Beyond Financial Loss: A Qualitative Inquiry into Consumer Investment Fraud Victimization and Recovery (金銭的損失を超えて:消費者投資詐欺の被害と回復に関する質的探究)
Dalifer A. Gano
この論文でインタビューを受けた被害者は、ポンジ・スキーム、ネズミ講型、暗号資産・FX取引、オンライン証券取引、クラウドファンディング型融資、不動産、オンラインゲーム事業など多岐にわる投資詐欺を含みます。私たちの活動対象はオンラインの投資詐欺やロマンス詐欺などいわゆるSNS型詐欺ですが、被害者の被害後の状況や支援のニーズには共通するものがあります。
要約
フィリピン・ベンゲット州立大学のDalifer A. Gano先生による論文 “Beyond Financial Loss: A Qualitative Inquiry into Consumer Investment Fraud Victimization and Recovery”(金銭的損失を超えて:消費者投資詐欺の被害と回復に関する質的研究)は、投資詐欺の被害に遭った15名への聞き取りをもとに、被害の実像と回復の過程を描き出した研究です。記述的現象学の立場に立ち、コライジ法という手続きで語りを分析しています。その結果、加害者はまず少額の配当を実際に支払って信頼を得たうえで、期限の演出、権威づけ、宗教や職場のつながりの悪用、偽造書類の提示などを重ねて出資額を引き上げていくことが示されました。被害は金銭にとどまらず、感情、精神保健、社会関係、家族生活へと連鎖します。一方で被害に遭った方々は、周囲の支え、家計の立て直し、意味づけの転換、専門家の援助を組み合わせて回復を模索していました。被害者を中心に据えた支援制度の必要性を、当事者の語りから論証した点に特色があります。
研究方法
なぜ「質的研究」なのか
投資詐欺に関する研究の多くは、被害額や被害率といった数字を扱う量的研究として行われてきました。しかしGano先生は、数字では捉えきれない領域――被害に遭った方が何を感じ、どのように日常を組み立て直したのか――を明らかにするために、質的研究、なかでも記述的現象学という方法を選んでいます。これは、ある出来事を体験した本人にとってその出来事がどのような意味をもっていたのかを、研究者の先入観をできるだけ差し挟まずに記述しようとする立場です。
調査地と協力者
調査地はフィリピン・ベンゲット州ラトリニダードです。ベンゲット州は2024年に第一級州に分類され、2019年には人間開発指数(HDI)0.88で国内首位となった地域です。論文は、こうした経済的な豊かさが正規の投資機会を呼び込む一方で、詐欺グループにとっても魅力的な市場になっていると指摘します。実際に2024年には、住民6名の告訴を受けて13名が組織的詐欺(シンジケート型エスタファ)で立件された事案が起きており、近隣のバギオ市でも大規模なカジノ・ジャンケット詐欺や「養豚事業」を名目とする詐欺が報告されています。
協力者は目的的サンプリングで選ばれました。条件は、成人であること、過去3年以内に投資詐欺の被害を1回以上経験していること(被害額の多寡は問わない)、そして同意のうえで自発的に参加することの3点です。最終的に15名が参加し、新しい語りが出尽くした段階(データ飽和)で聞き取りを終えています。
参加者の内訳は、27歳から70歳までの幅広い年齢層にわたり、職業も退職した大学教員、公務員、教員、技術者、農業者、経営者、元海外出稼ぎ労働者などさまざまです。被害額は15万ペソから600万ペソに及びます。手口も、ポンジ・スキーム、ネズミ講型、暗号資産・FX取引、オンライン証券取引、クラウドファンディング型融資、不動産、オンラインゲーム事業など多岐にわたりました。**「特定の属性の人だけが狙われるわけではない」**という事実が、参加者一覧そのものから読み取れます。
聞き取りと分析
聞き取りは、専門家による検証を経た質問項目に沿った半構造化面接で行われました。英語、フィリピノ語、現地語を参加者の希望に応じて使い分け、1件あたり45〜60分。録音のうえ逐語起こしを行い、必要に応じて英訳しています。
