ロマンス詐欺×性的脅迫の罠とは?金銭を支払ってしまう被害者の心理と特徴

「払うのか、それとも払わぬのか」 被害者学
「払うのか、それとも払わぬのか」
被害者学論文解説

To pay or not to pay: An exploratory analysis of sextortion in the context of romance fraud(支払うべきか、支払わざるべきか:ロマンス詐欺の文脈におけるセクストーションの探索的分析)
Cassandra Cross, Karen Holt,Thomas J Holt

要約

オーストラリア・クイーンズランド工科大学のCassandra Cross先生らによる研究論文「To pay or not to pay: An exploratory analysis of sextortion in the context of romance fraud」は、近年深刻化するロマンス詐欺の過程で発生するセクストーション(性的脅迫)に着目した画期的な研究です。本研究は、オーストラリアの詐欺報告データを用い、ロマンス詐欺の中でセクストーション被害に遭った人や、脅迫に屈して金銭を支払った人の特徴を量的に分析しました。結果として、被害者は若年男性が多くSNS経由で標的になりやすいこと、さらに経済的困難や慢性疾患を抱える人ほど金銭を支払いやすいことが判明しました。ロマンス詐欺と性的脅迫の交差という新しい被害実態を浮き彫りにし、立場の弱い人々への支援の必要性を示した点で非常に大きな意義を持つ論文です。

研究方法

本研究の目的は、ロマンス詐欺の手口として「セクストーション」がどのように組み込まれているかを調査し、どのような特徴を持つ人が被害に遭いやすく、またどのような要因が脅迫に対する金銭の支払いにつながるのかを明らかにすることです。

調査のサンプルには、オーストラリアのオンライン詐欺報告ポータルサイト「Scamwatch」に寄せられた、2018年7月から2019年7月までのロマンス詐欺の報告データが用いられました。分析可能な2686件の報告の自由記述欄を研究者たちが丁寧に読み込み、セクストーションの被害が含まれている210件のケースを抽出しました。

分析手法としては、「二項ロジスティック回帰分析」という量的研究のアプローチが採用されています。これは、「セクストーション被害に遭ったか・遭わなかったか」「金銭を支払ったか・支払わなかったか」という2つの結果に対して、被害者の年齢、性別、健康状態、経済状況、犯人との接触手段などの様々な要因が、それぞれどの程度影響を与えているかを確率的に予測する統計手法です。被害者の印象や感覚だけでなく、客観的な数値データに基づいて背後にある要因を特定している点が、この研究の信頼性を高めています。

この研究でわかったこと

本研究からは、セクストーション被害の実態について、大きく分けて2つの重要な知見が導き出されました。

セクストーション被害に遭いやすい人の特徴

ロマンス詐欺全体の中でセクストーション被害を報告した人には、特有の傾向があることが分かりました。まず、加害者からの最初の接触手段としてSNSが使われているケースが多いことが挙げられます。さらに、被害者は若年層(18〜34歳)の「男性」が標的になりやすいという強い特徴が見られました。一般的なロマンス詐欺は幅広い年齢層や性別が被害に遭いますが、セクストーションに関しては、加害者が若年男性を狙って性的画像を要求し、罠にかけるという手口が頻発していることがうかがえます。

脅迫によって金銭を支払ってしまう要因

さらに重要な発見は、セクストーション被害者のうち実際に脅迫に屈して金銭を支払ってしまった人々の特徴です。データ分析の結果、年齢や性別は金銭の支払いには直接関係していませんでした。その代わり、経済的に困難な状況にあること慢性的な疾患を抱えていることが、金銭を支払う確率を著しく高める要因となっていることが判明したのです。

