Disseminating fraud awareness and prevention advice to older adults: perspectives on the most effective means of delivery(高齢者への詐欺啓発・予防アドバイスの普及:最も効果的な伝達手段に関する考察)
Mark Button, David Shepherd, Chloe Hawkins, Jacki Tapley
要約
イギリス・ポートマス大学のMark Button先生らによる論文「Disseminating fraud awareness and prevention advice to older adults: perspectives on the most effective means of delivery(高齢者への詐欺啓発・予防アドバイスの普及:最も効果的な伝達手段に関する考察)」は、75歳以上の高齢者を主な対象とした詐欺防止キャンペーンの有効性を評価したものです。本研究は、約1,000件のアンケート回答と、高齢者や支援ボランティアへのインタビューを通じて、啓発情報の到達状況と好まれる伝達方法を調査しました。その結果、多くの高齢者が直近半年間に予防情報を受け取っていない実態が明らかになりました。一方で、最も信頼され効果的な伝達手段は、家族や友人を通じた「1対1の対話」であることが判明しました。本論文は、孤立しがちな高齢者を含め、個々の状況に合わせた多角的な情報提供の重要性を提言しており、実効性のある被害防止策を考える上で極めて示唆に富む研究です。
研究方法
本研究は、イギリスの慈善団体「Re-engage」が実施した高齢者向け詐欺防止キャンペーンの効果を測定することを目的としています。
調査では、量的研究(数値による分析)と質的研究(言葉による分析)を組み合わせた手法が用いられました。
- アンケート調査(量的研究): 郵便によるアンケートを計2回実施しました。第2回調査では820名から回答を得ており、回答者の8割以上が一人暮らしで、多くが75歳から94歳の女性でした。
- インタビュー調査(質的研究): 高齢者18名、支援ボランティア5名、プロジェクト調整担当者に直接話を聞き、より深い心理や背景を調査しました。
あえてオンラインではなく郵便や対面での調査を選んだのは、インターネットを利用しない高齢層の声を取りこぼさず、また見知らぬ電話による心理的負担を避けるためです。
この研究でわかったこと
調査の結果、従来の啓発活動にはいくつかの大きな壁があることが見えてきました。
情報の「未到達」という課題
専門団体がキャンペーンを行ったにもかかわらず、実際にアドバイスを受け取ったと感じた人は回答者の27%に留まりました。また、直近6ヶ月間で一度も詐欺防止情報に触れていない人が全体の4分の1以上にのぼることがわかりました。
家族・友人の圧倒的な信頼感
詐欺防止情報の入手先として最も多く(56%)、かつ最も「役に立つ」と評価されたのは、友人や家族との何気ない会話でした。特に息子や娘などの「身近な専門家」からの助言は、高齢者の自信につながっています。
デジタルとリアルの乖離
ウェブサイトやメールによる情報は、利用率・有用性ともに低く評価されました。インターネットを使わない層が半数近くいる中で、デジタルのみに頼った啓発の限界が浮き彫りになりました。
メディアの補完的役割
孤独感を感じている高齢者であっても、テレビ、ラジオ、新聞、手紙といった伝統的なメディアからの情報は一定の信頼を得ており、身近な相談相手がいない場合の重要な情報源となっています。
この論文の社会への貢献
本論文は、これまでの「広く浅く」届ける啓発活動を見直すための論理的な指針を示しています。
身近な人を啓発のパートナーに
高齢者本人だけでなく、その家族や周囲の現役世代に対し、高齢の親や友人と詐欺について話すことの重要性を啓発することが、間接的かつ最も強力な防御策(有能な監視者)になります。
孤立者へのアウトリーチ活動
家族のいない高齢者に対しては、行政や警察、NPOなどの支援者が「信頼できる相談相手」としての関係を築き、1対1で情報を届ける仕組みが必要です。
チャネルの多様化
全ての高齢者に共通する正解はありません。マスメディアによる周知と、地域コミュニティでの対面活動を組み合わせることで、情報から取り残される人を減らすことができます。
詐欺は単なる個人の不注意ではなく、社会のつながりの隙間を突く犯罪です。被害者を責めるのではなく、私たち一人ひとりが「最近こんな詐欺があるみたいだよ」と声をかけ合うことが、高齢者を守るための第一歩となるのです。
用語解説
- 量的研究(Quantitative Research): アンケート結果などを数値化し、統計的に分析する研究手法です。全体的な傾向を把握するのに適しています。
- 質的研究(Qualitative Research): インタビューや自由記述などの言葉を通じて、個人の経験や感情、背景にある理由を深く探る研究手法です。
- 有能な監視者(Capable Guardian): 犯罪学の理論(日常活動理論)に登場する概念で、犯行を思いとどまらせるような監視の目や保護的な存在を指します。本論文では、家族や友人がその役割を果たすとされています。
| タイトル | Disseminating fraud awareness and prevention advice to older adults: perspectives on the most effective means of delivery(高齢者への詐欺啓発・予防アドバイスの普及:最も効果的な伝達手段に関する考察) |
| 論文の種類 | ジャーナル論文 |
| 論文の分野 | 犯罪学、経済犯罪、被害者学 |
| 著者 | Mark Button, David Shepherd, Chloe Hawkins, Jacki Tapley(ポートマス大学 サイバー犯罪・経済犯罪センター) |
| 論文誌名・発行者 | Crime Prevention and Community Safety(Springer Nature) |
| 発行日・巻数・ページ | ページ: 2024年10月23日(オンライン公開)、26巻、385–400ページ |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://link.springer.com/article/10.1057/s41300-024-00218-3 |
| Cite | Button, M., Shepherd, D., Hawkins, C., & Tapley, J. (2024). Disseminating fraud awareness and prevention advice to older adults: perspectives on the most effective means of delivery. Crime Prevention and Community Safety, 26, 385–400. |


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