急増するSNS型投資ロマンス詐欺とは?従来型とここが違う!~ロマンス詐欺と投資詐欺の巧妙な融合

ロマンス詐欺と投資詐欺の巧妙な融合 犯罪学
ロマンス詐欺と投資詐欺の巧妙な融合
犯罪学論文解説

Romance baiting, cryptorom and ‘pig butchering’: an evolutionary step in romance fraud (ロマンスベイティング、クリプトロム、そして「豚の屠殺」:ロマンス詐欺における進化の段階)
Cassandra Cross

要約

オーストラリア・クイーンズランド工科大学のCassandra Cross先生による2024年に発表された論文 “Romance baiting, cryptorom and ‘pig butchering’: an evolutionary step in romance fraud” は、近年急増しているロマンス詐欺と投資詐欺が融合した新たな詐欺の手口について考察したものです。本研究の目的は、この進化した手法がなぜこれほどまでに成功し、甚大な被害をもたらしているのか、その根底にある理由を解明することにあります。研究手法として、政府機関のレポートや既存の学術文献の分析を行い、犯罪構造の変化を紐解きました。その結果、犯人は暗号資産(仮想通貨)の投資を装うことで被害者の警戒心を下げ、従来の中高年層から若年層へとターゲットを拡大していることが明らかになりました。結論として、この新たな手法は現在の犯罪統計の実態を歪め、従来の防犯メッセージを無効化していると指摘しています。本論文の特異性は、被害を個人の不注意とするのではなく、巧妙に進化を続ける犯罪システムの構造的課題を的確に浮き彫りにした点にあります。

研究方法

本研究は、新たな実験やアンケート調査を行うのではなく、既存の報告データや過去の知見を統合して論理的に考察する分析手法を用いています。具体的には、各国の政府機関(オーストラリア競争・消費者委員会:ACCCや、米国の連邦取引委員会:FTCなど)が公表している被害統計データを参照し、社会における被害のトレンドをマクロな視点で把握しています。 さらに、犯罪者がどのように被害者を心理的に操るかをモデル化した既存の枠組み(詐欺師の7段階の説得技術モデルなど)をベースに据え、新たな手口を照らし合わせました。その上で、近年世界中で報告されているロマンスベイティングや豚の屠殺と呼ばれる暗号資産を用いた投資詐欺の事例を抽出し、従来のロマンス詐欺の手法とどのように融合・進化しているかを質的に比較分析しています。このように、社会で実際に起きている現象をデータと心理学・犯罪学の理論に結びつけることで、目に見えにくい犯罪のメカニズムを明らかにしています。

この研究でわかったこと

本研究は、ロマンス詐欺と投資詐欺を組み合わせた新たな手口が、なぜこれほどまでに被害を拡大させているのかについて、大きく以下のポイントで解明しています。

巧妙に悪用される「関係性」の力 

犯人はターゲットと恋愛感情や深い信頼関係を築き、「二人の将来のために」といった甘い言葉で暗号資産への投資を勧めます。冷たい電話勧誘の投資詐欺とは異なり、好意を寄せる相手からの提案や成功体験の共有であるため、被害者は自発的にお金を出してしまいます。これは極めて巧妙な心理的操作であり、被害者が自らコントロールされていることに気づくのは非常に困難です。

若年層へと広がるターゲットの拡大

これまでの伝統的なロマンス詐欺は、配偶者との離別などを経験した中高年層が主なターゲットでした。しかし、暗号資産などの投資要素を組み合わせることで、20代から30代といった投資に関心の高い若年層や高学歴層へと被害が劇的に拡大しており、犯罪者にとって新たな「市場」が開拓されてしまっています。

警戒心を抱かせない仕組み

従来の詐欺では、「家族が病気になった」「トラブル解決に必要」といった緊急事態を理由に直接お金を振り込ませる手口が主流でした。これに対しては誰もがある程度警戒を抱きます。しかし新たな手口では、自分名義の投資サイトのアカウント(実際は犯人が操作する偽サイト)に「投資」するという形式をとるため、直接お金を無心されている感覚がなく、詐欺のサインに気づきにくくなっています

被害の自覚と捜査の極めて高いハードル

被害者は、精巧に作られた偽の投資サイト上で一時的に利益が出ている画面を見せられます。そのため、後にお金が引き出せなくなっても「詐欺に遭った」のではなく、「暗号資産というハイリスクな投資で失敗しただけだ」と思い込んでしまう傾向があります。さらに暗号資産の匿名性の高さから、法執行機関が資金を追跡することが極めて困難であり、泣き寝入りせざるを得ない状況を生んでいます。

