Personal, environmental and behavioral predictors associated with online fraud victimization among adults(成人のオンライン詐欺被害に関連する個人的、環境的、行動的予測因子)
Vimala Balakrishnan, Umayma Ahhmed, Faris Basheer
要約
マレーシア・マラヤ大学のVimala Balakrishnan先生らによる研究論文”Personal, environmental and behavioral predictors associated with online fraud victimization among adults”は、成人がオンライン詐欺の被害に遭う要因を、個人の特性や環境、行動の観点から明らかにしたものです。マレーシアの成人を対象とした2回のアンケート調査の結果、自分は騙されないという過信や、他者を信じやすい社会的影響の受けやすさ、そして女性であることが被害リスクを高めることが分かりました。一方で、プライバシーへの意識の高さや日常的な安全対策は、被害を防ぐ決定打にはならないことも示されています。本研究は、単なる知識提供にとどまらず、人間の心理的な弱さに付け込む詐欺の巧妙さを浮き彫りにし、被害者を責めるのではなく、心理面に寄り添った対策の必要性を示した点で非常に特異で重要な意義を持っています。
研究方法
本研究は、社会認知理論(Social Cognitive Theory: SCT)という枠組みをガイドとして用いています。これは「人の行動は『個人の考え』『周囲の環境』『実際の行動』の3つが互いに影響し合って決まる」という理論です。
この理論をもとに、著者らはオンライン詐欺の被害予測モデルを作成しました。調査は、マレーシアの成人(18歳以上)を対象にオンラインの自己申告式アンケートを用いて行われました。研究の信頼性を高めるために、調査は時期を分けて2回実施されています。第1回の調査(2023年1月~2月、820名)で被害に関わる要因を見つけ出し、第2回の調査(2023年11月~2024年1月、629名)でその要因が本当に正しいのかを検証するという、非常に丁寧な「量的研究(データを数値化して統計的に分析する手法)」の手順を踏んでいます。
分析には、アンケートの多くの質問項目から共通するテーマをあぶり出す「探索的因子分析」という手法と、どの要因が詐欺被害に遭う確率を高めるのかを計算する「階層的二項ロジスティック回帰分析」という統計手法が使われました。少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに「膨大なデータの中から、詐欺被害の真の引き金になっている隠れた要因を、数学的な裏付けをもって探し出した」ということです。
この研究でわかったこと
この研究からは、私たちがオンライン詐欺について抱きがちな「気をつけていれば防げる」という思い込みを覆す、いくつかの重要な事実が明らかになりました。
自分は大丈夫という過信が最大の隙になる
「自分はオンラインのプライバシーを管理できている」「自分が被害に遭うはずがない」と強く信じている人(過信)ほど、実際に詐欺被害に遭うリスクが高いことがわかりました。過信している人は、詐欺の手口が巧妙化しているというニュースに関心を持たなかったり、自分自身の判断を過信して誰かに相談するのをためらったりする傾向があります。詐欺師はまさに、こうした「自信」や「油断」につけ込んでいるのです。
人を信じやすい優しさが狙われている(社会的影響)
他人の意見に影響されやすかったり、人をすぐ信じてしまったりする傾向(社会的影響)が強い人ほど、被害に遭いやすいことも示されました。詐欺の多くは「ソーシャルエンジニアリング」と呼ばれる、人間の心理的な隙や信頼関係を悪用する手口を使います。優しい人や共感力の高い人が、その性質を逆手に取られて騙されてしまうという、非常に痛ましい現実が浮き彫りになりました。
女性が被害に遭いやすい傾向
統計的に、男性よりも女性の方が被害に遭う確率が高いことが確認されました。これは女性がオンラインショッピングやSNSを利用する頻度が高いことや、詐欺師が用いる「感情に訴えかける手口」や「信頼関係を築く手口」が、共感力が高くコミュニティを大切にする女性の心理に影響しやすい可能性が指摘されています。
「知識がある」「対策をしている」だけでは防げない
驚くべきことに、調査対象者の多くはデジタルプライバシーに関する高い意識を持ち、パスワードの管理やセキュリティソフトの導入といった「安全な実践(行動)」を行っていました。しかし、これらの知識や行動は、詐欺被害を減らす有意な要因にはなりませんでした。つまり、どれだけITリテラシーが高く、基本的な防犯対策をしていても、心理的な巧妙な罠にかかれば誰でも被害者になり得るということです。だからこそ、「騙された人が悪い(不注意だった)」という被害者非難は全くの的外れであることがわかります。