分析にはコライジ(Colaizzi)の7段階の手続きが用いられました。逐語録に繰り返し浸り、意味のある発言を抜き出し、そこから意味を定式化し、カテゴリー(中心的アイデア)へまとめ、さらに本質的テーマへと統合していく流れです。この過程ではブラケッティング、すなわち研究者自身の前提をいったん脇に置く作業が意識的に行われています。Gano先生自身は詐欺被害の経験がなく、それが先入観の抑制に働いたと明記されています。分析後にはメンバーチェッキングとして、まとめた内容を参加者に戻し、自分の体験を正しく表しているかを確認してもらっています。
倫理面では、事前の同意取得、P1〜P15という記号による匿名化、答えたくない質問には答えなくてよいこと・いつでも中断できることの説明、データの施錠管理が行われました。
この研究でわかったこと
1. 「小さな成功体験」から始まる段階的な信頼形成
最も一貫して現れたのは、加害者がいきなり大金を求めないという点です。参加者の多くは、当初は疑いを持ちながら「試しに」少額を出しています。ところが約束どおりの配当が実際に振り込まれる。この小さな成功体験が疑いを溶かし、次はより大きな金額へと進んでいきます。ある参加者は、最初は納得しきれず少額だけ投じたものの、配当を受け取ったことで信用し、古い車を売った代金まで投じたと語っています。より良い車に買い替えられると考えたためでした。その直後から入金は止まり、連絡は途絶えます。
ここで重要なのは、この判断が不合理だったとは言えないということです。約束が守られたという実績を根拠に次の判断をするのは、むしろ通常の意思決定の作法です。加害者はその作法そのものを設計に組み込んでいます。
2. 期限と希少性がつくる「考える時間の剥奪」
暗号資産に少額を投じていた参加者は、事業者を名乗る人物から「今後3日以内の追加投資は倍額になる」という「キャンペーン」の連絡を受け、他の投資を解約して送金しています。1週間後、アカウントは削除され、資金は戻りませんでした。
論文はこれをFOMO(取り残される恐怖)を利用した手口として整理します。期限や限定性が加わると、人は検証よりも決断を優先しやすくなります。先行研究でも、信頼できそうに見えて、かつ期間限定である提案ほど魅力が増すこと、物語仕立ての語りが切迫感を強めることが示されており、本研究の語りはそれを当事者の言葉から裏づけています。
3. 「豊かになりたい」ではなく「守りたい」という動機の悪用
ある参加者への勧誘では、著名投資家や有名な投資関連書籍が繰り返し引き合いに出されました。同時に語られたのは、物価上昇や子どもの学費といった生活上の圧迫です。投資による不労所得こそが解決策だ、という筋書きでした。
つまり動機として利用されたのは、贅沢への欲望ではなく、家族の生活を守りたいという切実さでした。加害者は、実在する信頼できる情報源を自分たちの主張に都合よく切り取って利用していたと論文は分析しています。
4. 信頼の「乗っ取り」――アフィニティ詐欺の構造
信頼形成には二つの経路がありました。ひとつは、被害者の社会的な輪の中に入り込む経路です。家族、友人、同僚、教会の仲間といった既に信頼されている人が勧誘役になることで、警戒の入口が最初から開いています。参加者のうち3名は、加害者がもともと自分の人間関係の中にいた人物でした。
もうひとつは、加害者側が意図的に関係を作る経路です。共通の活動に参加し、共通の関心を演出して親密さを築いていきます。ある参加者は、研究者としての業績を調べ上げられ、多額の研究資金が動く事業への出資という形で勧誘されています。別の参加者たちは、免許を持つ金融アドバイザーを名乗る人物から、免許証らしきものや過去の登壇映像を見せられていました。
さらに踏み込んだ形として、神や聖書に繰り返し言及することで信頼を得ようとした事例が報告されています。論文はこれを、金銭的信用性だけでなく道徳的信用性まで偽装したものとして重く扱っています。
アフィニティ詐欺(親近感・コミュニティ利用型詐欺)
宗教、民族、職場、趣味など、共通の属性や「仲間内のつながり」を悪用して行われる詐欺のことです。「この人が言うなら間違いない」「同じグループの仲間だから安心だ」という身内への信頼感を逆手にとるのが特徴です。たとえば教会の仲間や同僚を経由した勧誘がこれにあたります。
