投資詐欺はどう報じられるか?言語学から読み解くメディア報道と権力関係の論文解説

投資詐欺報道が映し出すもの IT・情報社会
投資詐欺報道が映し出すもの
IT・情報社会論文解説

Examining Social Actors in Investment Fraud News: A Transitivity and Appraisal Analysis(投資詐欺ニュースにおける社会的行為者の調査:他動性および評価分析)
Eny Maulita Purnama Sari, Riyadi Santosa, Djatmika Djatmika, Tri Wiratno 

この研究は日本で問題になっている有名人を騙るなりすましによる投資詐欺ではなく、実在のインフルエンサーによる詐欺事件報道を扱ったものです。しかし被害者・加害者・警察についてメディアが同報道しているかという言語学者目線での分析は、SNS型投資詐欺報道にも通じるところがあります。

要約 

インドネシア・セベラス・マレット大学のEny Maulita Purnama Sari先生らによる研究論文「Examining Social Actors in Investment Fraud News: A Transitivity and Appraisal Analysis」は、メディアが投資詐欺のニュースにおいて、加害者・被害者・警察といった「社会的行為者」をどう描いているかを明らかにしました。Eny Maulita Purnama Sari先生の専門の言語学の手法を用いてオンラインニュースを質的に分析しています。結果として、加害者は不道徳な標的、被害者は事件の単なる行動者、警察は信頼できる発信源として描かれ、報道の主導権が警察にあることが判明しました。メディアの報道姿勢が読者の認識に与える影響を言語学的に紐解き、被害者保護のあり方に一石を投じる点が本論文の特異性です。

研究方法

本研究は、投資詐欺のニュースにおいて、メディアが加害者(インフルエンサーなどのアフィリエイター)、被害者(投資家)、そして事件を扱う警察を、どのように位置づけ、読者に印象付けているか(フレーミング)を解明することを目的としています。

サンプルとして、インドネシアで非常に読者数の多いオンラインメディアTribunnews.comが2022年の2月〜3月に配信した、特定の投資アプリを利用した詐欺事件に関する4つのニュース記事が選ばれました。

分析には、質的研究のデザインが採用されています。具体的には、言語の使われ方に潜むイデオロギーや権力関係を読み解く「批判的談話分析(CDA)」というアプローチを使用しています。さらに、その枠組みの中で以下の2つの具体的な言語学的手法が使われました。

  • 他動性分析(Transitivity Analysis): 誰が誰に対して何をしたかという「文法的な構造」を分析することで、それぞれの登場人物が持つ力関係を調べます。
  • 評価システム(Appraisal System): 記事内で使われている形容詞や副詞などを分析し、記者やメディアが登場人物に対してどのような「評価(例えば、不道徳、信頼できるなど)」を下しているかを調べます。

これらの手法を用いることで、ニュースが単なる事実の羅列ではなく、読者の印象をどのように誘導しているのかを客観的なデータとして浮き彫りにしています。

この研究でわかったこと

メディアが作り出す権力関係と情報操作

他動性分析の結果、ニュースの中で最も紙幅を割かれて注目されているのは加害者でした。しかし、加害者は自ら能動的に行動する人物としてではなく、警察の捜査や逮捕の標的(受け身)として描かれる傾向がありました。一方で被害者は、警察に被害を報告する行動者として描かれるものの、事件の物語に対する影響力は小さく、単なる情報提供者としての扱いに留まっています。そして、ニュースのストーリーをコントロールする最大の力を持っていたのは警察です。警察はメディアに対して情報を発信する中心的な発話者として圧倒的な存在感を示しており、事件の報道は警察の発表を軸に作られていることが明らかになりました。

