「私は騙されない」その油断こそが、詐欺師のいちばんの狙い目です~SNS型詐欺・国際ロマンス詐欺は誰を狙うのか。6本の研究論文が出した、身も蓋もない答え

国際ロマンス詐欺・狙われる・騙されるのはどんな人 CHARMS記事
国際ロマンス詐欺・狙われる・騙されるのはどんな人
CHARMS記事論説・解説

SNS型投資詐欺やSNS型ロマンス詐欺は
「どんな人が狙われるんですか?」
「どんな人が騙されやすいんですか?」

Yahoo!知恵袋のようなQ&Aサイトで定期的に話題になり、私たちCHARMSもメディアの方々からたびたびお問い合わせをいただく質問です。

答えはずばり、こうです。

「誰でも狙われます。そして、誰でも騙されます。」

いい加減な回答に聞こえるかもしれません。けれども、この答えは極めて真面目なものです。国内外の研究が積み上げてきた知見は、「詐欺に遭いやすい典型的な人物像」という私たちの直感を、ことごとく裏切ってきました。

そして、もう一歩踏み込んで言うならば——「自分は絶対に騙されない」と考えている人こそ、危ういのです。

この記事では、SNS型詐欺(投資詐欺・ロマンス詐欺等)の被害者像をめぐる代表的な研究を6本取り上げ、私たちがなぜこう答えるのかを、根拠とともにご説明します。各セクションの末尾に、CHARMSによる論文解説記事のURLと原著論文の書誌情報を記載していますので、より詳しくお知りになりたい方、あるいは取材・執筆の裏取りにお使いになりたい方は、そちらもあわせてご覧ください。

出発点となった2018年の研究——「学歴」は防波堤にならなかった

もちろん、「ロマンス詐欺の被害者に見られる特徴」を報告した著名な研究は存在します。

国際ロマンス詐欺研究の第一人者であるMonica Whitty先生の研究は、英国の大規模調査データを用いて、ロマンス詐欺の被害者と一度も被害に遭っていない人とを比較したものです。

まず属性面では、被害者は中年層(35〜54歳)が中心で、男女比では女性がやや多い傾向が見られました。「高齢者ほど被害に遭う」という一般的なイメージとは異なり、ロマンス詐欺では中年層が目立つ——この時点ですでに、私たちの通念はひとつ崩れます。

心理特性としては、次のような要素が被害と関連していました。

  • 緊急性(焦って動きやすい傾向):「今すぐ助けてほしい」「今日中に送金してほしい」という働きかけに反応しやすくなります。
  • 刺激追求(ドラマ性に惹かれやすい傾向):軍人、海外の大型案件、次々に起こるトラブル——壮大な物語に「乗ってしまう」リスクと結びつきます。
  • 依存傾向(引き返しにくさ):途中で不審な点が出てきても、関係やストーリーから抜け出しにくい。著者は、ギャンブルにおける「もう少しで当たりそうな感覚」との類似性も示唆しています。
  • 学歴が高いこと:意外に思われるかもしれませんが、学歴は防波堤にならない可能性が示されました。著者はむしろ、「自分は見抜ける」という過信が入り込む余地があると議論しています。

一方で、ネットやサイバー空間に関するリテラシーの程度、運任せの傾向、強欲さ、他人を信用しやすい性質といった項目は、決定打にはなりませんでした(統計的に有意な差が出ませんでした)。

つまり、この先駆的な研究の時点ですでに、「知識がある人・賢い人は大丈夫」という発想は支持されていなかったのです。

▶ CHARMS論文解説:https://npo-charms.org/research/2026/02/07/202602-006/

Whitty, M. T. (2018). Do you love me? Psychological characteristics of romance scam victims. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 21(2), 105–109. https://doi.org/10.1089/cyber.2016.0729

Botを使った実験が物語るもの——「狙われやすさ」と「騙されやすさ」は別問題

犯罪者たちが「狙いやすい」と判断した層に執着することも、また事実です。

英国ブリストル大学のRobinson先生とEdwards先生は、詐欺メールに自動応答するBot(スキャムベイティング実験)を用いた無作為化比較試験によって、詐欺師の側の行動を観察しました。その結果、やさしい高齢の女性と、世間知らずな若者が、詐欺師の関心を長く惹きつけることがわかりました。

ただし、この研究の結果を「やはり高齢者ばかりが騙されるのだ」という結論に読み替えるのは誤りです。

この論文の本当の価値は、年齢層や性別といった表面的なデモグラフィック(人口統計学的属性)ではなく、詐欺師が人間のどのような弱点につけ込み、どのように罠へ誘導しようとするのかという、加害者側の狡猾な心理操作のプロセスを可視化した点にあります。

「誰が狙われやすいか」と「誰が最終的に騙されるか」は、別の問いです。詐欺師が最初に多く声をかける層と、実際に被害に至る層は、必ずしも一致しません。

▶ CHARMS論文解説:https://npo-charms.org/research/2026/04/23/202604-17/

Robinson, J., & Edwards, M. (2024). Fraudsters target the elderly: Behavioural evidence from randomised controlled scam-baiting experiments. Security Journal, 37, 1173–1196. https://doi.org/10.1057/s41284-023-00410-4

