国際ロマンス詐欺はネット上のDV?最新犯罪学論文が明かす詐欺の心理と社会構造

国際ロマンス詐欺はネット上のDV 被害者学
国際ロマンス詐欺はネット上のDV
被害者学論文解説

Online Romance Fraud as a Form of Emotional and Economic Partner Violence: A Social-Ecological Framework of Enabling Factors (感情的および経済的パートナー暴力の一形態としてのオンライン・ロマンス詐欺:犯罪要因の社会生態学的フレームワーク
Maja Feng

論文の要約

ノルウェー警察大学校のMaja Feng先生による論文 ”Online Romance Fraud as a Form of Emotional and Economic Partner Violence: A Social-Ecological Framework of Enabling Factors” は、オンライン・ロマンス詐欺(ORF)を単なる金銭詐欺ではなく、精神的・経済的DVのハイブリッド型犯罪として再定義した画期的な研究です。本研究は関連文献の包括的レビューを通じ、社会生態学的モデル日常活動理論を用いて犯罪要因を多層的に分析しました。その結果、被害者の特性や詐欺師の洗脳手法といったミクロな要因だけでなく、北欧社会に見られる高い社会的信頼経済的豊かさというマクロな社会構造が被害を助長していることが判明しました。ロマンス詐欺を個人の問題にとどめず、社会全体の枠組みで捉え直し、包括的な防犯対策を提言している点で非常に特異で重要な論文です。

研究方法

本研究は、特定のデータを新しく集めるのではなく、これまでに世界中で発表された学術論文や公的機関のレポート(グレイリテラチャー)を体系的に収集・分析する手法で行われました。具体的には、犯罪学や心理学、医学などの複数のデータベースから厳密な基準で文献を絞り込み、最終的に39本の重要な文献を抽出して分析しています。

分析の理論的な柱として採用されたのが、社会生態学的モデル日常活動理論です。従来の犯罪研究は詐欺師と被害者という1対1の構図で語られがちでしたが、本研究ではこのフレームワークを用いることで、個人の心理から、身近な環境・メディアの影響・社会全体の価値観、さらにテクノロジーの進化という時代背景に至るまで、多角的かつ論理的に犯罪が成立する要因(Enabling Factors)を解き明かしています。

この研究でわかったこと

本研究から導き出された重要な知見は、ロマンス詐欺が成立する背景には「多層的な要因」が複雑に絡み合っているということです。具体的に以下のセクションに分けて解説します。

個人の脆弱性とミクロな洗脳手法(ミクロレベル)

詐欺師は、中高年で高学歴、かつ経済的に余裕がありながらも、孤独感や愛情への渇望を抱えている人々を巧妙にターゲットにします。彼らはオンライン上で関係を築く中で、ドメスティック・バイオレンス(DV)や強圧的支配に酷似した心理的操作を行います。現実を歪め、被害者を孤立させ、恐怖や脅しを用いて経済的に搾取するプロセスは、単なる詐欺というよりも深刻な精神的虐待であることがわかっています。

メディアとコミュニティの影響(メソ・エクソレベル)

テレビやインターネットなどのマスメディアは、ロマンス詐欺に対する社会の意識を高める(防犯に繋がる)一方で、真実の犯罪事件(トゥルークライム)としてエンターテインメント化されることで、無意識に犯罪手法を美化したり、模倣犯を誘発したりする側面があることも指摘されています。また、被害者同士のサポートグループが存在することは回復に向けた重要な要素ですが、まだまだ研究や体制整備が不足しているのが現状です。

「信頼の高さ」と「経済的豊かさ」が仇になる社会構造(マクロレベル)

非常に興味深いのは、ノルウェーをはじめとする北欧諸国のような「社会制度への信頼性が高く、経済的に豊かな国」ほど、詐欺師にとって魅力的なターゲットになるという逆説的な事実です。行政や隣人を信じるという健全な文化が、オンライン上の見知らぬ相手への無防備さに繋がり、疑うことなくお金を振り込んでしまう土壌を生み出しています。

デジタル化とAI技術の脅威(クロノレベル・時間的要因)