登場人物へのレッテル貼りと偏った評価

評価システムの分析からは、メディアが各登場人物に対して明確なレッテル貼りを行っていることが示されました。

  • 加害者への評価: ニュースの見出しから結びに至るまで、一貫して「不道徳な人物」として批判的に描かれています。ネガティブな言葉が多用され、社会的な制裁を受けるべき存在であることが強調されています。
  • 被害者への評価: 被害者は多額の資金を投資できるほどの経済力があるという意味で恵まれている(fortunate)と表現されたり、単に警察に報告する人物として描かれたりしています。メディアの関心は被害者の苦痛に寄り添うことよりも、事件の進行役に焦点が当たっています。
  • 警察への評価: 警察は信頼できる存在、公正に仕事をする機関として肯定的に描かれています。記者は警察の発表を引用することで、ニュースの客観性を担保しつつ、警察の権威を高めるような報道を行っています。

この論文の社会への貢献

メディア報道の裏側を知る意義

私たちは日々、ニュースを客観的な事実として受け取りがちですが、本研究は、報道が特定の意図や視点(フレーム)に基づいて構築されていることを可視化しました。警察の視点を中心に物語が進み、被害者の深い苦悩や詐欺が起きる社会的背景には十分な光が当てられていない可能性があります。この知見は、一般市民がニュースを鵜呑みにせず、メディアリテラシーを高めるための重要なヒントとなります。

被害者を孤立させない社会制度への示唆

ニュースの中で被害者の声や影響力が極めて小さく扱われているという事実は、現実社会における被害者の立場の弱さを反映しているとも言えます。行政や警察、支援団体の皆様にとっては、被害者が単なる事件の通報者として扱われるのではなく、尊厳を取り戻し、回復に向けた包括的なサポートを受けるべき主体であることを再認識する大きなきっかけとなるでしょう。

私たち一人ひとりができること

投資詐欺は、言葉巧みに人々の心理的な隙や経済的な不安につけ込む犯罪です。メディアの報道だけを見ていると騙された側にも責任があるのではという誤った被害者非難に陥る危険性があります。行政や警察にはより透明性のある温かい被害者保護を、専門家にはメディアの影響を理解した上でのケアが求められます。そして一般市民である私たち自身が、報道の枠組みに惑わされることなく、被害に遭われた方々を孤立させない、優しく寄り添える社会を築いていくことが何より重要です。

用語解説

  • 批判的談話分析(Critical Discourse Analysis / CDA): 言葉や文章(談話)が、社会の中でどのように使われ、人々の意識や権力関係(誰が力を持っているかなど)にどのような影響を与えているかを読み解く研究手法です。
  • 他動性分析(Transitivity Analysis): 文章の中で「誰が(行為者)」「何を(プロセス)」「誰に(対象)」したのかという文法的な構造を分析することで、その文章が描く世界観や、登場人物同士の力関係を明らかにする言語学の手法です。
  • 評価システム(Appraisal System): 話し手や書き手が、言葉の選択(形容詞や副詞など)を通じて、他者や出来事に対してどのような感情、評価、態度を示しているかを客観的に分析する枠組みのことです。
  • フレーミング(Framing): メディアがある出来事を報じる際に、特定の側面を強調したり切り取ったりすることで、読者や視聴者の解釈や印象を特定の方向へ誘導する枠組み(フレーム)を作ることです。
タイトルExamining Social Actors in Investment Fraud News: A Transitivity and Appraisal Analysis(投資詐欺ニュースにおける社会的行為者の調査:他動性および評価分析)
論文の種類ジャーナル論文
論文の分野言語学(批判的談話分析)、メディア研究、犯罪学
著者Eny Maulita Purnama Sari, Riyadi Santosa, Djatmika Djatmika, Tri Wiratno (インドネシア・セベラス・マレット大学)
論文誌名・発行者Theory and Practice in Language Studies (Academy Publication)
発行日・巻数・ページ2024年7月, Vol. 14, No. 7, pp. 2150-2160
原著論文の言語英語
URLhttps://tpls.academypublication.com/index.php/tpls/article/view/8440
CiteSari, E. M. P., Santosa, R., Djatmika, D., & Wiratno, T. (2024). Examining social actors in investment fraud news: A transitivity and appraisal analysis. Theory and Practice in Language Studies, 14(7), 2150-2160. https://doi.org/10.17507/tpls.1407.23

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