親友や恋人の顔をしてあなたを狙う。SNS発・平均被害額5,000万円超のSNS型投資詐欺・SNS型投資ロマンス詐欺の冷酷な実態

親友や恋人の顔をしてあなたを狙う 犯罪学
親友や恋人の顔をしてあなたを狙う
犯罪学論文解説

 Old techniques, new technologies: Exploring patterns from scammers that commit financial fraud via cryptocurrency (古い手法、新しい技術:暗号資産を介して金融詐欺を働く詐欺師のパターンの探求)
Brandon Dulisse, Chivon Fitch, Jaden Denis, Nathan Connealy

要約

アメリカ・タンパ大学のBrandon Dulisse先生らによる研究論文”Old techniques, new technologies: Exploring patterns from scammers that commit financial fraud via cryptocurrency” は、暗号資産(仮想通貨)を用いた現代の金融詐欺の実態と手口を解明したものです。本研究では、米国の2つの州が提供する詐欺被害の苦情データベース(291件)を用いて、詐欺師の接触手法や被害額の傾向を分析しました。その結果、詐欺師はSNSやメッセージアプリを介して被害者に接触し、友人や金融の専門家を装って巧みに信頼を築いていることが判明しました。特に、SNS型投資ロマンス詐欺(Pig Butchering)などの手口では、被害者を心理的に操作して複数回の送金を促し、甚大な経済的損失(平均約33万ドル)をもたらしています。本論文は、デジタルの罠がいかに巧妙であるかを浮き彫りにし、被害者の自己責任ではなく、テクノロジー企業と社会全体での防止策の必要性を強く訴えています。

研究方法

本研究は、カリフォルニア州とウィスコンシン州の州政府が公開している詐欺トラッカー(被害者が被害状況を報告する苦情データベース)に寄せられた291件の実際の相談データをサンプルとして使用しました。

研究手法としては、被害者が書き記した被害の状況(ナラティブ・語り)を丁寧に読み解き、詐欺師が最初に使用した連絡手段は何か・どのような肩書(権威者、金融専門家、知人など)を名乗ったか・どのような種類の詐欺手口だったかといった項目を分類(コーディング)しました。さらに、詐欺被害に遭った回数と最終的な被害総額との関係性を明らかにするため、回帰分析と呼ばれる統計手法を用いています。これにより、単なる数字の集計にとどまらず、被害者がどのようにして罠に引き込まれ、金銭を奪われていったのかという詐欺のプロセスを実証的に明らかにしています。

この研究でわかったこと

SNSとメッセージアプリが詐欺の主な入り口

 詐欺師が被害者と最初に接触した手段の半分以上が、TelegramやWhatsAppなどのオンラインメッセージアプリ(28.5%)や、FacebookやInstagramなどのSNS(25.4%)でした。詐欺師は対面での接触を避け、デジタルの匿名性を悪用することで、魅力的な人物や信頼できる専門家としての偽のプロフィールを演じきっています。

親しい関係を装うほど、被害額は膨れ上がる

詐欺師が名乗る肩書によって被害額が異なることもわかりました。驚くべきことに、教授などの権威者やブローカーなどの金融の専門家を装った場合よりも、親戚、友人、あるいはオンラインでの知人といった親しい関係を装ったケースの方が、被害額が最も大きく(平均約27万ドル)、被害者を深く搾取していることが明らかになりました。

不正取引プラットフォームとSNS型投資詐欺の深刻さ

詐欺の種類として最も多かったのが、不正な取引プラットフォームへ誘導する詐欺(全体の約41%)と、恋愛感情や親密な関係を悪用するピッグブッチャリング(SNS型投資ロマンス詐欺の恋愛ではない親密な関係も含む)(全体の約27%)でした。特にピッグブッチャリング型の詐欺は平均被害額が約33万6,000ドル(数千万円以上)にのぼり、他の詐欺手口と比べても群を抜いて甚大な被害をもたらしています。

繰り返しの搾取が致命的な被害を生む

統計分析の結果、1回の詐欺で終わったケース(平均被害額約7万8,000ドル)よりも、同じ詐欺師から複数回にわたり騙し取られたケース(平均被害額約23万8,000ドル)の方が、被害額が劇的に高くなることが科学的に証明されました。詐欺師は時間をかけて被害者との信頼関係(ロマンスや友情)を築き、緊急事態や特別な投資の機会などを理由にして、被害者が気付かないうちに何度も送金させてしまうのです。これは被害者が不注意だからではなく、詐欺師の心理的コントロールがいかに長期間にわたり、深く人の心を縛るものであるかを示しています。