時代とともにマッチングアプリなどが普及し、コロナ禍での隔離生活によって人々がオンラインでの交流に依存するようになったことも被害を急増させました。さらに近年では、AIを用いたディープフェイク(偽造画像・音声)技術が使われ、詐欺師の虚偽のプロフィールやメッセージがより精巧になっており、被害を防ぐことがますます困難になっています。

この論文の社会への貢献

被害者非難の抑止

この論文の最も大きな社会的意義は、オンライン・ロマンス詐欺を投資に失敗した・騙される方が悪いという単なる自己責任の金銭トラブルから、精神的および経済的DV(パートナー暴力)の次元へと認識を引き上げた点にあります。被害者が受けている心理的コントロールの深刻さを社会が理解することは、被害者が不当な非難を浴びることを防ぎ、心理的ケアへと繋げる第一歩となります。

社会全体での防犯体制構築に向けた具体策の提示

また、本研究は防犯対策のあり方にも大きな一石を投じています。犯罪機会の提供を防ぐためには、警察による捜査や警告だけでは不十分であり、マッチングアプリの運営会社、銀行などの金融機関、そして医療・福祉機関が連携して異常な取引や心理的兆候を検知する「多機関連携」が不可欠であると論じています。

読者の皆様へ:これは私たちの社会の問題です

行政や警察関係者、被害者支援団体の皆様にとって、本論文はロマンス詐欺を「DV」として扱い、ケアと予防のアプローチを根本から見直すための強力な根拠となります。また、一般の読者の皆様にもお伝えしたいのは、この犯罪は決して特別な人が騙されているわけではないということです。社会を信じ、人を愛そうとする純粋な気持ちと、現代のテクノロジーが巧妙に悪用されているのがロマンス詐欺です。どうか自分事としてこの手口の構造を知り、ご自身や大切なご家族、ご友人を守るための知識としてご活用ください。

用語解説

  • スコーピングレビュー(Scoping Review) ある研究テーマに対して、これまでどのような研究が行われてきたかを幅広く収集し、全体像や傾向を地図を描くように整理・マッピングする研究手法です。
  • 社会生態学的モデル(Social-Ecological Framework) 人間の行動や社会問題が、個人・人間関係(ミクロ)・コミュニティ(メソ・エクソ)・社会や文化(マクロ)・時間や歴史(クロノ)といった、多重の円のような層から影響を受けていると考える枠組みです。
  • 日常活動理論(Routine Activity Theory) 犯罪は、「動機を持った犯罪者」「魅力的な標的(被害者)」「それを守る存在(監視)の欠如」という3つの条件が時間的・空間的に重なったときに発生するという犯罪学の基礎理論です。
  • グルーミング(Grooming) もともと動物が毛繕いをして清潔に保つ、あるいは信頼関係を深める行為を指していましたが、現代の社会問題(特に犯罪心理学やネット犯罪)においては、「ターゲットを心理的に手懐け、支配下に置くための準備工作」という意味で使われます。
  • 強圧的支配(Coercive Control / コアージブ・コントロール) 暴力だけでなく、日常的な脅し、監視、行動の制限、孤立化などを通じて、被害者の恐怖心や依存心を煽り、相手を自分の支配下に置こうとする目に見えにくい虐待の手法です。

タイトルOnline Romance Fraud as a Form of Emotional and Economic Partner Violence: A Social-Ecological Framework of Enabling Factors (感情的および経済的パートナー暴力の一形態としてのオンライン・ロマンス詐欺:犯罪要因の社会生態学的フレームワーク)
論文の種類ジャーナル論文
論文の分野犯罪学、被害者学、心理学
著者Maja Feng(Norwegian Police University College / ノルウェー警察大学校)
論文誌名・発行者Scandinavian University Press (Nordic Journal of Studies in Policing)
発行日・巻数・ページ2025年発刊・Volume 12, no. 2, pp. 1–22
原著論文の言語英語
URLhttps://www.scup.com/doi/10.18261/njsp.12.2.4
CiteFeng, M. (2025). Online romance fraud as a form of emotional and economic partner violence: A social-ecological framework of enabling factors. Nordic Journal of Studies in Policing, 12(2), 1–22. https://doi.org/10.18261/njsp.12.2.4

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