この論文の社会への貢献

この研究が社会にもたらす意義は、私たちが現在行っている詐欺対策や支援の枠組みを根底から見直す契機を与えてくれる点にあります。

既存の統計や防犯メッセージの限界の提示

現在の警察や行政の啓発キャンペーンでは、「ネットで会っただけの相手にお金を送らないで」というメッセージが主流です。しかし、自ら投資サイトに入金していると認識している被害者には、この言葉は全く響きません。また、統計上も単なる「投資詐欺」として計上されることが増え、背後にあるロマンス詐欺としての深刻な実態が見えにくくなっているという構造的問題を浮き彫りにしました。

対策の方向性のパラダイムシフト

研究は、特定の手口に対する場当たり的な注意喚起には限界があると指摘しています。より広範な教育的アプローチとして、一般的な「金融リテラシー」の向上や、支配的でない「健全な人間関係のあり方」を社会全体で学んでいくことが、結果的に詐欺被害の予防に繋がる可能性を示唆しています。

被害者に寄り添う社会へ

行政や警察当局は、被害の実態に即した新たな指標の作成と啓発のアプローチが求められます。そして、支援団体・カウンセラー・医療関係者の皆様におかれては、被害者が「全財産を失った喪失感」に加え、「深く愛し信じていた関係性を失った悲しみ」という**「二重の苦しみ」を抱えていることへのより深い共感が不可欠です。 私たち一般市民は、この手口がいかに人間の心理の隙を突いた精緻なシステムであるかを知る必要があります。「騙される方が悪い」という非難は絶対に避け、「誰の身に起きてもおかしくない」という事実を受け止め、温かくサポートできる社会を築いていく**ことが、この研究から得られる最大の教訓です。

用語解説

  • ロマンス詐欺 (Romance Fraud): インターネット(マッチングアプリやSNSなど)を通じて恋愛関係や深い親密さを装い、ターゲットの好意や信頼を悪用して金銭をだまし取る詐欺行為のことです。
  • 投資詐欺 (Investment Fraud): 利益が出ると嘘をつき、実体のない投資話や架空のシステムに資金を振り込ませる詐欺です。近年は、法整備が追いついていない暗号資産(仮想通貨)がよく利用されます。
  • ロマンスベイティング (Romance Baiting): オーストラリアの機関などで使われるようになった言葉で、「恋愛(Romance)」を「餌(Bait)」にして、最終的に投資詐欺などに引き込む手口を指します。
  • クリプトロム (Cryptorom): 「暗号資産(Cryptocurrency)」と「ロマンス詐欺(Romance scam)」を掛け合わせたセキュリティ業界発祥の造語です。
  • 豚の屠殺 / Pig Butchering (殺猪盤): 中国を発祥とする詐欺の隠語です。ターゲットとじっくり時間をかけて信頼関係を築くプロセスを「豚を太らせる」ことに例え、最終的に高額な投資話をもちかけて全財産を奪い取る行為を「屠殺する(殺す)」と表現した、非常に残酷かつ計画的な手口を示します。
  • 二重の苦しみ (Double Hit): ロマンス詐欺特有の被害者の心理的ダメージを指します。金銭的な「財産の喪失」だけでなく、信じていた相手との「関係性の喪失(失恋の悲しみ)」の両方を同時に味わうため、回復に時間がかかると言われています。
  • レッドフラッグ (Red Flags): 直訳すると「赤い旗」ですが、犯罪学などの分野では「危険を知らせるサイン」や「詐欺を疑うべき明白な兆候」を意味します。

タイトルRomance baiting, cryptorom and ‘pig butchering’: an evolutionary step in romance fraud (ロマンスベイティング、クリプトロム、そして「豚の屠殺」:ロマンス詐欺における進化の段階)
論文の種類ジャーナル
論文の分野犯罪学
著者Cassandra Cross(School of Justice, Queensland University of Technology / クイーンズランド工科大学 司法学部)
論文誌名・発行者Routledge, Taylor & Francis Group (Current Issues in Criminal Justice)
発行日・巻数・ページ2024年・Volume 36, Number 3・334–346ページ
原著論文の言語英語
URLhttps://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10345329.2023.2248670
CiteCross, C. (2024). Romance baiting, cryptorom and ‘pig butchering’: an evolutionary step in romance fraud. Current Issues in Criminal Justice, 36(3), 334–346. https://doi.org/10.1080/10345329.2023.2248670

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