詐欺師は「感情の隙」を突いてくる——機嫌がいい日も、疲れた日も

ウェールズ・アベリストウィス大学 心理学部のNorris先生とBrookes先生は、オンライン詐欺における被害者の脆弱性を、性格などの個人的属性だけでなく、感情と情報処理のメカニズムという観点から解き明かそうと試みました。

見えてきたのは、詐欺師が人の心理メカニズムそのものの隙を突いてくる、という構図です。

たとえば、ポジティブで気分の良いときは、心がリラックスしているぶん警戒心が薄れ、届いたメッセージの内容を疑わずに信用してしまう傾向があります。一方で、疲れているときや気分が落ち込んでいるとき(認知的な余裕がないとき)には、その不快な状態から早く抜け出すために、手っ取り早い判断を下してしまうことがわかっています。

上機嫌でも不機嫌でも、隙は生まれる。だとすれば、詐欺のターゲットは事実上すべての人であり、誰もが被害者になり得るということになります。

「昨日の自分なら見抜けたかもしれない」——被害に遭われた方から、私たちはしばしばそうした言葉を伺います。それは意志の弱さではなく、人間の情報処理の仕組みそのものが突かれた結果なのです。

▶ CHARMS論文解説:https://npo-charms.org/research/2026/04/24/202604-18/

Norris, G., & Brookes, A. (2021). Personality, emotion, and individual differences in response to online fraud. Personality and Individual Differences, 169, Article 109847. https://doi.org/10.1016/j.paid.2020.109847

決めつけていないか——報道が育てるジェンダーバイアス

「男性のほうが騙されやすい」「いや、女性のほうが狙われる」。そうした思い込みをお持ちの方は、日本でも少なくないかもしれません。そして、その思い込みは、しばしば報道のされ方によって形づくられます。

チェコ共和国・オストラヴァ大学のYushawu Abubakari先生による論文では、ネット記事や警察発表など84件の文章を分析しました。その結果、同国の報道が事件発生時のみの突発的なものにとどまっていること、また、被害者の心理的ダメージへの共感は示されている一方で、加害者による巧妙な心理的支配の手口は十分に報じられていないことが明らかになりました。

そして、この論文が指摘するもうひとつの問題が、ジェンダーバイアスです。

報道は被害者を「孤独な女性」として描く傾向が強く、その結果、男性もまた被害に遭うという事実が見えにくくなっています。この偏りは、男性が「自分は対象外だ」と思い込んで警戒を怠る危険を生み、さらに、実際に被害に遭ったときに声を上げにくくさせる——という二重の弊害につながります。

報道は、社会の警戒心を高める力を持つと同時に、特定の被害者像を固定化してしまう力も持っています。これは、私たちがメディアの皆さまと共有したい問題意識のひとつです。

▶ CHARMS論文解説:https://npo-charms.org/research/2026/05/15/media-presentation-of-online-romance-fraud-czech

Abubakari, Y. (2026). Media presentation of online romance fraud in the Czech Republic: Visibility, victim–offender framing, and sentiment. European Journal on Criminal Policy and Research. Advance online publication. https://doi.org/10.1007/s10610-026-09664-1

手口ごとに異なる被害者像——「典型例」は存在しない

ミネソタ大学のMarguerite DeLiema先生らによる研究論文 “Correlates of responding to and becoming victimized by fraud: Examining risk factors by scam type” は、消費者が詐欺の標的になった際の「応答」と「実際の金銭的被害」のリスク要因を、詐欺の種類別に解明したものです。

この論文が示したのは、端的に言えば「騙されやすい人の典型例は存在しない」ということでした。

たとえば機会提供型詐欺(投資詐欺やロマンス詐欺など)では、予期せぬ出費に対応できない「経済的脆弱性」を抱える人が被害に遭いやすい——ここまでは直感に合うかもしれません。ところが同時に、世帯収入が10万ドル(約1,500万円)を超える高所得者も、同様に高い被害リスクを抱えていたのです。また、男性や未婚者もリスクが高い傾向にありました。

経済的に苦しい人も、余裕のある人も。どちらも狙われ、どちらも被害に遭う。手口が変われば、リスクを抱える層も変わります。「このタイプの人が危ない」という一枚岩の被害者像を描くこと自体が、そもそも成り立たないのです。

▶ CHARMS論文解説:https://npo-charms.org/research/2026/06/05/examining-risk-factors-by-scam-type/

DeLiema, M., Li, Y., & Mottola, G. (2023). Correlates of responding to and becoming victimized by fraud: Examining risk factors by scam type. International Journal of Consumer Studies, 47(3), 1042–1059. https://doi.org/10.1111/ijcs.12886