論文では、病気や経済的な困窮を抱える人はオンラインで過ごす時間が長くなりやすく、その分詐欺師と接触するリスクが高まる可能性を指摘しています。孤立感や不安を抱えている時に、優しい言葉をかけてくれる相手を信じ切ってしまい、その後に豹変して脅迫される恐怖は計り知れません。被害に遭った方々は決して騙されやすい愚かな人ではなく、心身の健康や経済的な余裕がない状態につけ込まれ、絶望の中で支払うしかなかったという痛ましい現実がデータから裏付けられています。

この論文の社会への貢献

ロマンス詐欺における「脅迫」という手口の可視化

この論文は、ロマンス詐欺とセクストーションという、これまで別々の犯罪として扱われがちだった2つの問題が密接に結びついている実態を明らかにしました。詐欺師が被害者を精神的に支配し、さらなる金銭を搾取するための「凶器」として性的脅迫を用いている事実は、この犯罪の極めて悪質な側面を社会に知らしめる重要な貢献です。

支援のあり方への重要な示唆

経済的困難や慢性疾患を抱える人々が、脅迫に対して特にもろい立場に置かれていることが明確に示されました。これは、被害を個人の不注意として片付ける自己責任論が間違っていることを示しています。被害を減らすためには、社会的な孤立や健康問題に対する根本的なサポートが必要不可欠なのです。

被害を見過ごさず、誰もが安心できる社会へ

この研究が私たちに強く訴えかけているのは、オンライン上の悪意がいかに人々の人生を深く傷つけるかという事実です。行政や警察当局の皆様には、このデータをもとに、特に男性被害者や社会的弱者に向けた相談窓口の拡充と啓発活動をお願いしたいと思います。被害者支援団体やカウンセラー、医療関係者の皆様には、被害者の背後にある心身のSOSに気づき、より深いケアを提供するための大きな指針となるはずです。

そして、一般市民である私たち一人ひとりも、この問題を「明日は我が身」として捉える必要があります。もし周りに被害に遭った方がいても、決して非難せず、ただ寄り添って話を聞くこと。それが、詐欺師の最大の武器である「被害者の羞恥心と孤立」を打ち砕く第一歩となります。誰もが安心して助けを求められる、温かい社会を共に築いていきましょう。


用語解説

  • セクストーション(Sextortion)性的な意味を持つ「Sex」と、脅迫を意味する「Extortion」を組み合わせた造語です。加害者がターゲットの個人的な性的画像や動画を入手(または持っていると嘘をつき)、それを「家族や職場、ネット上にばらまく」と脅して、金銭の支払いやさらなる要求を強要する悪質な犯罪行為を指します。
  • 二項ロジスティック回帰分析:ある出来事が「起きるか・起きないか(例:金銭を支払うか・支払わないか)」という2択の結果に対して、どのような要因(年齢、性別、病気の有無など)がどのくらい影響を与えているかを、データから確率的に予測・検証するための統計手法です。
  • Scamwatch(スキャムウォッチ):オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)が運営する公式のオンライン窓口です。市民が詐欺被害を匿名で報告することができ、集まったデータは被害の傾向分析や新たな詐欺の警告・予防策に活用されています。
タイトルTo pay or not to pay: An exploratory analysis of sextortion in the context of romance fraud(支払うべきか、支払わざるべきか:ロマンス詐欺の文脈におけるセクストーションの探索的分析)
論文の種類ジャーナル
論文の分野犯罪学、被害者学
著者Cassandra Cross (Queensland University of Technology, Australia)Karen Holt (Michigan State University, USA)Thomas J Holt (Michigan State University, USA; Queensland University of Technology, Australia)
論文誌名・発行者SAGE Publications (Criminology & Criminal Justice 誌)
発行日・巻数・ページ2023年公開(巻数: Vol.25(3), pp.777–792)
原著論文の言語英語
URLhttps://journals.sagepub.com/doi/10.1177/17488958221149581
CiteCross, C., Holt, K., & Holt, T. J. (2025). To pay or not to pay: An exploratory analysis of sextortion in the context of romance fraud. Criminology & Criminal Justice, 25(3), 777–792. https://doi.org/10.1177/17488958221149581

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