測量)ですが、研究においては複数の異なるデータ収集方法や分析手法を組み合わせて、結果の正確性や信頼性を高めることを指します。
- ディープフェイク(Deepfake):AI(人工知能)技術を用いて、実在する人物の顔や声を別の動画や音声と合成し、あたかも本人が話したり行動したりしているかのような、極めて精巧な偽造動画を作る技術。
- ガスライティング(Gaslighting):被害者に誤った情報を与えたり、事実を否定したりし続けることで、被害者自身が自分の記憶や正気を疑うように仕向け、心理的に支配・操作する虐待の手法。
| タイトル | Unveiling the Patterns of Romance Scams in South Korea: Insights and Implications(韓国におけるロマンス詐欺のパターンを解き明かす:洞察と示唆) |
| 論文の種類 | ジャーナル論文 |
| 論文の分野 | 犯罪心理学、サイバー犯罪学 |
| 著者 | Seoung Won Choi (Chung-Ang University) Julak Lee (Chung-Ang University) Yeon-Jun Choi (Kwangju Women’s University) |
| 論文誌名・発行者 | International Journal of Cyber Behavior, Psychology and Learning |
| 発行日・巻数・ページ | 2024年1月-12月, Volume 14, Issue 1 |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://www.igi-global.com/gateway/article/357152 |
| Cite | Choi, S. W., Lee, J., & Choi, Y.-J. (2024). Unveiling the patterns of romance scams in South Korea: Insights and implications. International Journal of Cyber Behavior, Psychology and Learning, 14(1). https://doi.org/10.4018/IJCBPL.357152 |


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