5. 「作られた証拠」――偽造書類とデジタル加工
ある参加者は、長年の実績があるという説明とともに、事業関連書類、パンフレット、体験談、過去の出資者が得たとされる不動産の写真をまとめたポートフォリオを見せられました。すべて偽造でした。
論文は、こうした偽装が単なる嘘の域を超え、正規の金融機関を模倣した信用の演出にまで洗練されてきていると指摘します。制度的なビジュアル、整った書式、それらしいURL、専門用語の使用、加工されたスクリーンショット、架空の顧客の声。金融に不慣れな人ほど見抜きにくいのは当然です。
6. 被害は五つの層に連鎖する
被害の影響は、互いに切り離せない5領域に広がっていました。
(1)経済的困窮 参加者全員が金銭的損失を経験し、うち6名は自身や家族の資産を失うほどの深刻な経済的危機に陥っています。15年分の貯蓄が一瞬で消えた方、退職一時金の大半を失った方がいました。回復の見通しは厳しく、一部でも取り戻せたのは5名、残る10名は1ペソも回収できていません。4名は配当が利息を上回るはずと考えて金融機関から借入を行っており、詐欺そのものが崩壊した後も返済だけが残りました。ある参加者は、利息と延滞金の総額が当初の投資額を上回ったと語っています。別の参加者は約3年間、手取りが総支給額の1割ほどの状態が続きました。家業の資本を投じたために事業が破綻し、都市部の家賃を払えなくなって地方へ戻り、子どもの転校を余儀なくされた家庭もあります。
(2)感情的な傷 被害の判明直後には、動悸、落ち着かなさ、吐き気、無力感、怒り、羞恥といった強い反応が語られました。そしてその感情は一度きりで終わりません。ある参加者は、給与明細を受け取るたびに――既に失われたものへの返済が印字されているために――体験が再生されると述べています。将来の便益がないものへの支払いを続けるという状態が、感情的な負荷を長期化させていました。
(3)精神保健上の影響 選択的健忘、うつ病、パラノイアの診断と治療を受けた事例が報告されています。この参加者は、実際には誰もいないのにノックや足音が聞こえたように感じ、ベッドの下に隠れることがあったと語りました。8名が放心状態や情緒的な孤立を経験し、なかには希死念慮に至った方もいます(「子どもがいると思い直した」と語られています)。3度の被害を経験した参加者は、投資という行為そのものへの強い恐怖を抱くようになりました。反すう思考によって仕事の集中力が損なわれたという語りも複数ありました。
(4)社会的孤立と自己像の傷つき 被害が知られると、家族、親族、同僚、地域の人々からの嘲笑や批判にさらされた方が少なくありません。ある退職教員は、家族に知られることを恐れて黙っていましたが、地元紙の報道で発覚し、「大学教授だったのに」と責められました。金融部門の管理職にある参加者は、職務では組織の資金を扱っているのに自分の資金を守れなかった、と自らを責めています。恥と社会的評価への恐れは、多くの参加者が最初に相談をためらった直接の理由でした。6名が自信と対人関係への悪影響を報告し、集まりを避けるようになった方もいます。
(5)家族関係への波及 きょうだいや配偶者との口論、数週間にわたる沈黙、交際相手との関係悪化などが語られました。隠していた事実が後から発覚した場合には、「隠したこと」自体が新たな不信を生むという連鎖も確認されています。最も深刻な事例では、夫婦の別離に至りました。この参加者は、子どもたちが生活水準の低下と親の別離の双方に適応せざるを得ず、自分より深く影響を受けたと語っています。
論文が強調するのは、これらが並列ではなく因果的につながっていることです。金銭的損失が感情的苦痛を生み、それが対人関係の自信を削り、家族の安定を揺るがしていきます。
7. 回復のかたち――四つの支え
被害後の対処は、単一の方法ではなく組み合わせとして現れました。
