Exploring the roles played by trust and technology in the online investment fraud victimisation process(オンライン投資詐欺の被害プロセスにおいて、信頼とテクノロジーが果たす役割の探求)
Matthew Anderson, Evita March, Lesley Land,Christine Boshuijzen-van Burken
要約
ニューサウスウェールズ大学キャンベラ校(オーストラリア国防大学内)のMatthew Anderson先生らによる研究論文「オンライン投資詐欺がいかに起きるのか、その背後にある『信頼』と『テクノロジー』の役割」は、日本語でいうところのSNS型投資詐欺(恋愛要素の同じ手口のものも含む)がいかに起きるのか、その背後にある信頼の構築とテクノロジーの役割を解明したものです。米国連邦取引委員会やRedditの被害者支援フォーラムの200件の証言を質的に分析し、詐欺師が巧妙なアプリで正当性を装い、時間をかけて被害者との親密な関係を築くプロセスを浮き彫りにしました。従来の調査では軽視されがちだった被害に至る心理・技術的プロセスに焦点を当て、個人の不注意を責めるのではなく、詐欺システムの構造的罠を学術的に証明した点で非常に特異で価値のある研究です。
研究方法
本研究は、SNS型投資詐欺の被害プロセスを深く理解するために行われました。従来のサイバー犯罪研究ではどんなシステムが使われたかなどの量的なデータ分析が主流でしたが、それではなぜ被害に遭ってしまったのかという被害者側の切実な実態が見えてきませんでした。
そこで本研究では、帰納的主題分析という質的研究の手法を採用しました。対象となったサンプルは、米国の連邦取引委員会(FTC)のブログや、世界的掲示板Reddit(r/Scams)に投稿された、被害者自身による200件の痛切な体験談です。研究者たちは、事前にこういう理由で騙されたのだろうという仮説を立てるのではなく、生々しい証言の言葉一つひとつに真摯に向き合い、そこから共通するテーマ(主題)をすくい上げるというアプローチをとりました。分析の信頼性を高めるため、複数の研究者でコード(分類ラベル)の一致率を統計的に確認する作業も行われています。数字では表せない被害者の声から、騙されるまでの心の動きやテクノロジーが果たした役割を浮き彫りにした点が、本研究の大きな特徴です。
この研究でわかったこと
被害を身近に引き寄せる「個人的要因」と「心理的背景」
証言の分析から、被害者が投資に手を出した背景には、単純な強欲さではなく、将来への不安や経済的自立への願い、あるいは他の人が仮想通貨で儲かっているのに自分だけ取り残されるのではないか(FOMO)という焦りがあったことが見えてきました。また、寂しさや孤独感、失恋直後といった精神的な脆弱性を抱えていたタイミングで詐欺師と接触し、心の隙間を埋められてしまったケースも少なくありませんでした。さらには、自分は人を信じやすい、ITの知識に乏しいといった被害者自身が後悔とともに振り返る姿も確認されており、誰もが持つ人間的な弱さが狙われていることが明らかになりました。
テクノロジーが生み出す偽りの正当性
詐欺師は、驚くほど精巧なテクノロジーを駆使して被害者の疑いを晴らします。例えば、立派な事業計画書や偽の口コミを用意するだけでなく、リアルタイムで資産が増えていく様子を見せる専用の偽アプリを提供していました。さらに、24時間対応のカスタマーサポートチャットを設置したり、最初は実際に少額の引き出しを成功させてこのシステムは本物だと確信させたりするなど、双方向の仕掛けを用いてテクノロジーへの信頼を意図的に作り出していました。
ハイパー・パーソナルな信頼関係の構築
詐欺師はすぐに投資の話を持ちかけることはしません。例えばマッチングアプリやSNSを通じた出会いから始まり、何ヶ月もかけて毎日のように趣味や日常会話を重ね、恋愛感情や深い友情を育みます。また、間違ってメッセージを送ってしまったと装う偶然の出会いから縁を深めたり、ビジネスパートナーや共に投資を学ぶ仲間として関係を築く巧妙な手口も確認されました。このお金より先に、強固な人間関係(信頼)を構築するというプロセスが、被害者の冷静な判断力を奪う最大の要因となっています。
詐欺師の巧みなセルフ・プロデュース
詐欺師は、魅力的な容姿の写真や、高級ホテル・旅行などのラグジュアリーなライフスタイルを示す画像(多くは盗用されたもの)を日常的に送信し、「魅力的で成功している専門家」としてのキャラクターを完璧に演じきっていました。被害者は、目の前にいる(と信じている)完璧なパートナーやメンターの言葉だからこそ、通常なら疑うような投資話でも信じ込んでしまったのです。
この論文の社会への貢献
被害者非難からの脱却
この論文の最大の意義は、投資詐欺の被害が「個人の不注意や欲深さ」によるものではなく、高度な心理的プログラミングとテクノロジーの罠によって引き起こされるシステム上の問題であることを実証した点にあります。被害者は決して愚かだったわけではなく、精巧なアプリや、深い愛情・信頼感という人間の根源的な感情をハッキングされたに過ぎません。この知見は、被害者を社会的な偏見から守り、心理的ケアや支援を行う上で極めて重要な基盤となります。