この論文の社会への貢献

被害者の心理的メカニズムの可視化と自己責任論の払拭

本論文の最大の貢献は、暗号資産詐欺が単なる「お金への欲」につけ込んだものではなく、SNSのアルゴリズムや巧妙なマインドコントロールを駆使した「心理的な搾取」であることを実証した点にあります。被害者は決して無知や欲深さから騙されたわけではありません。詐欺師がデジタルの匿名性と信頼構築の手法を悪用した結果であることを社会に示すことで、「騙される方が悪い」という二次的な被害者非難(二次受傷)を防ぐ大きな根拠となります。

テクノロジー企業やプラットフォーマーへの具体的な提言

論文では、SNS運営企業やマッチングアプリの運営者に対して、具体的なシステム改善を提案しています。たとえば、共通の知人がいない見知らぬアカウントからの連絡に対して、セキュリティ警告や確認のプロセスを導入するなどの対策です。詐欺を防ぐ責任を個人のリテラシー向上だけに押し付けるのではなく、システムの設計段階から被害を防ぐ枠組み(Tech Against Scamsなどの企業間連携)の重要性を説いています。

私たち全員へのメッセージ:孤立させない社会づくりに向けて

この研究が示す現実は、インターネットを利用する誰もが詐欺の標的になり得るということです。行政や警察などの法執行機関は、この手口の傾向を理解し、より早期の介入や啓発を行う必要があります。支援者や医療・心理カウンセラーの方々は、被害者が負った深い心の傷と喪失感(経済的・精神的)に寄り添うための専門的な理解が深まるでしょう。そして一般市民の皆様には、「自分事」としてこの脅威を知り、家族や友人が孤立して詐欺師の罠に絡め取られないよう、日頃からのコミュニケーションと温かい見守りが、最強の防犯になることを知っていただきたいと思います。


用語解説

  • 豚の解体詐欺(Pig Butchering Scam): もともとは中国語の「殺猪盤(shāzhūpán)」に由来する言葉です。詐欺師がSNSやマッチングアプリで被害者に接触し、数週間から数ヶ月かけて恋愛感情や深い友情(信頼関係)を築きます。その上で、架空の暗号資産の投資話を持ちかけ、最初は少額から利益を出させて信用させ、徐々に投資額を増やさせます。被害者が全財産や借金をつぎ込んだところで、突然連絡を絶ったり資金を引き出せなくしたりする手口です。被害者を「豚」に見立て、時間をかけて「太らせて(信頼させて資金を集めさせ)」から「解体する(全額奪う)」ことからこう呼ばれています。日本でいうところのSNS型投資ロマンス詐欺と、SNS型投資詐欺のうち、1対1で友人関係や疑似家族的関係など恋愛ではない親密な関係を築くものがこれに相当します。
  • 詐欺トラッカー(Scam Tracker): 消費者や投資家が遭遇した詐欺被害の事例や苦情を、政府機関や消費者保護団体が収集・公開しているデータベースのことです。手口の傾向を分析したり、一般の人々に新たな詐欺への注意喚起を行ったりするために活用されます。
  • 暗号資産取引プラットフォーム(CTP / Cryptocurrency Trading Platforms): ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)を売買・交換するためのオンライン上の取引所のことです。正規の取引所がある一方で、詐欺師は本物そっくりな「偽の取引プラットフォーム」を作成し、被害者を誘導して資金を騙し取ります。

タイトルOld techniques, new technologies: Exploring patterns from scammers that commit financial fraud via cryptocurrency (古い手法、新しい技術:暗号資産を介して金融詐欺を働く詐欺師のパターンの探求)
論文の種類ジャーナル
論文の分野犯罪学・被害者学
著者Brandon Dulisse, Chivon Fitch, Jaden Denis, Nathan Connealy (米国 タンパ大学 犯罪学・刑事司法学部 / University of Tampa, School of Criminology and Criminal Justice)
論文誌名・発行者Elsevier(掲載誌:Journal of Economic Criminology)
発行日・巻数・ページ2025年発刊、Volume 9、Article 100178
原著論文の言語英語
URLhttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2949791425000545
CiteDulisse, B., Fitch, C., Denis, J., & Connealy, N. (2025). Old techniques, new technologies: Exploring patterns from scammers that commit financial fraud via cryptocurrency. Journal of Economic Criminology, 9, 100178. https://doi.org/10.1016/j.jeconc.2025.100178

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