Exploration of the Dynamics of Buy and Sale of Social Media Accounts(ソーシャルメディアアカウント売買のダイナミクスの探求)Mario Beluri, Bhupendra Acharya, Soheil Khodayari, Giada Stivala, Giancarlo Pellegrino, Thorsten Holz
要約
ドイツのザールラント大学のMario Beluri先生らによる研究論文 ”Exploration of the Dynamics of Buy and Sale of Social Media Accounts” は、ソーシャルメディア(SNS)アカウントの売買市場の実態と、そこで売買されたアカウントがどのように詐欺に悪用されているかを解明した画期的な研究です。主要5プラットフォームにおける約3万8千件の販売アカウントをデータ収集・分析した結果、約6400万ドル(約96億円)規模の市場が存在し、購入されたアカウントが投資詐欺やフィッシングなどに大規模に悪用されている実態を浮き彫りにしました。巧妙化するネット犯罪の構造を明らかにし、プラットフォーム側の対策不足を指摘する点で非常に特異かつ社会的意義の大きい論文です。
研究方法
本研究は、SNSアカウントの売買市場がどれほどの経済規模を持ち、取引されたアカウントが具体的にどのような悪質行為(詐欺など)に使われているのかを明らかにすることを目的としています。
調査のサンプルとして、X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、TikTok、YouTubeの主要5つのSNSプラットフォームを対象にしました。研究チームはインターネット上でアクセス可能な11の公開市場(アカウント売買サイト)と、匿名性の高いダークウェブ上の地下市場を調査しました。 具体的な手法としては、Webクローラーと呼ばれる自動プログラムを用いて、市場に出品されている38,253件のアカウントの公開データ(価格、フォロワー数、作成日など)を収集しました。さらに、そのうちSNS上の公開プロフィールURLが判明している11,457件のアカウントについて、実際に投稿された約20万件のメッセージ(ポスト)を収集しました。 集めた膨大な投稿内容は、トピックモデリングと呼ばれるAIを用いた自然言語処理技術によって自動的にグループ分けされ、その後、研究者の目で直接確認する質的な分析を組み合わせて、どのような詐欺の勧誘が行われているかを分類・特定しています。一般の読者にもわかりやすく言えば、自動プログラムで大量の証拠となるデータを集め、AIと人間の両方の目を使って、詐欺師たちがどのような手口で一般市民を騙しているのかを解読したという非常に網羅的かつ客観的な研究手法です。
この研究でわかったこと
巨大なSNSアカウント売買市場の存在とその手口
研究の結果、特定された11の公開市場だけでも、販売されているSNSアカウントの総価値は6,400万ドル(日本円で約96億円)を超えることがわかりました。驚くべきことに、販売されているアカウントのフォロワー数の中央値(平均的な数値)は約7,800人にも上り、最大で2,000万人ものフォロワーを持つアカウントも売買されていました。また、アカウントの約30%は2020年以前に作成された「古いアカウント」でした。詐欺師たちは、フォロワーが多く、長期間運営されているように見えるアカウントをお金で買うことで、一般のユーザーに対して「信頼できる本物のアカウントである」と誤認させる準備工作を容易に行っているのです。
巧妙な詐欺への悪用ルート
購入されたアカウントがどのような詐欺に使われているかを分析した結果、研究チームは1万8千件以上の詐欺関連の投稿を特定し、大きく6つの手口に分類しました。最も多かったのは**「金融詐欺(仮想通貨やNFTの投資詐欺など)」で、次にユーザーの関心を利用して偽サイトに誘導するフィッシング詐欺、そして「いいね」や「フォロー」を促して後々騙すための「エンゲージメントベイト(関心を惹きつける罠)」でした。さらに、ロマンス詐欺などに繋がるアダルトコンテンツ詐欺や、有名人や公式サポートを装うなりすましも確認されています。
不十分なプラットフォームの対策
このように大規模に詐欺アカウントが活動しているにもかかわらず、SNSプラットフォーム側がこれらの違反アカウントを検知し、凍結・削除できている割合(ブロックの有効性)は全体でわずか19.7%に過ぎないことが判明しました。特にYouTubeやFacebookでは検知率が5%台と極めて低く、プラットフォーム側の対策が詐欺師たちの巧妙な手口に全く追いついていない深刻な現状が浮き彫りになりました。
この論文の社会への貢献
被害者非難を防ぐための強力なエビデンス