「性格」や「心の弱り」が原因だという証拠は、ほぼ見つからなかった

ここまでの議論を、方法論の面からさらに一歩進めたのが、オランダ・トゥウェンテ大学のLuka Koning先生らの研究チームです。

同チームは、オランダの代表的なパネル調査に参加した2,864名のデータを分析しました。この研究の独自性は、詐欺被害を「標的になる(曝露)」段階と「騙される(感受性)」段階に分けたうえで、被害が起きる**「前」に測定された性格テストや生活習慣のデータを用いて、因果関係を探った点にあります。「被害に遭った人は○○だった」という後づけの説明を避けられる、堅牢な設計です。

分析の結果、「特定の性格やメンタルの不調が詐欺被害を引き起こす」という証拠は、ほぼ見つかりませんでした。

私たちはつい、「外向的な人は騙されやすい」「孤独やストレスで精神的に弱っていると詐欺に引っかかる」と考えがちです。しかし本研究では、性格特性(外向性、協調性、誠実性など)も、幸福感や生活満足度といった精神的健康も、詐欺被害のリスクとはほとんど関係がないことがわかりました。

例外的にリスクとして浮かび上がったのは、「セルフコントロールの低さ」と「長時間のインターネット利用」の2つでした。後者は、性格の問題というより、単純に接触機会が多いことを意味します。つまり——ネットを長く使う現代人であれば、誰もが射程に入るということです。

▶ CHARMS論文解説:https://npo-charms.org/research/2026/06/12/risk-factors-for-fraud-victimization/

Koning, L., Junger, M., & Veldkamp, B. (2024). Risk factors for fraud victimization: The role of socio-demographics, personality, mental, general, and cognitive health, activities, and fraud knowledge. International Review of Victimology, 30(3), 443–479. https://doi.org/10.1177/02697580231215839

まとめ——「誰でも狙われ、誰でも騙される」は、科学的な結論です

6本の研究を並べると、共通の輪郭が浮かび上がります。

  1. 年齢・性別・学歴・収入では、被害を説明できない。 高齢者だけでなく中年層も、女性だけでなく男性も、低所得層だけでなく高所得層も被害に遭っています。
  2. 性格やメンタルの不調は、被害の原因ではない。 事前データを用いた研究は、この通説をほぼ否定しました。
  3. 突かれているのは、人間なら誰もが持つ感情と判断のメカニズムである。 気分が良いときも、疲れているときも、詐欺師にとっては好機です。
  4. 「知識があるから大丈夫」は成り立たない。 学歴の高さが防御にならないどころか、「自分は見抜ける」という過信が入り込む余地が指摘されています。

誰にでもバイアスはあります。そしてそのバイアスは、報道の内容や、記事に寄せられるコメントによっても強化されていきます。「あんな話に騙されるほうがどうかしている」という一言が、次の被害者を沈黙させ、そして自分自身の警戒心を緩めていきます。

「SNS型詐欺に狙われるのは、騙されるのは、どんな人ですか?」

私たちの答えは、これからも変わりません。

「誰でも狙われますし、誰でも騙される可能性があります。そして『私は騙されない』とお考えの方こそ、危ういかもしれません。」

この回答には、科学的に裏付けられたエビデンスがあります。

メディア関係者の皆さまへ

CHARMSでは、SNS型詐欺(投資詐欺・ロマンス詐欺等)に関する取材へのご協力、および被害当事者支援の現場からの知見の提供を行っています。本記事でご紹介した各論文の解説記事は、いずれも査読付き学術論文にもとづいて作成しており、取材時の背景理解や裏取りにご活用いただけます。

報道の際、次の点にご配慮いただけますと幸いです。

  • 特定の年齢層・性別を「典型的な被害者」として描かないこと。実態と異なるうえ、他の層の警戒心を緩め、被害の潜在化を招きます。
  • 加害者側の手口(心理的支配のプロセス)に焦点を当てること。被害者の属性や判断ではなく、加害者の技術を伝えることが予防につながります。
  • 被害者非難につながる表現を避けること。「なぜ気づかなかったのか」という問いは、相談・通報の妨げになります。

用語解説

デモグラフィック(Demographics) 年齢、性別、学歴、収入、婚姻状況といった人口統計学的な属性のこと。統計上わかりやすい指標ですが、本記事で紹介した研究群は、これらだけでは被害の説明がつかないことを繰り返し示しています。

スキャムベイティング(Scam-baiting) 詐欺師にあえて返信し、やり取りを継続させることで、その手口や行動パターンを観察・記録する手法。研究目的では、自動応答するBotを用いて倫理的・安全に実施されることがあります。

曝露(Exposure)と感受性(Susceptibility) 詐欺被害の研究では、「詐欺の勧誘が届く/標的にされる」段階を曝露、「実際に信じて応じてしまう」段階を感受性として区別します。この2段階を分けることで、「なぜ被害に遭ったのか」をより正確に分析できます。

セルフコントロール(Self-control) 目先の誘惑や衝動を抑え、長期的な利益にもとづいて行動を選ぶ能力。犯罪学では被害・加害の双方に関わる要因として長く研究されてきた概念で、性格の良し悪しを意味するものではありません。

パネル調査(Panel survey) 同じ対象者に対して、時期を変えて繰り返し調査を行う手法。被害が起きる「前」のデータが手元にあるため、後づけではない因果関係の検討が可能になります。


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