詐欺の手口ごとに異なる被害者の心理とリスク:私たちはなぜ騙されてしまうのか?

詐欺の手口ごとに異なる被害者の心理リスク 被害者学
詐欺の手口ごとに異なる被害者の心理リスク
被害者学論文解説

Correlates of responding to and becoming victimized by fraud: Examining risk factors by scam type(詐欺への応答および被害遭遇の相関関係:詐欺の種類別リスク要因の検討)
Marguerite DeLiema, Yiting Li, Gary Mottola

要約

ミネソタ大学のMarguerite DeLiema先生らによる研究論文 ”Correlates of responding to and becoming victimized by fraud: Examining risk factors by scam type” は、消費者が詐欺の標的になった際の「応答」と「実際の金銭的被害」のリスク要因を詐欺の種類別に解明したものです。北米の消費者苦情機関に詐欺を報告した1375名の調査データを分析した結果、被害者のリスク要因(性別、孤独感、経済的脆弱性など)は手口(機会提供型、脅威型など)ごとに大きく異なることが判明しました。また、事前の知識が強い防御策になることも示されました。本論文は、詐欺を一括りにせず手口ごとに分け、さらに騙される前の接触段階と実際の被害段階を区別して検証した点で画期的な研究です。

研究方法

これまでの多くの詐欺研究は、全く異なる手口の被害者をひとまとめにして分析したり、そもそも詐欺に遭遇していない人を比較対象に含めてしまうという課題がありました。

この課題を克服するため、本研究では北米の消費者保護団体(BBB:Better Business Bureau)に自ら詐欺被害や接触体験を報告した1375名の消費者(アメリカ人およびカナダ人)を対象にオンライン調査を実施しました。対象者は全員が「何らかの詐欺に実際に狙われた経験がある人」です。

研究チームは、詐欺の手口を以下の4つに分類しました。

  1. 機会提供型詐欺(投資、宝くじ、ロマンス詐欺など、利益や報酬を約束するもの)
  2. 脅威型詐欺(架空請求、税金未納の脅しなど、恐怖心をあおるもの)
  3. 商品購入型詐欺(偽のオンラインショップなど、存在しない商品やサービスを売るもの)
  4. フィッシング詐欺(信頼できる組織を装い、個人情報を盗むもの)

その上で、詐欺師に応答してしまったか(接触)と実際にお金を失ったか(被害)という2つの異なる段階について、回答者の年齢や収入、孤独感、経済的余裕、心理状態などがどのように影響しているかを、多変量解析や構造方程式モデリング(複数の要因がどう複雑に絡み合っているかを明らかにする統計手法)を用いて分析しました。

この研究でわかったこと

本研究からは、私たちが詐欺から身を守るための重要な事実がいくつも明らかになりました。大きく3つのポイントに分けて解説します。

騙されやすい人の典型例は存在しない

驚くべきことに、詐欺の手口によって、狙われやすく被害に遭いやすい人の特徴は全く異なっていました。

  • 機会提供型詐欺(投資やロマンス詐欺など): 予期せぬ出費に対応できない「経済的脆弱性」を抱える人が被害に遭いやすい一方で、世帯収入が10万ドル(約1,500万円)を超える高所得者も同様に高い被害リスクを抱えていました。また、男性や未婚者もリスクが高い傾向にありました。
  • 脅威型詐欺(架空請求など): 興味深いことに、自身の「お金の管理能力が高い」と自信を持っている人ほど、被害に遭いやすい傾向がありました。
  • フィッシング詐欺: 白人以外のマイノリティ層や、学歴が比較的低い層が応答してしまうリスクが高いことがわかりました。
  • 商品購入型詐欺: 全体の中で最も金銭的被害に繋がりやすい手口であり、特に「孤独感」を抱えている人や、身近に相談できる人がいない人が被害に遭いやすいことが示されました。

接触してしまう理由とお金を払ってしまう理由は違う

詐欺のメールを開いたり電話に出てしまったりする(応答する)要因と、実際にだまされてお金を支払ってしまう(被害に遭う)要因は異なることがわかりました。たとえば、ある手口において「孤独感」は詐欺師に関わってしまうキッカケにはなりますが、最終的にお金を支払う決定打になる要因は別にあるなど、被害は複数の段階を経て引き起こされることが示されています。

