Influencing factors and mechanisms of action on the participation intentions of cryptocurrency investment fraud victims—A quantitative examination from the perspective of the theory of planned behavior(暗号資産投資詐欺被害者の参加意図に影響を与える要因と作用メカニズム—計画的行動理論の観点からの定量的検証)
Jianbo Wang, Liang Deng
論文の要約
中国・北京の首都経済貿易大学のJianbo Wang氏とLiang Deng氏による本研究は、暗号資産(仮想通貨)投資詐欺の被害者がなぜ投資に参加してしまうのか、その心理的メカニズムを定量的に分析しています。中国の被害者287名を対象とした調査データを用い、人間の行動要因を予測する「計画的行動理論」の枠組みから分析しました。結果として、自信やリスクを好む性格が参加意図を高める一方、法規制の理解や投資教育、詐欺の具体例を知ることが投資意図を効果的に抑制できることが判明しました。また、暗号資産の特性上、周囲の忠告よりも個人の判断が優先されやすいことも特異な発見です 4。被害者を単に「騙された存在」としてではなく、限られた情報の中で意思決定を行う主体として捉え直した意義深い論文です。
研究方法
本研究は、暗号資産投資詐欺の被害者がどのような心理や要因から投資を決断したのかを客観的に解明するため、量的研究(データを数値化して統計的に分析する手法)を用いて行われました。調査は、暗号資産詐欺事件を担当する警察官の協力を得て、中国の実際の詐欺被害者の方々にアンケートを配布し、287名から有効な回答を得て実施されました。
分析には、人間が行動を起こす前の「意図」がどのように形成されるかを説明する心理学のモデルを基に、さまざまな要因がどのように絡み合っているかを視覚的・数理的に捉える高度な統計手法が使われました。具体的には、回答者の「性格特性」「法規制の知識」「投資教育の経験」「詐欺の典型事例を知っていたか」といった要因が、最終的な「投資に参加する意図」に直接どのような影響を与えたか、あるいは個人の「投資への態度」や「自分ならうまくできるという自信」を通じて間接的にどう影響を与えたかを詳細に調査しています 8, 9。主観的な偏見を排除し、データに基づいて被害のメカニズムを浮き彫りにしている点がこの研究の大きな特徴です。
この研究でわかったこと
調査の結果、詐欺被害は決して「本人が愚かだから」起きるのではなく、人間の自然な心理的メカニズムが詐欺師に悪用された結果であることがわかりました。大きく3つの重要なポイントが明らかになっています。
リスクを好む性格と自信がもたらす影響
リスクを取ることを恐れない性格や、新しいものを学ぶことに自信がある人は、暗号資産に対しても前向きな態度を持ちやすいことがわかりました。こうした性格特性は本来、社会で活躍するための素晴らしい強みですが、詐欺師は巧妙にその「自信」や「好奇心」を刺激します。結果として、「自分ならこの投資をコントロールできる」という心理的ハードルが下がり、投資に踏み切ってしまう傾向が確認されました。
正しい知識と具体的な事例が持つ強力な防波堤効果
暗号資産に関する法規制の存在を知っていること、リスクに関する実践的な投資教育を受けていること、そして過去の典型的な詐欺事例を知っていることは、投資への参加意図を大きく押し下げる強力な要因であることが証明されました。これらは単に「危ない」という直接的な警戒感を生むだけでなく、美味しい話には裏があると投資に対する態度を冷静にさせ、自分には見極めきれないかもしれないと過剰な自信を抑え込むという、二重の防波堤として機能します。
周囲の忠告が届きにくい「暗号資産」特有の落とし穴
通常、人は何か大きな決断をする際、家族や友人など重要な他者の意見に影響を受けます。しかし、暗号資産詐欺の文脈においては、他者の意見(社会的圧力)が投資の意思決定にほとんど影響を与えないことが判明しました。これは、暗号資産が非中央集権的で専門的・匿名的な性質を持つため、被害者が周囲の意見よりも自分自身の判断やネット上の情報を優先してしまうためと考えられます。周囲が止めても被害に遭ってしまう背景には、こうした技術特有の心理的孤立があるのです。
この論文の社会への貢献
本論文は、詐欺に遭うのは自己責任だといった被害者を責めるような社会的な思い込みを覆し、被害者が情報不足の中でいかにして合理的に意思決定をしてしまったのかを科学的に証明した点で、大きな社会的意義を持っています。
行政や警察にとっては、単に詐欺に注意と呼びかけるだけでなく、法規制の具体的な仕組みや、過去の手口(事例)を視覚的かつ詳細に伝える広報活動がいかに有効であるか、という科学的な根拠を提供しています。また、被害者支援団体や医療・心理専門家にとっては、被害者の複雑な心理プロセスを理解し、自責の念に苦しむ被害者に寄り添い、心の傷を回復するための具体的な支援の手がかりとなります。
そして何より、一般の市民や投資を考えているすべての人にとって、自分自身の自信が時に死角になること、そして正しい知識と事例を学ぶことが最強の防具になることを教えてくれます。私たちは皆、情報化社会において当事者になり得ます。この研究は、社会全体で被害を防ぎ、孤立させないための温かくも力強い道標となるでしょう。
用語解説
計画的行動理論(TPB:Theory of Planned Behavior)人間が特定の行動を起こす前には必ず「そうしようとする意図」があり、その意図は「個人の態度」「周囲からのプレッシャー」「自分にそれができそうかどうかの自信」の3つによって決まる、とする心理学の代表的な理論です。
構造方程式モデリング(SEM:Structural Equation Modeling)目に見えない複雑な心理的要因(例えば「自信」や「態度」など)が、最終的な結果にどのように影響を与え合っているのかを、複数の数式を使ってネットワークのように視覚化し、検証する統計手法のことです。
知覚された行動統制(Perceived Behavioral Control)「自分ならその行動をうまくやり遂げることができる」「自分にはそれをコントロールするだけの能力や資源がある」と本人が主観的に感じている度合いのことです。この感覚が高いほど、人は実際の行動に移りやすくなります。
主観的規範(Subjective Norms)家族や友人、職場の同僚など、自分にとって重要な人々が「自分のその行動をどう思うだろうか」「賛成してくれるだろうか」と感じる主観的な社会的プレッシャーのことです。
媒介変数(Mediating Variable)原因と結果の間に入って、両者をつなぐ「橋渡し」の役割をする要因のことです。例えば「教育(原因)」が「投資をやめる(結果)」に繋がる際の間にある、「危険性に気づく(媒介)」といった心理的変化を指します。
| タイトル | Influencing factors and mechanisms of action on the participation intentions of cryptocurrency investment fraud victims—A quantitative examination from the perspective of the theory of planned behavior(暗号資産投資詐欺被害者の参加意図に影響を与える要因と作用メカニズム—計画的行動理論の観点からの定量的検証) |
| 論文の種類 | ジャーナル論文 |
| 論文の分野 | 被害者学、心理学、法学 |
| 著者 | Jianbo Wang, Liang Deng (首都経済貿易大学 ) |
| 論文誌名・発行者 | PLoS ONE |
| 発行日・巻数・ページ | 2026年2月25日・Vol. 21, Issue 2, e0339989 |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0339989 |
| Cite | Wang, J., & Deng, L. (2026). Influencing factors and mechanisms of action on the participation intentions of cryptocurrency investment fraud victims—A quantitative examination from the perspective of the theory of planned behavior. PLoS ONE, 21(2), e0339989. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0339989 |


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