人からの支え: 最も多く挙げられたのは周囲の存在です。励まし、助言、あるいはただ黙って聞いてもらうこと。ある参加者は、友人に打ち明けたことで長く抱えていた重荷が軽くなったと述べています。同じ被害を経験した友人に話したことで孤立感が薄れた方もいました。打ち明けるまでに数週間を要した参加者は、配偶者が責めずに「恥じるべきは加害者のほうだ」と言ってくれたことで関係がむしろ深まったと語っています。一方で、家族を苦しめたくないという理由から誰にも話さない選択をした方もおり、対応は一様ではありません。経済面では、無利子での貸付、生活費の一部負担、子どもたちが資金を出し合っての債務整理といった支援がありました。
家計の立て直し: 予算を必需品に絞り、被服費や娯楽費をゼロにして約3年を耐えた家庭がありました。「予備費がなく、綱渡りのようだった」という表現が使われています。複数の借入を抱えた方は、期限の迫った債務を新たな借入で返す**「債務の循環」**に頼らざるを得ませんでした。副業や有給休暇の買い取り、資産の売却で現金を確保した方もいます。
意味づけの転換: 「自分は愚か者ではなく被害者だ」と捉え直すことが、恥と自責を軽くしていました。ある参加者は、被害者には退職者も事業者も会計士も大学教授も一般の給与所得者もいる、それなら誰にでも起こりうる、と語っています。嘲笑を「立ち直って見せる」動機に変えた方、過去の囚人にはならないと決めた方もいました。論文はこれを、認知的評価理論における再評価の実例として位置づけています。
専門家の援助: 財務アドバイザーへの相談、カウンセリング、精神科への紹介といった経路が使われました。ただし公的機関への通報は例外的で、15名中12名は届出をしていません。恥や社会的な露見への恐れ、そして「届け出ても意味がない」という予期が理由でした。実際に通報した3名も、加害者が既に出国していた、事業者が外国拠点で捜査が困難だった、手続きが遅く煩雑だった、という結果に直面しています。
この論文の社会への貢献
「被害額」という指標の限界を可視化した
詐欺被害は通常、金額と件数で語られます。しかしこの研究が示したのは、同じ100万円の損失でも、それが借入によるものか、退職金か、事業資本かによって、その後の人生に及ぼす影響がまったく異なるということです。給与明細を見るたびに体験が再生される、子どもが転校を余儀なくされる、事業が破綻する――これらは統計には現れません。被害の重さを測る指標が金額しかない現状は、支援の設計を誤らせるという含意は、日本の統計や支援制度を考えるうえでも重要です。
「なぜ騙されたのか」から「どう設計されていたのか」へ
この研究の記述は一貫して、被害者の判断の甘さではなく、加害者側の設計の精緻さに焦点を当てています。少額配当という実績の提示、期限の設定、既存の人間関係の利用、道徳的権威の偽装、証拠の偽造。これらは個別の嘘ではなく、信頼が形成される過程そのものを逆用した工程です。
この視点は、被害者非難を減らすうえで実務的な価値があります。「注意していれば防げた」という前提が成り立たないことを、当事者の語りが具体的に示しているからです。防止啓発の場面でも、「怪しい話に乗らない」という一般論より、「最初の配当は本当に支払われる」「勧誘者はあなたが信頼している人かもしれない」という具体的な構造の共有のほうが実効性を持ちます。
相談・通報のハードルが構造的であることを示した
15名中12名が届出をしていないという事実は、単なる情報不足では説明できません。恥、露見への恐れ、そして「どうせ何も起きない」という予期が重なっています。通報した3名の経験が、その予期を裏づける結果になっていたことも見過ごせません。
論文は、通報の仕組みそのものを簡素で被害者に配慮した設計に改めるべきだと提言します。これは日本でも共通する課題です。相談窓口の存在を知らせるだけでなく、相談したときに何が起き、何が起きないのかをあらかじめ伝えることが、実際の相談行動を後押しします。
支援の対象を「本人」から「世帯」へ広げる根拠
家族の別離、子どもの転校、きょうだい関係の悪化、配偶者からの不信。この研究は、被害の影響が世帯全体に及ぶことを繰り返し示しています。同時に、家族の反応が回復を大きく左右することも示されました。責めなかった配偶者の存在が関係を強めた事例と、家族の批判が苦痛を深めた事例が、同じ研究の中に並んでいます。