最強の防御策は具体的な手口を事前に知っていること

すべての詐欺タイプに共通して強力な防具となったのが、「その詐欺の手口を事前に知っていたかどうか」です。手口を事前に知っていた人は、詐欺師に応答する確率が62%〜86%も減少し、さらにもし応答してしまったとしても、最終的にお金を失うリスクを大幅に下げることができました。また、やり取りの中で「相手が公式・公的な存在に見えた」と感じた場合、被害に遭うリスクが最大82%も跳ね上がることもわかりました。

この論文の社会への貢献

被害者非難(Victim Blaming)をなくし、適切な支援へ繋げる

社会ではよく「詐欺に遭うのは欲深いからだ」「注意不足で愚かだからだ」といった被害者を責める声が聞かれます。しかし本研究は、「その人の置かれている状況や心理状態に、詐欺師の手口がたまたま合致した時に、誰でも被害者になり得る」ということを科学的に証明しました。経済的に困窮している時に一攫千金の話が来たり、孤独を感じている時に優しい言葉をかけられたりすれば、人間の脳の仕組みとして深く考えずに反応してしまうのは当然のことなのです。この知見は、被害者の自尊心を回復し、恥の意識から被害報告をためらう人々を救う大きな根拠となります。

行政や支援者による効果的な啓発活動への示唆

これまでのような詐欺に注意しましょうという一律の呼びかけではなく、ターゲットを絞った具体的なアプローチが必要であることが示されました。たとえば、孤独を感じている高齢者には商品購入型や脅威型詐欺への注意喚起を、高所得者や経済的余裕のない人には投資・機会提供型詐欺の手口を、具体的なストーリーとともに伝えることが有効です。

私たち全員が自分事として捉えるために

詐欺は、決して自分には関係ない他人事ではありません。病気や失業、加齢による孤独など、私たちのライフステージの変化に応じて、心につけ入る詐欺の種類が変わるだけなのです。警察や行政は具体的な手口の周知徹底を、支援者やカウンセラーは被害者の心理的背景(孤独や経済的不安)への寄り添いを、そして私たち一般市民は、最新の詐欺の手口を家族や友人と共有し合うことが、社会全体を守る最大の防御網となります。


用語解説

  • 機会提供型詐欺(Opportunity-based scams): 宝くじの当選、高配当の投資、政府からの助成金、あるいはロマンス詐欺など、ターゲットに対して「ポジティブな利益や感情的報酬」を約束することで誘い込む詐欺の手口です。
  • 脅威型詐欺(Threat-based scams): 「税金が未納で逮捕される」「パソコンがウイルスに感染した」など、ターゲットに恐怖や不安を抱かせ、それを解決するために金銭を要求する詐欺の手口です。
  • 経済的脆弱性(Financial fragility): 日常的な生活費は払えていても、「もし来月、突然2000ドル(約30万円)の予期せぬ出費が必要になったら用意できない」といった、突発的な経済的危機に対する余裕がない状態を指します。
  • 精緻化見込みモデル(Elaboration Likelihood Model; ELM): 人が説得される際の心理プロセスを説明する理論です。内容を論理的・批判的に深く考えるルート(中心ルート)と、感情や相手の権威・魅力など表面的な情報で直感的に判断してしまうルート(周辺ルート)の2つがあり、詐欺師はターゲットの感情を揺さぶることで直感的なルートへ誘導しようとします。
  • 構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling; SEM): アンケートで得られた回答データをもとに、直接目には見えない心理的要因(例:「チャンスを探している心理」や「威圧感を感じている心理」など)が、結果(被害の有無)にどのように影響を与えているかを複数の変数から同時に検証する高度な統計手法です。

タイトルCorrelates of responding to and becoming victimized by fraud: Examining risk factors by scam type(詐欺への応答および被害遭遇の相関関係:詐欺の種類別リスク要因の検討)
論文の種類ジャーナル論文 
論文の分野消費者行動論、被害者学、犯罪心理学
著者Marguerite DeLiema (ミネソタ大学 ソーシャルワーク学部)Yiting Li (ミネソタ大学 家族社会科学部)Gary Mottola (FINRA 投資家教育財団)
論文誌名・発行者John Wiley & Sons Ltd (International Journal of Consumer Studies)原著論文の言語: 
発行日・巻数・ページ2023年 (Volume 47, Issue 3, pp. 1042-1059)
原著論文の言語英語
URLhttps://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ijcs.12886
CiteDeLiema, M., Li, Y., & Mottola, G. (2023). Correlates of responding to and becoming victimized by fraud: Examining risk factors by scam type. International Journal of Consumer Studies, 47(3), 1042–1059. https://doi.org/10.1111/ijcs.12886

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