More than splitting hairs: Exploring trivialisation and harmful narrative distortion in the synonymous use of ‘scam’ and ‘fraud’ (直訳:言葉尻の問題にとどまらない:「スキャム」と「詐欺」の同義的使われ方に潜む些末化と有害なナラティブの歪みの探求)
Elisabeth Carter, Jack Mark Whittaker, Tim Day
註:英語圏で詐欺(fraud)とスキャム(scam:詐欺的な手口)という言葉の混同が社会にどう影響しているかという論文です。日本語で生活していると直接かかわることはないかもしれませんが、時折見かける英語の文章のFraudとScamがこんなに違うんだということを知るのに良い記事です。
要約
イギリス・キングストン大学のElisabeth Carter先生らによる研究論文「More than splitting hairs: Exploring trivialisation and harmful narrative distortion in the synonymous use of ‘scam’ and ‘fraud’」は、社会で詐欺(fraud)とスキャム(scam:詐欺的な手口)という言葉が混同されている問題に警鐘を鳴らしています。本研究は、報道や公的機関の防犯啓発において口語的なスキャムという言葉が使われることで、犯罪被害が軽視され、被害者非難が助長されている現状を浮き彫りにしました。法的に正確な詐欺という言葉に統一することが、被害者の心理的負担を軽減し、被害の申告を促進するために不可欠であると結論付けています。犯罪における言葉の選択がもたらす重大な影響に焦点を当てた特異な研究です。
研究方法
本研究は、言語の使用が社会の認識にどのような影響を与えるかを探るディスコース分析(言説分析)という質的研究のアプローチをベースにしています。研究チームは、単なる統計データ(数字)に頼るのではなく、学術論文、メディアのニュース記事、テレビ番組、公的・民間の防犯キャンペーン、そして動画配信サイトで活動するスキャム・ベイター(詐欺師を罠にかける配信者)に関する事例など、社会に溢れる幅広いデータを収集しました。
そして、「スキャム」「騙された」「うますぎる話」といった日常的・口語的な言葉が、メディア報道や啓発メッセージの中でどのように使われているかを詳細に読み解きました。これらの言葉が、私たちの脳内に無意識の偏見(バイアス)を生み出し、被害者を不注意な人と見なす心理や、警察・金融機関などの制度的対応にどのような影響を与えているかを論理的に解き明かしています。
この研究でわかったこと
言葉による犯罪の「軽視」と被害者の孤立
「スキャム」や「騙された(fall for)」という言葉は、犯罪を単なるちょっとした悪だくみや不注意による失敗のように軽く見せる効果があります。これにより、本来は巧妙な心理操作の犠牲者である被害者が、見抜けなかった自分が悪い・欲をかいたからだという強烈な自己嫌悪と羞恥心を抱え込んでしまいます。その結果、周囲からの嘲笑を恐れて被害を家族や警察に相談できず、孤立してしまうという深刻な弊害が明らかになりました。
加害者の正当化とエンターテインメント化の問題
メディアや社会が「スキャム」という言葉を安易に使うことは、加害者にも都合の良い免罪符を与えます。加害者は自らの行為をゲームや賢い手口と正当化し、罪悪感を薄れさせています。さらに、テレビ番組やインターネット上で、詐欺師を罠にはめてからかうスキャム・ベイターの活動が持て囃されることで、詐欺そのものが一種のエンターテインメントとして消費され、深刻な犯罪であるという認識が社会全体で薄れてしまっている現状も指摘されています。
法執行機関や司法システムへの悪影響
言葉の曖昧さは、警察や金融機関などの実務にも直接的な悪影響を及ぼします。法的には明確な「詐欺(犯罪)」であるにもかかわらず、「スキャム(民事的なトラブルや自己責任)」と軽く認識されることで、警察の捜査対象から外されたり、銀行からの被害補償が適切に受けられなくなったりするリスクが生じています。
この論文の社会への貢献
防犯メッセージのあり方への警鐘
多くの防犯キャンペーンは「騙されないように気をつけましょう」「うますぎる話には注意」と呼びかけますが、本論文はこれが逆に「被害に遭うのは本人の不注意だからだ」という被害者非難(ヴィクティム・ブレーミング)を生んでいると厳しく指摘します。行政や支援団体が「言葉の選び方」を見直すだけで、被害者を二次被害から守ることができるという具体的な指針を示したことは、非常に大きな貢献です。