ここから導かれるのは、支援は本人だけでなく家族にも向けられる必要があるという実務的な結論です。家族に対して「責めないでほしい」と伝えることは、精神論ではなく回復のための具体的な介入になります。当団体(NPO-CHARMS)の相談実務でも、ご本人より先にご家族から連絡が入る例は珍しくありません。この研究は、そうした場面で家族に何を伝えるべきかの根拠を提供してくれます。
ピアサポートの価値を裏づける
同じ被害を経験した人に話したことで孤立感が和らいだ、被害者は多様な職業・学歴の人々に及ぶと知って自責が軽くなった――こうした語りは、当事者同士のつながりが回復資源として機能することを示しています。専門的な治療とは別の水準で、「自分だけではない」という認識そのものが介入になるという点は、ピアサポートの実践に取り組む立場から見て特に注目される知見です。
「日常の再建」を政策課題として扱う
論文は最後に、投資詐欺を金融犯罪としてだけでなく、公共福祉と被害回復の課題として扱うべきだと述べています。具体的には、地域単位の金融リテラシー教育、オンライン投資広告の監視強化、暗号資産・デジタル投資プラットフォームの規制の明確化、通報の簡素化、そしてカウンセリングの紹介、法的支援、家計再建の助言、深刻な損失に対する緊急支援や補償の仕組みです。
この提言が説得力を持つのは、それが理念からではなく、15人の生活の記述から積み上げられているからです。詐欺の話は、しばしば「気をつけましょう」で終わります。しかし本当に必要なのは、被害が起きた後の数年間を、その人と家族がどう生き延びるかという問いへの答えです。行政、警察、金融機関、支援団体、医療・心理職、そして被害者の身近にいる一人ひとりが、それぞれの位置からこの問いに関われるはずです。
用語解説
記述的現象学(Descriptive Phenomenology) ある出来事を体験した本人にとって、その出来事がどう現れ、どんな意味をもっていたのかを、研究者の解釈や理論を極力持ち込まずに記述しようとする質的研究の立場です。「何が起きたか」だけでなく「本人にとってそれがどういう経験だったか」を明らかにすることを目的とします。
コライジ法(Colaizzi’s Method) 記述的現象学のデータ分析手順のひとつで、7つの段階からなります。逐語録を繰り返し読み込み、意味のある発言を抜き出し、その意味を言語化し、似たものをまとめ、全体像を記述し、本質的な構造を取り出し、最後に参加者に確認してもらう、という流れです。
ブラケッティング(Bracketing/判断の一時停止) 研究者が自分の先入観や仮説をいったん「括弧に入れて」脇に置く作業のことです。数学の括弧のように、中身を一時的に計算から外すイメージです。誘導的な質問を避ける、繰り返し逐語録に立ち戻る、といった具体的な行動として現れます。
メンバーチェッキング(Member Checking) 分析結果を参加者本人に戻し、「あなたの体験を正しく表せているか」を確認してもらう手続きです。質的研究の信頼性を高める代表的な方法のひとつです。
データ飽和(Data Saturation) 新たに聞き取りを行っても新しい内容が出てこなくなった状態を指します。質的研究では、この状態を目安にデータ収集を終えることが多くあります。
目的的サンプリング(Purposive Sampling) 無作為に選ぶのではなく、研究の目的に照らして必要な経験を持つ人を意図的に選ぶ方法です。今回であれば「過去3年以内に投資詐欺の被害を経験した成人」がそれにあたります。
グルーミング(Grooming) もともとは動物が毛づくろいをして清潔を保ち、信頼関係を深める行為を指す言葉でした。現代の犯罪心理学やネット犯罪の文脈では、「対象を心理的に手なずけ、支配下に置くための準備工作」という意味で使われます。
アフィニティ詐欺(Affinity Fraud) 宗教、民族、職業、地域など、共通の属性やつながりを持つ集団の内部で、その信頼関係を利用して行われる詐欺のことです。本論文では、教会の仲間や同僚を経由した勧誘がこれにあたります。
FOMO(Fear of Missing Out/取り残される恐怖) 自分だけが機会を逃してしまうのではないかという不安のことです。「あと3日だけ」「同僚はもう始めている」といった働きかけは、この不安を意図的に刺激します。