「なぜそんな詐欺に騙されてしまったのか」と被害者を責める声は、社会に深く根付いています。しかし、この研究は、詐欺師たちが膨大な資金を投じて「何万人ものフォロワーがいる、何年も前から存在している信頼できそうなアカウント」を買い取り、システム化された手法で私たちを騙しに来ているという事実を証明しました。被害者が騙されるのは「不注意だから」ではなく、相手の準備が極めて高度でプロフェッショナルな犯罪ビジネスだからです。この知見は、カウンセラーや医療関係者、支援団体が被害者のトラウマに寄り添い、心理的ケアを行うための重要な裏付けとなります。
行政やプラットフォーム事業者に対する制度設計への提言
この論文は、個人の自己防衛だけでは限界があることを示しています。プラットフォーム事業者に対しては、アカウントの異常な売買の動きや急激なフォロワー増加を検知するシステムの強化を強く求めています。また、行政や警察、決済代行業者に対しては、アカウント売買そのものの資金の流れを監視し、法的な規制や消費者保護の仕組みを整備する必要性を訴えています。
私たち全員が自分事として向き合うために
SNSは今や私たちの生活基盤の一部です。この論文が示すサイバー犯罪の裏側を知ることは、一般市民が安全にデジタル社会を生き抜くためのリテラシーとなります。被害に遭われた方を孤立させず、「これは組織的な犯罪によるもので、決してあなたのせいではない」と社会全体で包摂する姿勢を持つこと。そして、行政や警察、プラットフォームに対して、より安全な空間作りのための抜本的な対策を求めていくこと。この研究は、そのための第一歩を踏み出す勇気を私たちに与えてくれます。
用語解説
- Webクローラー(Web Crawler): インターネット上のウェブサイトを自動的に巡回し、文章や画像などのデータを収集するためのプログラムのこと。本研究では、市場のウェブサイトから大量のアカウント情報を集めるために使用されました。
- トピックモデリング(Topic Modeling): 大量の文章データ(今回の場合はSNSの投稿)の中から、AIが自動的に隠れた「テーマ(トピック)」を見つけ出して分類する統計的な手法。人がすべて読むには多すぎるデータを効率的に分析するために使われます。
- フィッシング(Phishing): 実在する企業やサービスを装った偽のメッセージやリンクを送りつけ、パスワードやクレジットカード番号などの個人情報を盗み取る詐欺の手法。
- ダークウェブ(Dark Web / Underground Marketplaces): 通常の検索エンジン(GoogleやYahooなど)では見つけることができず、専用の特殊なブラウザを使わないとアクセスできないインターネットの領域。違法な物品やサービスが匿名で取引される地下市場が存在します。
- エンゲージメント(Engagement): SNSにおいて、ユーザーが投稿に対して「いいね」や「コメント」「シェア」などの反応を示すこと。詐欺師は、この反応を人為的に集めてアカウントの信用度を高く見せかけます。
| タイトル | Exploration of the Dynamics of Buy and Sale of Social Media Accounts(ソーシャルメディアアカウント売買のダイナミクスの探求) |
| 論文の種類 | カンファレンス論文 |
| 論文の分野 | サイバーセキュリティ、犯罪学、被害者学 |
| 著者 | Mario Beluri, Bhupendra Acharya, Soheil Khodayari, Giada Stivala, Giancarlo Pellegrino, Thorsten Holz(ザールラント大学、CISPAヘルムホルツ情報セキュリティセンター) |
| 論文誌名・発行者 | Proceedings of the 2025 ACM Internet Measurement Conference (IMC ’25) / 協会:ACM (Association for Computing Machinery) |
| 発行日・巻数・ページ | 2025年10月28–31日発行, 16ページ |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2949791426000060?via%3Dihub |
| Cite | Beluri, M., Acharya, B., Khodayari, S., Stivala, G., Pellegrino, G., & Holz, T. (2025). Exploration of the Dynamics of Buy and Sale of Social Media Accounts. In Proceedings of the 2025 ACM Internet Measurement Conference (IMC ’25). ACM. https://doi.org/10.1145/3730567.3732927 |

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