Media frames and cybercrime: Understanding Malaysian online news coverage (メディアのフレームとサイバー犯罪:マレーシアのオンラインニュース報道の理解)
Sun Jing Wen, Sang Kun, Tan Poh Ling
要約
マレーシアの厦門(アモイ)大学マレーシア校のSun Jing Wen先生らによる研究論文「Media frames and cybercrime: Understanding Malaysian online news coverage」は、マレーシアの主要オンラインニュースがサイバー犯罪をどのように報じているかを分析したものです。研究チームは2022年から2023年の254件の記事を対象に、報道の焦点や情報源などの傾向を調査しました。その結果、報道の多くが政府の情報源に強く依存し、犯罪の「予防と介入」に偏っていることが判明しました。また、言語圏によって報道の切り口に明確な違いがあることも示されています。本研究は、メディアの報じ方(フレーミング)が世論や政策に与える影響を明らかにし、被害者が孤立せず社会全体でサイバー犯罪に立ち向かうための多角的な視点の必要性を提示している点で、非常に特異で意義深いものです。
研究方法
どんな目的で研究されたか
サイバー犯罪が急増する中、メディアがこの問題をどう伝え、それが私たちの認識にどう影響しているのかを理解することが本研究の目的です。メディアの伝え方一つで、世間が被害者をどう見るか、あるいはどのような対策が重要視されるかが大きく変わるからです。
どのようなサンプルが使われたか
多民族・多言語国家であるマレーシアの現状を正確に捉えるため、影響力の大きい3つのオンライン新聞からサンプルを集めました。英語紙の『The Star』、マレー語紙の『Harian Metro』、中国語紙の『China Press』です。ここから、2022年と2023年に公開されたサイバー犯罪に関する記事254件を抽出しました。
どのような手法で分析されたか
内容分析という手法が用いられました。これは、ただ記事の数や種類を数える量的研究だけでなく、記事がどのような視点で書かれているかを読み解く質的研究を組み合わせたものです。具体的には、記事が個人の悲劇に焦点を当てているのか、それとも社会全体の仕組みや政策に焦点を当てているのかを分類し、偏りがないか複数の研究者でダブルチェックしながら慎重に分析が行われました。
この研究でわかったこと
本研究からは、メディアがサイバー犯罪を伝える際に陥りがちな傾向と、新聞ごとの明確な違いが浮かび上がりました。
政府情報への強い依存と「予防・介入」への偏り
全体を通じた大きな特徴は、情報源の60%以上が政府機関からの発表に基づいていたことです。また、テーマとしては予防と介入に関するものが最も多くを占めました。これは、政府が積極的にサイバー犯罪対策に取り組んでいることを示していますが、一方で、現場の被害者の声や、独立した専門家の視点が少し見えにくくなっている可能性も示唆しています。
言語・新聞ごとの報じ方の違い
分析の結果、新聞によってサイバー犯罪の伝え方に大きな違いがあることが分かりました。
- The Star(英語紙): 民間企業や専門家の意見をバランスよく取り入れ、幅広い視点から社会問題としてサイバー犯罪を論じていました。しかし、ビジネス寄りの視点が強いため、一般市民の切実な声が届きにくい側面もあります。
- Harian Metro(マレー語紙): 記事の約73%を政府情報に依存しており、国の政策を国民に伝える役割を強く果たしています。安心感を与える一方で、政府主導の物語になりがちです。
- China Press(中国語紙): 最も興味深いのはこの新聞です。豚の屠殺詐欺(SNS型投資ロマンス詐欺)など、特定のコミュニティを狙った深刻な犯罪が多発している背景から、NGOや被害者など一般市民の声を積極的に取り上げていました。個別の事件の生々しい実態を伝えることで注意を喚起していますが、社会の根本的な解決策の議論には繋がりにくい傾向がありました。
自己責任論を避けるための報道のあり方
メディアが個別の被害事例ばかりをセンセーショナルに報じると、読者は被害に遭った個人の不注意だと誤解してしまうリスクがあります。本研究は、個別の事件を報じつつも、それが社会全体のシステムの脆弱性によるものであるという大きな文脈も併せて伝えることの重要性を指摘しています。
この論文の社会への貢献
被害者非難を防ぐためのメディアリテラシー