実務と被害者支援におけるパラダイムシフト
本研究は、公的機関やメディアに対し、口語表現を避け、法的に正確な「詐欺(Fraud)」という用語に統一することを強く推奨しています。これにより、犯罪の深刻さが社会に正しく伝わり、被害者が支援を求めやすい環境を作ることができます。実際、国際刑事警察機構(インターポール)なども、被害者を傷つけるような口語表現の使用をやめるよう推奨し始めています。
言葉が持つ力を理解し、寄り添う社会へ
この論文が示唆するのは、行政や警察、支援者だけでなく、一般市民である私たち一人ひとりへの重要なメッセージです。もし身近な人が被害に遭ったとき、「どうしてそんなスキャムに引っかかったの?」と声をかけることは、凶器になり得ます。彼らは決して不注意だったのではなく、巧妙に仕組まれた心理的コントロールの被害者なのです。私たちが日常で使う言葉を見直し、「重大な詐欺被害」として正しく認識し寄り添うことが、被害者の心を救い、ひいては社会全体を詐欺犯罪から守るための第一歩となります。
用語解説
- スキャム(Scam):元々は「騙し」「詐欺的な手口」を意味する口語表現です。法的な犯罪行為だけでなく、倫理的に問題があるだけの行為も含まれる曖昧な言葉であり、本論文ではこの言葉が詐欺犯罪の深刻さを薄れさせ、自己責任論を助長させると指摘されています。
- ディスコース分析(Discourse Analysis):ニュース記事や公的な文章などで「言葉がどのように使われているか」を分析し、その背後にある社会的な偏見や、人々の認識・行動への影響を明らかにする研究手法です。
- スキャム・ベイター(Scambaiter):インターネット上で詐欺師に騙されたふりをして接触し、相手の時間を奪ったり、その様子を動画で公開して人気を得たりする「ネット自警団」のことです。
- 認可済プッシュ決済詐欺(APP fraud):近年世界中で社会問題化している詐欺形態で、被害者自身が心理的に操られ、自らの意思で詐欺師の口座へ送金してしまう犯罪を指します。ロマンス詐欺や投資詐欺の多くがこれに該当します。
- グルーミング(Grooming):もともと動物が毛繕いをして清潔に保つ、あるいは信頼関係を深める行為を指していましたが、現代の社会問題(特に犯罪心理学やネット犯罪)においては、「ターゲットを心理的に手懐け、支配下に置くための準備工作」という意味で使われます。
| タイトル | More than splitting hairs: Exploring trivialisation and harmful narrative distortion in the synonymous use of ‘scam’ and ‘fraud’ (直訳:言葉尻の問題にとどまらない:「スキャム」と「詐欺」の同義的使われ方に潜む些末化と有害なナラティブの歪みの探求) |
| 論文の種類 | ジャーナル |
| 論文の分野 | 犯罪学、被害者学、心理学 |
| 著者 | Elisabeth Carter (Kingston University London, UK), Jack Mark Whittaker (University of Surrey, Guildford, England, UK), Tim Day (Independent Scholar, London, UK) |
| 論文誌名・発行者 | SAGE Publications(Crime Media Culture 誌) |
| 発行日・巻数・ページ | 2025年発行, ページ 1–18 |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/17416590251393960 |
| Cite | Carter, E., Whittaker, J. M., & Day, T. (2025). More than splitting hairs: Exploring trivialisation and harmful narrative distortion in the synonymous use of ‘scam’ and ‘fraud’. Crime Media Culture, 1-18. https://doi.org/10.1177/17416590251393960 |

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