特定の「手口」から「詐欺の構造」を教える防犯教育への転換
これまでの防犯啓発はこの仮想通貨に注意といった場当たり的なものが主流でした。しかし本論文は、詐欺師がいかにして日常会話で信頼を築き、少額の引き出しで安心させ、最終的に大金を奪うかという、詐欺の根底にあるプロセスそのものを教育することの重要性を提唱しています。手口がAI等でどれほど高度化しようとも、信頼関係を悪用するという構造を事前に知っていれば、被害を防ぐ確率を劇的に高めることができます。
プラットフォームの責任とセーフティ・バイ・デザイン
本研究は、SNSやマッチングアプリの運営企業に対して、サービス設計の段階から犯罪を防ぐ仕組み、セーフティ・バイ・デザインを導入するよう強く求めています。例えば、アプリ内で急に仮想通貨の話が出た際や、外部の秘匿性の高い通信アプリ(LINEやWhatsAppなど)への移動を促された際に警告を出すなど、テクノロジーを活用したシステム側での被害防止策が必須であると論じています。
SNS型投資詐欺(恋愛要素のものも同じものとして含む)は、もはや騙される人が悪いという個人的な問題ではありません。巧妙に設計された犯罪ビジネスであり、誰しもが孤立した時や将来に不安を抱いた時に陥る可能性のある罠です。行政や警察関係者の方は、この知見を被害者に寄り添う制度設計や捜査に生かしてください。支援者や医療・心理関係者の方は、自責の念に苦しむ被害者の心を救う手立てとして活用してください。そして一般市民の皆さまは、この犯罪の構造を知り、身近な人が急に『親切な投資のプロ』と連絡を取り始めた時に、そっと手を差し伸べる良き見守り手になっていただければと願っています。社会全体で正しい知識を持ち、孤立を防ぐことこそが、最も強力な防犯対策なのです。
用語解説
- 帰納的主題分析:あらかじめ決められた理論や枠組みに当てはめるのではなく、集まったテキスト(今回は被害者の証言)を白紙の状態で丁寧に読み込み、そこから自然に浮かび上がってくる共通のパターンやテーマを抽出していく質的研究の手法です。
- オンライン投資詐欺:SNSやマッチングアプリなどでターゲットに接触し、長期間にわたって日常会話で信頼関係を築き、最終的に全財産を投資させて奪い取るという非常に冷酷な詐欺手法。日本語でいうところのSNS型投資詐欺だが、日本の警察庁がロマンス詐欺に含めているSNS型投資ロマンス詐欺もこのオンライン投資詐欺に含む。
- ハイパー・パーソナル・コミュニケーション: 対面でのコミュニケーションよりも、インターネット上(チャットやSNS)でのやり取りの方が、相手の理想的な側面ばかりが見えやすく、より急速に、過剰なほど深い親密さや信頼感を感じてしまうという心理モデルを指します。
- セーフティ・バイ・デザイン:製品やサービスを開発する際、後から対策を追加するのではなく、初期の設計段階から「ユーザーがいかに安全に使えるか」「犯罪や嫌がらせに悪用されないか」を組み込んでおくという考え方です。
| タイトル | Exploring the roles played by trust and technology in the online investment fraud victimisation process(オンライン投資詐欺の被害プロセスにおいて、信頼とテクノロジーが果たす役割の探求) |
| 論文の種類 | ジャーナル論文 |
| 論文の分野 | 犯罪学、被害者学、サイバー心理学 |
| 著者 | Matthew Anderson(ニューサウスウェールズ大学キャンベラ校 / オーストラリア国防大学)Evita March(フェデレーション大学)Lesley Land(ニューサウスウェールズ大学)Christine Boshuijzen-van Burken(ニューサウスウェールズ大学キャンベラ校 / オーストラリア国防大学) |
| 論文誌名・発行者 | Journal of Criminology (SAGE Publications) |
| 発行日・巻数・ページ | 2024年発行(2024年3月28日受理)、第57巻第4号、488–514ページ |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://doi.org/10.1177/26338076241248176 |
| Cite | Anderson, M., March, E., Land, L., & Boshuijzen-van Burken, C. (2024). Exploring the roles played by trust and technology in the online investment fraud victimisation process. Journal of Criminology, 57(4), 488–514. https://doi.org/10.1177/26338076241248176 |


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