この論文の最大の貢献は、ニュースの裏側にある枠組み(フレーム)を私たちが意識するきっかけを作ってくれたことです。サイバー犯罪の被害は、決して被害者個人の無知や不注意だけで起きるものではありません。巧妙化する犯罪組織や、急速なデジタル化による社会の隙間が背景にあります。メディアが偏った視点で報じると、被害者が自分のせいだと孤立を深めてしまいます。私たちが複数のメディアから多角的に情報を得ることで、被害者を責めるのではなく、社会全体で守る意識を育てることができます。
多様なステークホルダーによる連携の必要性
この研究は、政府主導の対策だけでは限界があることも示しています。行政や警察がシステムを整備することはもちろん重要ですが、支援団体(NGO)が被害者の心の痛みに寄り添い、メディアがそれを適切に社会へ届けるという連携が不可欠です。
さいごに
サイバー犯罪は、今や誰もが巻き込まれる可能性のある身近な脅威です。被害に遭われた方が、一人で自分を責めながら涙を流すような社会であってはなりません。警察などの当局者、カウンセラーや医療関係者、そして一般市民の私たちが、ニュースを誰かの失敗談として消費するのではなく、私たちが解決すべき社会の課題として受け止めること。それが、より安全で温かいデジタル社会を築く第一歩になると、この論文は優しく力強く教えてくれています。
用語解説
- フレーミング理論 (Framing Theory) メディアが情報を伝える際に、事実の「どの部分を切り取り、どう強調するか(フレームに収めるか)」によって、人々の物事の捉え方や意見が大きく変わるという理論です。
- 内容分析 (Content Analysis) 大量の文章やメディアデータを客観的かつ体系的に分析する研究手法です。単に単語の数を数えるだけでなく、その文章の裏にあるテーマや意図を浮き彫りにします。
- エピソード的フレーミング (Episodic Framing) 社会問題を、個別の出来事や特定の人物のエピソードとして報じる手法です。「どんな事件が起きたか」が分かりやすい反面、読者が「当事者の自己責任」と考えやすくなるリスクがあります。
- テーマ的フレーミング (Thematic Framing) 社会問題を、より大きな社会的な傾向や背景、国の政策などのテーマとして報じる手法です。問題の根本原因を考えるきっかけになりますが、少し難しく感じられることもあります。
- 豚の屠殺(とさつ)詐欺 (Pig Butchering Scam) 主にSNSやマッチングアプリで時間をかけて被害者との信頼関係や恋愛感情を築き(豚を太らせる)、最終的に偽の投資話などに誘導して多額の資金を奪い取る(屠殺する)詐欺の俗称です。東南アジアを中心に深刻な問題となっています。
| タイトル | Media frames and cybercrime: Understanding Malaysian online news coverage (メディアのフレームとサイバー犯罪:マレーシアのオンラインニュース報道の理解) |
| 論文の種類 | カンファレンス特別号 |
| 論文の分野 | メディア・コミュニケーション学、犯罪学 |
| 著者 | Sun Jing Wen, Sang Kun, Tan Poh Ling (School of Communication, Xiamen University Malaysia / マレーシア・厦門大学マレーシア校 コミュニケーション学部) |
| 論文誌名・発行者 | SEARCH Journal of Media and Communication Research |
| 発行日・巻数・ページ | 2025年、17巻4号、71–86ページ (Special Issue: 4th International Conference on Islam, Media and Communication (ICIMaC2024)) |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://fslmjournals.taylors.edu.my/media-frames-and-cybercrime-understanding-malaysian-online-news-coverage/ |
| Cite | Sun, J. W., Sang, K., & Tan, P. L. (2025). Media frames and cybercrime: Understanding Malaysian online news coverage. SEARCH Journal of Media and Communication Research, 17(4), 71–86. https://doi.org/10.58946/search-Special Issue.ICIMaC2024.P5 |


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