認知的評価理論(Cognitive Appraisal Theory) ラザルスらが提唱した理論で、ストレスは出来事そのものではなく、「その出来事が自分にとってどれだけ脅威か」と「自分にはそれに対処する資源があるか」という2つの評価のバランスから生じると考えます。同じ出来事でも、評価の仕方によって受ける負荷が変わります。本論文では、被害を「自分の愚かさ」ではなく「犯罪の被害」と捉え直すことが回復を助けた事例として引かれています。
再評価・リフレーミング(Reappraisal/Reframing) 出来事の捉え方を意識的に置き換えることです。「自分が愚かだった」から「自分は犯罪の被害に遭った」への転換がその一例で、自責と恥を軽くする働きがあります。
ポンジ・スキーム(Ponzi Scheme) 新規出資者から集めた資金を、既存の出資者への「配当」に充てて運用実績があるように見せかける詐欺の手口です。実際の運用は行われておらず、新規資金が途絶えた時点で破綻します。
ピラミッド・スキーム(Pyramiding Scheme) 日本でいう無限連鎖講(ネズミ講)に近い形態で、新たな参加者を勧誘することで報酬が得られる仕組みです。本論文では、健康食品会社や通信会社を名目とした事例が報告されています。
シンジケート型エスタファ(Syndicated Estafa) フィリピンの法制度における詐欺罪の加重類型で、5人以上が共謀して行った詐欺を指します。刑が重く、保釈が認められにくい扱いとなります。
債務の循環(Debt Cycling) 返済期限の迫った借入を返すために、新たな借入を行うことを繰り返す状態です。延滞金や法的措置を避けるための緊急避難として選ばれますが、負債総額は増え続けます。
二次被害(Double Victimization) 詐欺そのものによる被害に加えて、周囲からの非難や、支援のつもりでかけられた言葉が本人を追い詰めることで生じる、二重の傷つきを指します。本論文では、家族や同僚からの嘲笑がこれにあたります。
| タイトル | Beyond Financial Loss: A Qualitative Inquiry into Consumer Investment Fraud Victimization and Recovery (金銭的損失を超えて:消費者投資詐欺の被害と回復に関する質的探究) |
| 論文の 種類 | ジャーナル論文(査読付き学術雑誌の原著論文/オープンアクセス) |
| 論文の 分野 | 被害者学・犯罪学(消費者経済学、臨床心理学、家族社会学の要素を含む学際研究) |
| 著者 | Dalifer A. Gano(ベンゲット州立大学 家政・技術学部、フィリピン・ベンゲット州ラトリニダード) |
| 論文誌名・発行者 | International Research Journal of Multidisciplinary Scope(IRJMS) |
| 発行日・巻数・ページ | 2026年7月1日発行/第7巻 第3号/118–137頁(受理:2026年3月10日、採択:2026年6月9日) ISSN 2582-631X(オンライン) |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://www.irjms.com/wp-content/uploads/2026/07/Manuscript_IRJMS_012247_WS.pdf |
| Cite | Gano, D. A. (2026). Beyond financial loss: A qualitative inquiry into consumer investment fraud victimization and recovery. International Research Journal of Multidisciplinary Scope, 7(3), 118–137. https://doi.org/10.47857/irjms.2026.v07i03.012247 |

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