この論文の社会への貢献
リテラシー教育から心理的アプローチへの転換の必要性
これまで、詐欺対策といえば「パスワードを複雑にする」「怪しいリンクを踏まない」といった行動面の教育(デジタルリテラシー)が中心でした。しかし本研究は、それだけでは不十分であり、「情報を批判的に見る力(クリティカル・シンキング)」や「健全な疑いを持つ力」を育む教育へとシフトする必要性を社会に提示しています。
ジェンダーや心理特性に配慮した支援の構築
女性や、人を信じやすい人が狙われやすいという結果は、対策や支援が一律であってはならないことを教えてくれます。政策立案者やプラットフォーム企業は、ジェンダー特有のネット利用傾向や、詐欺師の心理操作の手口を踏まえた、よりきめ細やかな保護の仕組みを作る必要があります。
私たちが自分事として考えるために
この論文は、行政や警察に対しては「被害者を責めない、心理的側面に配慮した啓発活動の重要性」を、支援者やカウンセラーに対しては「被害者の『人を信じる優しさ』が搾取されたことへの深い理解とケアの必要性」を教えてくれます。 そして一般市民の皆さんには、「騙されるのは無知だからではなく、人間だからだ」というメッセージとして受け取っていただきたいと思います。詐欺被害は「誰にでも起こり得る」ものです。もしご自身や周りの方が被害に遭っても、決して自分や相手を責めないでください。巧妙な心理戦を仕掛けてくる加害者が100%悪いのです。この研究を機に、社会全体で被害者に寄り添い、孤立させない温かい支援の輪が広がることを願っています。
用語解説
- 社会認知理論(Social Cognitive Theory: SCT): 人の行動は、個人の内的要因(信念や態度など)、環境的要因(社会的規範や周囲の人々など)、そして行動自体の3つが相互に影響し合って形成されるとする心理学の理論です。
- 探索的因子分析(Exploratory Factor Analysis: EFA): アンケートなどの多数の質問項目(データ)の背後に潜む、共通の「まとまり(因子)」を見つけ出し、データをわかりやすく要約するための統計手法です。
- 階層的二項ロジスティック回帰分析: 「被害に遭った/遭わなかった」といった2つの結果(二項)に対して、複数の要因(年齢、性別、過信、社会的影響など)がどの程度影響を与えているかを、段階的(階層的)に確率で計算する統計手法です。
- ソーシャルエンジニアリング: コンピュータのシステム的な弱点を突くのではなく、人間の心理的な隙や行動のミス(人を信じる心や不安感など)につけ込んで、秘密情報を盗み出したり、不正な操作をさせたりする手口のことです。
| タイトル | Personal, environmental and behavioral predictors associated with online fraud victimization among adults(成人のオンライン詐欺被害に関連する個人的、環境的、行動的予測因子) |
| 論文の種類 | ジャーナル |
| 論文の分野 | 犯罪心理学、被害者学、情報セキュリティ |
| 著者 | Vimala Balakrishnan, Umayma Ahhmed, Faris Basheer (Faculty of Computer Science and Information Technology, Universiti Malaya, Kuala Lumpur, Malaysia) |
| 論文誌名・発行者 | PLOS (Public Library of Science) / PLOS ONE |
| 発行日・巻数・ページ | January 29, 2025; PLoS ONE 20(1): e0317232. |
| 原著論文の言語 | 英語 |
| URL | https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0317232 |
| Cite | Balakrishnan, V., Ahhmed, U., & Basheer, F. (2025). Personal, environmental and behavioral predictors associated with online fraud victimization among adults. PLoS ONE, 20(1), e0317232. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0317232 |


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